ガラスの体温計



まだ幼かったころのある日

熱を出して

一人家で寝ていた


誰もいない家はシーンとして

縁側の障子から差す光が心地よくて

そのやさしくて温かい

光の中で

ラジオを聴いていた



ときどき

熱を測った


ガラスの体温計🧪の水銀があがっていくのが

不思議だった


その水銀の膨張力がどうして起こるのか

正体を確かめたくなってきたわたしは

その気持ちを我慢できず

歯でガリッと水銀の溜まっているところをかじった


体温計が割れ

中から銀色の球が

コロコロ布団の上に転がり落ちた


大きな球をおいかけて

ひらおうとすると球は潰れ

仁丹のような珠が沢山

キラキラ光って転がった


水銀は体内に入れると死ぬかも知れない…




もうやがて毒が体に回って

死んでしまうのかも知れないと思いながら

みんなが帰ってきたときの私を想像したりしていた


でも何故か

そのことより


体温計を壊してしまったことが怖くて

母に叱られるのでは無いかとおもうほうが

怖かった


この子は何故こんなこんなことを…

何故って…

わたしにも分からないんですお母さん


困った子です





まだ幼いころのわたし①