昨日2020年4月7日の各社の報道によると、東京スカイツリーの展望台では地上と比べて時間が1日当たり10億分の4秒(1秒当たり100兆分の5秒)速く進むことが光格子時計で観測されたそうです。

その中で、「重力が大きいと時間がゆっくり進む」のような解説が目立ちました。今回に限らずそのような説明は多いです。現象としてはだいたいそのとおりですが、しかしそれは理論的に間違いです。 正しくは「(重力ポテンシャルが)低い場所では時間がゆっくり進む」であって、重力の大小は関係ありません。

天体の外部では普通は低いところほど重力が大きいのでどちらでも同じようなものですが、内部では異なります。天体の内部に入ると、重心に近づくほど、重力は小さくなりますが重力ポテンシャルが低くなります。天体の重心では重力が0になりますが重力ポテンシャルが低いのでやはり時間の進み方はゆっくりになります。

どれくらいゆっくりになるのかの計算はこうです。一般相対性理論を導く元になった等価原理を使い、重力がそれほど強くないという近似をします。すると重力ポテンシャルが0の無限遠で微小時間 d𝑡 が経過したとき、重力ポテンシャルが 𝛷 の場所で経過する微小時間 d𝜏 は

d𝜏 = (1 + 𝛷/𝑐²)d𝑡

のようになります。𝑐 は光速です。𝛷 < 0 だから d𝜏 < d𝑡 です。そして地球の周辺(地球内部を除く。)における重力ポテンシャル 𝛷 は、

𝛷 = −𝐺𝑀/𝑟

です。𝐺 は万有引力定数、𝑀 は地球の質量、𝑟 は地球の重心からの距離です。

これを使って地上とスカイツリー展望台との時間の進み方の比を計算してみます。𝑅を地球半径、ℎをスカイツリー展望台の高さとし、添え字の1は地上、2はスカイツリー展望台を表すとすれば、

d𝜏₂/d𝜏₁
= { (1 + 𝛷₂/𝑐²)d𝑡 } / { (1 + 𝛷₁/𝑐²)d𝑡 }
= (1 + 𝛷₂/𝑐²) / (1 + 𝛷₁/𝑐²)
= (1 − 𝐺𝑀/𝑐²𝑟₂) / (1 − 𝐺𝑀/𝑐²𝑟₁)
= {1 − 𝐺𝑀/𝑐²(𝑅+ℎ)} / (1 − 𝐺𝑀/𝑐²𝑅)
≈ {1 − 𝐺𝑀/𝑐²(𝑅+ℎ)} (1 + 𝐺𝑀/𝑐²𝑅)
≈ 1 + 𝐺𝑀/𝑐²𝑅 − 𝐺𝑀/𝑐²(𝑅+ℎ)
= 1 + 𝐺𝑀ℎ/𝑐²𝑅(𝑅+ℎ)

になります。𝐺𝑀/𝑐²𝑅 ≪ 1 なので 𝐺𝑀/𝑐²𝑅 の2次以上を無視する近似をしました。

具体的な値として 𝐺 = 6.67×10⁻¹¹Nm²/kg², 𝑐 = 3.00×10⁸m/s, 𝑀 = 6.0×10²⁴kg, 𝑅 = 6.4×10⁶m, ℎ = 4.5×10²m を代入すると 𝐺𝑀ℎ/𝑐²𝑅(𝑅+ℎ) = 4.9×10⁻¹⁴ になるので、時間の進み方が100兆分の4.9倍だけ速いという予測になります。 今回の観測値は両者の時間のずれが1日当たり4㌨秒(100兆分の5倍)だったようなので計算どおりですね。