前回、お話ししたとおり、今日も”点”と”面”のことについて。

 

に見える患者も誰かから感染させられたわけで、周囲を感染させている可能性もある。この状態が進めば、感染が点から面になる恐れもある」(東京医科大学 濱田篤郎教授) 
引用 - 「さらなる感染拡大の危険―新型肺炎(時事メディカル)」

 

今や深刻な社会問題になっている新型コロナウイルスの感染問題。

よくご承知のとおり、過去に類をみない感染症と称され、特に日本ではその感染拡大の様相が他国のそれと異なり、全国各地に感染経路不明の患者が点在していて、その抑制を困難にしている要因の一つになっているとされる。

未知なるウイルスが故、免疫がなく治療法が確立されていない現在、求められている対処法は、正しい知識と理解をもった個人の予防、感染リスクの低減であることは周知のとおり。

さて、
われわれの仕事場はその医療環境上、医療従事者における感染リスクが非常に高い。
私たちがもし感染、あるいは病原性微生物に汚染された器具をそのまま治療に使用すれば、健常な患者さんに感染を伝播させてしまう可能性がある、すなわち院内感染である。

現在では、国や関連学会を通して、院内感染を引き起こさないよう歯科の診療施設関連、器財などの滅菌/消毒、歯科医療従事者の防護、廃棄物処理等々についての指診、ガイドラインが示され、可能な限り準拠するよう指導されている。
上記の指診/ガイドラインは1990年代半ばに米国CDC(疾病管理予防センター)において提唱された”標準予防策(スタンダードプレコーション)”が下敷きになっている。

 

”スタンダードプレコーション 標準感染予防策ともいわれ,院内感染予防の標準対策として米国で作成された。院内感染予防対策は,米国ではさまざまな変遷を経て現在の標準感染予防策が推奨されている。これは全ての患者・医療従事者に適応され,病原微生物の感染源確認の有無にかかわらず,血液,全ての体液,汗を除く分泌物,排泄物,傷のある皮膚,そして粘膜が感染原因になりうるという考えに基づいている。”
引用 - 医学用語 解説集『スタンダードプレコーション』:日本救急医学会

 

15年近く前、以前、勤務していた総合病院においてICT(インフェクションコントロール)委員を任せられた際に、恥ずかしながら始めて知った概念である。当時の歯科では、標準予防策に基づく感染対策については、まだまだ馴染みが薄く、幾つかの歯学部病院でマニュアル(あるいは暫定マニュアル)が策定されている程度であった。委員に就いて早々に、病院長より標準予防策に基づく歯科外来感染対策マニュアル策定を命ぜられた。歯科領域の参考文献がほとんどなく、試行錯誤で作成せねばならず、歯科スタッフの同委員とともにICT委員長のもとに日参し、チェックを受けながら四苦八苦しながら作った思い出がある。
クリニック開業時には、この時に作成したマニュアルを下敷きにして院内感染対策システムをつくった。

下画像は、当クリニック開業時の院内感染マニュアル(初版)、消毒・滅菌室での作業風景。

 

 


マニュアルはマニュアルであって、ただの紙切れにすぎない。
示された事項はスタッフ皆が良く理解・共有し、実践しなければまったく意味が無い。
新人のNさん然り(まずは基本から。大変ではあるが、レポート提出)。

 


また、日々の日常で、形骸化されてしまっている部分もないとはいえない。
少々、厳しめではあるが各スタッフの作業点検を連日続けている。


先々週、当地広島で初めてのコロナ陽性患者が報告され、今週、WHOによりパンデミック宣言がなされた。新型コロナウイルスについては、未だその詳細が明らかになっておらず、感染経路も飛沫感染に加えエアゾル(空気中でウイルスと液滴が混じってゾル形成し浮遊)感染をも指摘されている(これは、米国CDCのガイドラインでは、感染経路別予防策(transmission-based precautions;空気予防策,飛沫予防策,接触予防策からなる)が適応される)。
私たちの行っている予防策にも限界はあるのは事実。しかしながら、推奨され実行可能な予防法はできるだけ取り組みたいと考えている。

まだまだ行く末が見えず、治療法が確立されていない現在、我々のすること(出来ることは)は二つ。
各個人が(かからない)予防に取り組み、そしてクリニックからは絶対に感染者を出さないこと。
決して”面”になることなく、”点”はそのまま、あるいは無くなるために。