この4月より新たに3名の歯科衛生士が当院へ就職することになった。
経験豊かなベテラン衛生士2名、そしてこの春衛生士学校の卒業を迎えた、いわゆる新卒衛生士1名である。

この新卒生は在学中に就職内定し、これまでクリニックを何度か手伝いに来てくれていたが、合格発表を控えた1週間程前の時のこと。

「(合格の)自信は?」
「自己採点をした結果では、大丈夫だと思います」

「発表は見に行くんだろ?」
「いえ」

「?」(自分)
「スマホでわかりますから。結果はすぐお知らせします・・・」

それにしても今は合格発表もネットかと複雑な思いで聞く。
「頼むよ・・」

今日、第24回歯科衛生士国家試験の合格発表があった。

衛生士合格発表

*厚生労働省HP(http://www.mhlw.go.jp/general/sikaku/successlist/siken19/about.html)より

午後2時すぎ、無事合格の連絡が入る。
これまで接してきた本人の様子から安心はしていたものの、やはり試験。
合格の知らせは素直に我が事のように嬉しい。





記憶も薄れかかる25年以上前の話。自身の歯科医師国家試験発表のことを思い出した。

当時、歯科医師国家試験は3月中旬に実施され、その合格発表は4月末頃に行われるのが慣例だった。
歯学部を卒業する者の進路はさまざまながら、大半は歯科医療に従事する場所へと就職する。
4月1日付けで採用されることが多いため、歯科医師の免状がないままの社会人スタートとなる(歯科医療を執り行うためには国家試験合格と医籍登録を行わなければならない)。

大学の臨床講座に残った自分もオーベンと呼ばれる先輩の下につき、医局のシステム(しきたり、作法・礼儀といった方が適切)を厳しくしつけられながら、臨床、研究、教育の手伝いを朝から夜遅くまで行った。
それまでの生活は一新、ほぼ初日から1日の2/3以上が大学勤務という過酷な社会人生活の洗礼を受けることことになった。
新入医局員の歓迎会が終わった晩、同期が肩を寄せ合いながら言った一言は皆同じ。
「えらいとこ来たな・・・」
教授が「カラスは白い」といえば「白」。絶対君主制・完全ピラミッド階層の組織、直球ど真ん中、紛れもない”The 医局”であった。

我々はピラミッドの最下層、新入医局員はノイエスと呼ばれた。
「これノイエスにさせといて・・」、「ノイエスを呼べ」、「ノイエス誰かいるか?」
ノイエスは”マス”で取り扱われ、”個”であることはほぼ皆無。
あえて個人の区別をつけるとしたら、ノイエス1号、ノイエス2号といったところだった。

日々の仕事に忙殺され、おぼろげながら医局のしきたりが見え始めた頃、国家試験合格発表の日がやってきた。
当日は、医局からの指示もありノイエスはまとまってタクシーに乗り込み発表会場へと向かった。

車中、
「用紙に名前を書いたかどうか不安なんよなぁ」、「番号なかったらどうしょ?」、「医局にはおれんわな・・・」
ありきたりと言えばありきたりの合否判定前の会話がとびかう。
ただ、これまでの日常と違うのは、車中の一人一人がノイエス1号、2号のそれではなく、○○大学卒○○。試験の結果を待つ一個人になっていたことだった。

結果はノイエス全員が合格した。
張り出された掲示板に受験番号を見つけた時は正直に嬉しかった。

その晩、医局で合格を祝う小さなティーパーティーが開かれた。
当時、医局長だった講師の先生の挨拶が今も印象的で記憶に残っている。

「今日からライセンスを得て晴れて歯科医師としての1歩が踏み出せます」
「ライセンスを持つということは歯科医師としての業を許されるわけですが、同時に個人が行った業に対し自ら責任を持つことをも意味します」
「私たちは、この責任を持ったあなたたちに尊重の念をもって接します。歓迎します。どうぞよろしくお願いいたします」

ノイエスの番号が名前に変わったことを悟った瞬間だった。