二つ前のブログで『歯を失ってしまったら・・・』という記事を上げた。
今日はこれにまつわる話を取り上げたい。

 


先日、インプラント治療のセカンドオピニオンを求めて来院された患者さんのケース。

 

右下アゴの第二小臼歯がたびたび腫れるために、最近近所に開院した歯科医院を受診された。


X線写真を撮ったところ、病変が大きく保存することは難しいので抜歯を提案されたという。

 


続けて、抜いた後の治療の説明として


『抜歯と同時にインプラントを入れた方が良い。抜歯直後は一番骨が残っているので成功しやすい…』


『インプラントは欧米で歯を失った場合の第一選択の治療法になっている。日本は遅れているので、ブリッジや取り外し式の入れ歯がまず候補になるが…』


との説明を受けたという。

 

 

患者さんの当院での訴えは、


『この歯を残すことは難しいのですか?』
『抜いた後はインプラントにしなければいけないのですか?』
であった。

 

まず、当日の結論からいえば、
診査の過程で、歯の根の治療をすることで保存可能、抜歯は必要ないと診断した。

 

気になったのが、
『欧米ではインプラント治療が歯を失った場合の第一選択』というくだり。

 

ネットで
”インプラント 欧米 第一選択”
と検索をかけると、結構、ヒットしてくる…。

 


●欧米ではインプラントが欠損補綴の第一選択の治療法か?

 

筆者の知る限り、欧米先進国において欠損補綴のディシジョン・ツリーの第一番目にインプラント治療を上げるところはない。
たまたまアメリカで開業する友人にメールをする用があり、このことを訪ねると、
『どこの州のcon manが言ってんの?』
と、一笑に付された。

 

 

アメリカの医療制度は日本とは異なり、また、訴訟大国でもあることから、治療を開始する前にはチャージや同意書に関する相当数の書類書きが必要になる。


治療に関する同意書には、一般的に”informed consent form(インフォームドコンセント・フォーム)"が用いられる。


フォーム用紙には歯科医から受けた説明項目が列挙されており、患者さんが各々の項目について同意を示すチェックをしていき、最後に日付けとサインを行うようになっている。

 

 

 

上記、画像はオレゴン州 DBIC(Dentists Benefits Insurance Company)という団体のHPにアップされているインプラント治療のinformed consent formのテンプレートである。

*DBIC HP(https://dentistsbenefits.com/)より引用

 

 

この中に、次のような既述がある。

 

”I have chosen to undergo this procedure after considering the alternative forms of treatment for my condition, which include no treatment at all, complete or partial dentures, or fixed or removable bridges. Each of these alternative forms of treatment has its own potential benefits, risks and complications which have been explained to me.”

 

(要約)
私は、担当医から今の(歯を失った)口の状況の改善法に関し、
1)治療しない、2)可撤性義歯、3)固定性(または可撤性)ブリッジ、4)インプラント
の治療上の利点、リスク、合併症について説明を受けた。
これらの治療法を自分で良く熟考した結果として、(私は)インプラント治療を選択した。

 

 

これをみればわかるように、歯を失ったアゴの処置(欠損補綴)では、インプラント治療はその1オプションにすぎず、この治療が第一選択のものではいことがわかる。


インプラント治療は、他の欠損治療(補綴治療)に比較して、患者さんの受けるベネフィット(利益)は非常に大きい。
ただ同時に、外科治療を必要とすることから合併症を始めとする様々なリスクを伴い、全身の健康状態・生活習慣、経済的な理由など治療自体に対する制限、考慮すべき事項も多く存在する。

 

ベネフィットが大きいから、ただちに治療の第一選択にというのは早計すぎる。

実際、本ケースのような1歯欠損の場合、インプラントが他の治療(ブリッジ)より有意な治療効果をもたらすといった科学的根拠はまだ示されていない。

 

 

 


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