第177話 『パラドックスマン』  (Bパート)

 

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マキノハラ
「それで…
 
 用事の伝言とは、アレックス健在と言う事かね?」
 
カナート人
「こりゃ、いけねぇ。肝心の事を忘れてたわ。
 
 いやね、
 時間逆転を成功させて、世界から消えてしまった時…
 ああ、そりゃ、もちろん、
 こっちから見て消えた~なんだが。
 
 彼自身は元の世界に、一切干渉出来なくなってしまった。
 だから、私が代理で、
 『元の世界で誰かに何か、伝える事はあるか?』
 と、聞いた。
 
 一人に一度だけ、可能なのでね。
 
 すると彼は少しだけ考え、君を指定した。
 
 ただ最初は、伝言は無かったんだよ。
 微笑んで、うなずくだけでね。
 
 で、私が、
 『それではちょっと困る。伝える言葉は無いのか?』
 と聞いたら、
 今度は、もう少しだけ考え、
 
 『ありがとう』
 と言っていた。」
 
マキノハラ
「アレックスが、わしに?
 ありがとうか?」
 
カナート人
「そう。」
 
マキノハラ
「わしは… 彼に別に何もしていない。
 
 時々話を、聞いてただけで。」
 
カナート人
「それは、私は知らないよ。
 事情は全く、わからないしね。
 
 ただ、まあ、そう言う事だ。」
 
マキノハラ
「そう…か。
 
 ありがとう。」
 
カナート人
「うん。」
 
マキノハラ
「アレックスは、幸せだったのか?
 
 成した後悔より、成さない後悔の方が大きい。
 とは言うが、
 時が経てばまた、気持ちが変わるのも人間だ。
 
 その時は、成す事しか眼中になくとも、
 成し遂げて一月経ち、一年経ち、十年二十年経てば?
 
 いや、
 それはその時、本人にしかわからんのだろうな。」
 
カナート人
「余計なお世話かも、知れんが、
 彼には家族は、いないようだった。
 
 研究に打ち込めた人生も、君と言う理解者の存在も、
 彼なりに、幸せだったんじゃないかな?
 
 幸せの形は、人それぞれだろう?」
 
マキノハラ
「わしと… フィルくらいだったな。
 PCT反転に、好意的な反応だったのは。
 
 ああ、昌河くんは絶賛してたそうだ。
 フィルが伝えていれば…
 
 いや、もう、全ては詮無いか。
 思うだけしか、出来ないのでは。」
 
カナート人
「そうでもないさ。
 
 誰かには影響ある。
 それで変わる事もある。」
 

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【京都北方 上空】

 
ナルザ星人の円盤と、空中戦中の≪アーク2号≫。
空軍機が何機か、光線を受けて墜落して行きます。
 
急加速・急減速で、光線を交わす≪アーク2号≫。
 
ナワテ
「円盤のくせして、運動性良いなあ。」
 
ゴウリ
「それでも、避けたがると言う事は、
 当たればダメージは、あるんだろう?
 
 機首にシールドを集中して、
 思い切って突っ込むぞ。」
 

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【街中】

 
タバコを吸っている、文原警部。
 
文原
「ハラ、減ったな…。」
  
その向こう側の、ショーウインドウに、
ジャグリングしている、道化師が映ります。
 

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マキノハラ

「これで、君の使命も終わって、
 次の時まで、存在しなくなるわけか?」
 
カナート人
「多分ね。
 
 いわゆる「移動」するのか?「消滅」するのか?
 私自身はそれを見れないし、外部から見れる物も無いので、
 システムや、真相はわからないけど。」
 
マキノハラ
「見れる物なら、喉から手が出るほど見たいが…
 観測の限界だろうなあ。
 
 観測者も神ではないし。」
 
カナート人
「まあね。
 それは私もだよ。
 
 ちなみに、私に付き合ってくれていた以上、
 その間は君も、本来の時空の中では、
 存在していなかった事になる。
 
 厳密には、この体験の時空がね。」
 
マキノハラ
「あ…?
 
 ああ、そうか。
 わし自身は連続して存在していても、途中がか。
 
 全身麻酔で、気がついたら起きてたみたいに?」
 
カナート人
「そうだね。
 
 入眠の瞬間には、その意識や記憶はなく、
 まだ起きてる…と思った次の瞬間、
 途中の記憶を飛ばして、起きてるみたいな感じにね。
 
 この場合は、外の…
 本来の時空の人間が、君を見たらの話で、
 君自身は全部見て、覚えているわけだが。
  
 それじゃあ、ここを通常に戻すよ。」
 
マキノハラ
「ああ、色々ありがとう。
 
 こう言うのも、変かも知れないが…
 君も、達者でな?」
 
後ろを向きのまま、片手をあげて答えながら、
カナート人は、ドアに向かって歩き、
そのまま消えました。
 
時計の秒針が動き出します。
 

 
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【本州 長野西部山中 】

 
細菌怪獣ザフィラグラと戦う、ゾフィ。
 
爆煙を避けるゾフィの、後を追うように、
爆発が連続して起こります。
 
ナワテ
「OKです。
 やって下さい。」
 
ゴウリ
「待たせやがって。
 食らえ!」
 
電磁放射砲が、発射されます。
  

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【科学センター 所長室】

 
マキノハラ
「アレックスは… 満足だったのか?
 
 自分の好奇心、挑戦欲を見たし、信念を貫き、
 それと引き換えに、こちらの世界の全てを失った。
 
 友人も家族もいない。名声も称賛も何もない。
 そんなステップに進んで、それでも?
 それでも満足だろうか?
 
 でも、それが人間が?
 
 俗世で生きていれば、冒険家や挑戦者を、
 日常を捨てた、愚か者とも見なすが、
 一方では、うらやましく、
 日常に甘んじる自分を、軽蔑もする。
 
 本音は、どっちなのだろう?
 どちらも本音だから、矛盾か?
 
 いや、少なくともアレックスの場合は、
 行った先に、新しい世界があったはずだから…
 
 そうなると、成功した挑戦者であり、
 失ったわけではないのか?
 
 こちらの全てを、失ったと言うのは、
 こちら視点の、見方であり、
 こちらの全てを、失う代わりに、
 あちらの、全てを得たと思えば…?」
 

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そんな事を考えていると、ノックがしてドアが開きます。

 
コグレ(副所長・科学センター)
「所長、
 9研の、新型ミサイルの試射レポと、
 あと、頼まれてた物ですが…
 
 いやぁ、全部はとても無理です。
 これでも、午前中…
 
 あれ?
 何か、ありましたか?」
 
マキノハラ
「あったと言えば、あったのかも知れんが…
 
 何でだね?」

コグレ
「いえ、なんか…
 
 そんな、お顔と言うか、
 半分くらい、心ここにあらず見たいな感じで。
 
 でも、
 あったと言えばあったって、何ですか?」
  
マキノハラ
「なんて言うか、その…
 
 わし視点では、あったと思うんだが、
 他者に証明出来ん。
  
 一切、出来んのだ。
 
 だから、まあ、これが、
 事実だったのか?
 
 夢か?
 何かの錯覚か?
 
 今となっては、わし自身も、
 どうも、自信が無いと言うか…」
 
コグレ
「はあ…
 
 他者への証明、前提で考えたら、
 私もまあ、そう言う事はしばしばありますが。」
 
マキノハラ
「そうか。
 あの体験だけを特別視するのも、また主観かな?
 
 そう言えば君は、アレックスを覚えとるかね?」
 
コグレ
「アレックス…???
 
 ああ、もしかして、
 アレックス・ロンバート博士ですか?
 
 覚えてますよ。
 世界三大頭脳の一人でしょ?
 
 P対称性を作る事によって、PCT反転を起こし、
 粒子的な時間の逆転が、可能になるって説。
 
 気になる説でしたが、実験装置だけを残して、
 密室のはずの実験室から、行方不明ですよね。
 
 自説の間違いを、恥じて逃げたなんて、
 影口言う人もいたけど、とてもそうは思えない。
 
 ただ結局、それっきりで死亡扱い、
 死亡と言うのが… 今でも残念です。」
 
マキノハラ
「死亡か…
 
 永久に、世に戻ってこなければ、
 世間的には、そうなるだろうなあ。」
 
コグレ
「残念ですが、そうですね。
 
 でも、博士は生きてますよ!」
 
マキノハラ
「なに?
 なぜそれが、君にわかる?
 
 それに、死んでいるのに生きているって、
 パラドックスじゃないかね?」
 
コグレ
「い、いえ、わかるわけじゃ無いですよ。
 それに、シュレーディンガーでもありません。
 
 ほら、人は忘れられた時が、
 死って言うじゃ、無いですか?」
 
マキノハラ
「ああ、そう言う意味か。」
 
コグレ
「ええ。
 でも、私は、本当にそう思います。
 慰めとか、精神論とかじゃなくて。
 
 だって、ロンバート博士を思い、
 博士の説や知識、研究を使うって事は、
 博士が存在していなかったら、出来なかった事です。
 
 博士の直接の、存在が消えても、
 それ以外の人の行動が、影響を受け続ける、
 変わるって事は、やはり、
 他の全ての人の中で、ある種、存在している…
 
 そんな風に思えるんですよ。」
 
マキノハラ
「存在していなくなったが、存在しているか…」
 
窓の外を見る、マキノハラ博士。
戻って来ると、机の上のファイルを見ます。
 
マキノハラ
「新型ミサイルの試射…
 
 平和のためには兵器がいる。」
 
コグレ
「パラドックスですが…」
 
マキノハラ
「人間自身が、一種のパラドックスだから、
 人の行う、世の物は全てが、
 どこかしら、矛盾しとるのかも知れん。」
 
コグレ
「好きだった研究を、仕事にしたはずなのに、
 いつの間にか、嫌になったり、
 好きだった相手と、結婚したはずなのに、
 いつの間にか、けんかになったり…」
 
一度視線を外すと、パイプに火をつけます。
 
コグレ
「あれ、所長。
 今週は禁煙じゃ、無かったんですか?」
 
苦笑いするマキノハラ博士。
 
マキノハラ
「そう言えば昔一度、アレックスにも言われたなあ…
 
 ま。
 パラドックスだよ。」
 
【第177話・終わり】

 
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