これまで水、柔軟性を主語にいろいろ触れてきたが、関連した歯にまつわる故事を1つ紹介したい。


歯滅びて舌存す(はほろびてしたそんす)

■意味
”剛強なものが先に滅び、柔弱なものが後まで生き残るということ”(広辞苑より)
硬い歯は抜けても、柔らかい舌は最後まで残ることからいうとされる。

この原典は、中国の歴史故事集である『説苑(ぜいえん)』(君主を戒めるために前賢先哲の故事・伝説を20巻にまとめたもの)中の「敬慎」にあるとされ、
老子が友人である常樅(じょうしょう)の病気見舞いに行ったところ、歯はすべて抜け落ちていたものの、舌だけがしっかり残っていたことを見て、「硬いが故に歯は抜け、柔らかい舌が残った」と述べたという。
これを聞いた常樅は「天下の道理はこの一言に言い尽くされている」と感動したとされる。

*ソース:日本歯科医師会 歯とお口のことなら何でも分かるテーマパーク8020https://www.jda.or.jp/park/knowledge/index37.html)より

2012年、中国の江蘇省蘇州市に建てられた老子像は、まるで「あかんべぇ」をしたように舌をだした顔の造作であった。

老子


中国国内でもこの顔を巡って物議を醸したそうだが、この像の製作者の弁は次のようなものだった。
「老子が舌を出し、歯をあらわにしたのは、れっきとした故事によるもの。 言い伝えでは、(中国古代の思想家) 孔子が老子に 『剛柔の道』 を尋ねた。 すると老子は無言のままに口を開け、歯をあらわにして舌を出した。 つまり舌は “柔” を、歯は硬いので “剛” をそれぞれ象徴する。 歳月が経ち、老子の歯はほとんど抜け落ちてしまったが、舌は依然として良好だった。 老子はこうして比喩を通して、『剛柔の道』 の問題に答えたのだ」

*ソース:北京メディアウオッチ@東京http://pekin-media.jugem.jp/?eid=1600)より



さて、老子は次のような語を残している。

上善は水の若(ごと)し
水は善(よ)く万物を利して争わず、衆人の悪(にく)む所に処(お)る、故に道に幾(ちか)し。

■意味
最上の善なるあり方は水のようなものだ。水は、あらゆる物に恵みを与えながら、争うことがなく、誰もがみな厭(いや)だと思う低いところに落ち着く。だから道に近い

*NHKテキストWIEWhttp://textview.jp/post/culture/8102)より引用



はじめに戻った感があるが、孫子の説く「兵の形は水に象る(かたどる)」とほぼ同じ言い回しである。
その意味を考えれば孫子は老子に影響を与えられたことは明らかであろう。

これまでも、そしてこれからの年月においても、老子の説く無為の生き方には到底達し得ないと思われるものの、
水のように”柔軟”で”謙虚”な姿勢は大切にしたいと、
いよいよ押し迫った年の瀬に思う。