ライスナー・ノルドシュトルム解は、電荷があって角運動量が0のブラックホールの解、あるいは電荷があって角運動量が0の球対称の物体の外部の真空の解である。

計算方法や表記を工夫することで少ない計算量や少ない文字数で解を導出する方法がいろいろ提案されているが、それらが必須なわけではない。下のページではただ普通にアインシュタイン方程式を式変形するだけの単純なわかりやすい方法で解を導出する。

この解の名称は Hans Reissner さんと Gunnar Nordström さんに由来している。

最初 Nordström さんってドイツの北川さんかと思ったけど、ドイツでなくフィンランドの人のようだ。細かいことを言えばドイツ語で「川」は Strom (単数), Ströme (複数)だから仮にドイツ語だとしても北川さんとはちょっと違うのかもしれないが。Google翻訳に入れたらスウェーデン語で“Nord ström”が「北大西洋海流」と出てきた。

この人の名前の片仮名表記は「ノルドシュトルム」の他に「ノルドシュトロム」とか「ノルドストローム」とかいろいろ見かける。どう書くべきかなんてひとつに決められないがそれは別として、現地での発音はどう聞こえるのだろう。特に「s」とか「ö」の辺り、フィンランドではどうなの?

私はフィンランド語をまったく知らないが、 Wikipedia 日本語版の「フィンランド語」や「フィンランド語アルファベット」によると s は /s/ で ö は /ø/ と読むのが普通っぽい。 Forvo の「Gunnar Nordström」を聞くと、やはりなんとなくそのように言っている気がする。しかし特に固有名詞は一般論が当てはまるとは限らないし、フィンランド人の名前だからと言ってフィンランド語で読むのが正しいとも断言できない(例えば、スウェーデン語かもしれない)ので、何とも言えない。

「シュ」と書くのはドイツ語なまりなのだろうか。ドイツ語だったら ö (/œ/, /øː/) はたいてい「エ」(の段)で書かれると思う。例えば、山から熱気が降りてくる Föhn 現象とか、橋が7つあった Königsberg 市とか、高温超伝導の Schön さん等。フランス語の /ø/ だとまた違って、「ウ」(の段)で書かれることが多いのではないかな(よく知らんけど)。言語によって多少の差異はあっても、強いて言えば /ø/ はだいたい「ウ」と「エ」の間ぐらいの音に聞こえて「オ」はちょっと遠いのではないだろうか。

ライスナー‐ノルドストリョームの解」という変わった表記例も見つかる。 Goethe /ˈɡøːtə/ を「ギョーテ」と書くのと同じようなものだろう。 Nordström はロシア語で Нордстрём と表記するらしいのでロシア語で読んだのかもしれない(ロシア語の ё は /jo/)。

「ライシュナー・ノルドシュトローム解」と書いている文献もあって、 Nordström さんの「s」だけでなく Reissner さんの「ss」まで「シュ」になっている。信念をもってそう書いているのだろうか。

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今日はアインシュタイン記念日らしいので、アインシュタイン方程式の厳密解の一つであるシュバルツシルト解を紹介します。

アインシュタイン方程式とは⬇こういう式です。
𝐺𝜇𝜈 + 𝛬𝑔𝜇𝜈 = 𝜅𝑇𝜇𝜈

うまく表示されない環境があるかもしれないので画像も貼っておきます。
𝐺^𝜇𝜈+𝛬𝑔^𝜇𝜈=𝜅𝑇^𝜇𝜈

これは物質の分布と時空の曲がり方を決める方程式です。重い物体があると時空がゆがんで重力が生じることを表しています。

この方程式をどうやって解いてどのような解が得られるのか、下のページで説明します。

ブラックホールがなぜ見えないのか知っていますか?

「重力が強くて光が出てこないから」という説明だけで満足しているなら、それは状況を正しく把握できていないかもしれません。

なぜ見えないのか、本当の理由の説明を書きました。
⬇⬇⬇⬇⬇

昨日2020年4月7日の各社の報道によると、東京スカイツリーの展望台では地上と比べて時間が1日当たり10億分の4秒(1秒当たり100兆分の5秒)速く進むことが光格子時計で観測されたそうです。

その中で、「重力が大きいと時間がゆっくり進む」のような解説が目立ちました。今回に限らずそのような説明は多いです。現象としてはだいたいそのとおりですが、しかしそれは理論的に間違いです。 正しくは「(重力ポテンシャルが)低い場所では時間がゆっくり進む」であって、重力の大小は関係ありません。

天体の外部では普通は低いところほど重力が大きいのでどちらでも同じようなものですが、内部では異なります。天体の内部に入ると、重心に近づくほど、重力は小さくなりますが重力ポテンシャルが低くなります。天体の重心では重力が0になりますが重力ポテンシャルが低いのでやはり時間の進み方はゆっくりになります。

どれくらいゆっくりになるのかの計算はこうです。一般相対性理論を導く元になった等価原理を使い、重力がそれほど強くないという近似をします。すると重力ポテンシャルが0の無限遠で微小時間 d𝑡 が経過したとき、重力ポテンシャルが 𝛷 の場所で経過する微小時間 d𝜏 は

d𝜏 = (1 + 𝛷/𝑐²)d𝑡

のようになります。𝑐 は光速です。𝛷 < 0 だから d𝜏 < d𝑡 です。そして地球の周辺(地球内部を除く。)における重力ポテンシャル 𝛷 は、

𝛷 = −𝐺𝑀/𝑟

です。𝐺 は万有引力定数、𝑀 は地球の質量、𝑟 は地球の重心からの距離です。

これを使って地上とスカイツリー展望台との時間の進み方の比を計算してみます。𝑅を地球半径、ℎをスカイツリー展望台の高さとし、添え字の1は地上、2はスカイツリー展望台を表すとすれば、

d𝜏₂/d𝜏₁
= { (1 + 𝛷₂/𝑐²)d𝑡 } / { (1 + 𝛷₁/𝑐²)d𝑡 }
= (1 + 𝛷₂/𝑐²) / (1 + 𝛷₁/𝑐²)
= (1 − 𝐺𝑀/𝑐²𝑟₂) / (1 − 𝐺𝑀/𝑐²𝑟₁)
= {1 − 𝐺𝑀/𝑐²(𝑅+ℎ)} / (1 − 𝐺𝑀/𝑐²𝑅)
≈ {1 − 𝐺𝑀/𝑐²(𝑅+ℎ)} (1 + 𝐺𝑀/𝑐²𝑅)
≈ 1 + 𝐺𝑀/𝑐²𝑅 − 𝐺𝑀/𝑐²(𝑅+ℎ)
= 1 + 𝐺𝑀ℎ/𝑐²𝑅(𝑅+ℎ)

になります。𝐺𝑀/𝑐²𝑅 ≪ 1 なので 𝐺𝑀/𝑐²𝑅 の2次以上を無視する近似をしました。

具体的な値として 𝐺 = 6.67×10⁻¹¹Nm²/kg², 𝑐 = 3.00×10⁸m/s, 𝑀 = 6.0×10²⁴kg, 𝑅 = 6.4×10⁶m, ℎ = 4.5×10²m を代入すると 𝐺𝑀ℎ/𝑐²𝑅(𝑅+ℎ) = 4.9×10⁻¹⁴ になるので、時間の進み方が100兆分の4.9倍だけ速いという予測になります。 今回の観測値は両者の時間のずれが1日当たり4㌨秒(100兆分の5倍)だったようなので計算どおりですね。