技術士(生物工学部門)の雑記帳 -4ページ目

2011年度生物工学部会業績発表会

先月の話ですが、6月18日に東京で開催された日本技術士会生物工学部会の業績発表会に参加してきました。感想を書き残しておきます。

今年は研究や技術的な話が少なめで、個人的には少し残念でしたが、いろいろな話が聞けて勉強になりました。あと、今年から短い時間で好きなことを話してよい「ショートトーク」の企画がありました。企業に勤めながら、大学院でMOTの勉強している人や特許事務所を独立開業した人など刺激になる話がありました。いずれも私より少しの年上の方たち。自分のキャリアはどうしようか?と考える良いきっかけになりました。
全部の発表が終わるまでにかなり時間がかかり、その後の懇親会が終わる頃には新幹線の終電の時間でした。酒好きとしては二次会に参加できず無念。東京にはなかなか行けないので、色々な方ともっと話がしたかったなぁ。



プログラムはこちら

http://www.ipej-bio.com/modules/xpwiki/gate.php?way=attach&_noumb&refer=Top%2FMember%2FRenraku&openfile=110616.pdf


以下、印象に残ったものについて。

「酵母中性ラクターゼ(GODO-YNL)について-機能と応用」吉川 潤 氏
 合同酒精株式会社で製造販売しているラクターゼ(食品用酵素、Kluyveromyces由来)について。ラクターゼは乳糖をグルコースとガラクトースに分解する酵素。乳糖不耐症の人のための乳糖分解乳の製造に利用される(日本ではなじみがないが、アメリカでは様々な製品が販売されている)。最近ではラクターゼの新しい用途(食感や味の改善)への展開を目指しているそうだ。例えば、練乳製造では濃縮時に溶解度の低い乳糖が析出してザラつきが生じるが、ラクターゼ利用により低減できる(単糖は溶解度高いため)。また、還元糖量が2倍になるため、褐変反応が進みやすくなり、風味の付加にもなる。また、ヨーグルトではラクターゼを添加して発酵することで乳糖分解により甘味の向上、酸味の抑制が可能。
 

「有用藻類のための信頼性の高い凍結保存法の開発」中西 弘一 氏
 藻類は凍結保存が困難で、継代培養による保存が中心であるため、遺伝的性質を変えずに長期間保存することが難しかった。キリンビバレッジでは自社製品のキリンクロレラ株について保存方法を検討し、生存率、クロロフィル含量を低下させることなく15年間保存することに成功した。以下に、保存法のポイントをまとめる。
(1)凍結防御剤:
DMSO、エチレングリコール、プロリンを使用。3種類混ぜることで、各防御剤濃度を低くし、毒性低下(?)により、長期保存が可能になったと推測しているそうだ。
(2)凍結方法
 細胞懸濁液に凍結防御剤を添加し、-40℃までゆっくり温度を下げる。-40℃以降は液体窒素で急激に冷やすことが大事。-120℃以下では、水はガラス化し、生化学反応が停止する。一方、-40℃~-80℃くらいではわずかに水分が残っており、細胞内の生化学反応がわずかずつ進行する。また、中途半端な低温は氷の結晶による細胞へのダメージも大きい。なお、急激に低下した後は-150℃のフリーザーで保存する。液体窒素での保管は災害時のリスクが大きい。
(3)解凍
 解凍は急速解凍が好ましい。40℃の温水で0℃付近まで急速に温度をあげた後、氷中で培地などを添加して凍結防御剤を希釈してやることが大事。


「企業運命を決定づけるイノベーションの方向性」岡野 康弘 氏
 「予見困難なバイオ産業の新製品開発において、メジャー企業と新規参入企業の勝敗は新製品により新市場が創造される際に、既存製品との競合様式が直接的(既存市場)か間接的(新しい市場の開拓)であるかにより、企業の行動(直接的な場合:機能・技術の改良/間接的な場合:商品属性・ストーリーの変換)が異なり勝敗が決まる」という高山誠(新潟大・技術経営の教授)の説(法則)がある。例えば、遺伝子組換え作物ではメジャーが勝利し、抗体医薬ではメジャーが勝てなかったのがこの法則に基づいているそうだ。演者は食品などのヒット商品でこの法則を検証した。メジャーの直接競合の勝利例としては、サントリーのオールフリー(キリンフリーがノンアルコール飲料の先行ヒット商品であったが、ビール、ソフト飲料でシェアを持つサントリーはさらに改良し、カロリーなどもゼロにして勝利した)。新規参入企業の間接競合の勝利例としては①花王のヘルシア緑茶(商品属性の変換:飲料→トクホ)、②桃屋の食べるラー油(商品属性の変換:調味料→おかず)、③サントリー(スポーツ飲料のシェア低)のDAKARA(ストーリーの変換:栄養補給→余分なものの排泄)などがあり、いずれも商品属性やストーリーの変換があった。ただし、新規参入・間接競合で勝利するには、市場予測や事業のマネジメントが困難、事業化リスクが大きいなど容易なものではないことも理解しておく必要があるとのこと。