今年もいよいよ待ちに待った電王戦が始まりました。ご存知のように第二局に関して少しすったもんだがありまして、記事のアップが遅くなりましたが、これから第五局まで、通して語り部風に進めていこうと思います。お付き合い下さい(((^^;)
今年はあらゆる意味で実験的な環境が用意されていた。まず会場を普段将棋など絶対行わないような場所を転々とする。また対戦相手にはロボットを置くという驚愕の一手。否が応でも人間 vs コンピュータという対立構図を際立たせていた。
一方、使用するコンピュータはスポンサーが用意するPC1台で、プログラムも昨年11月に行われた電王トーナメント後から、対戦相手に貸し出し、一切の改変をしないでそのまま対戦当日を迎えることになっていた。
前者は余りにも普段と違う対局場所で且つ、得たいの知れないロボットが対面に鎮座しているということで、対戦する棋士にとっては不利な条件であるが、後者はそれを補って余りあるぐらいの好条件であろうとみられていた。
第一局を観るまでは。
そして余りにも将棋をするには似つかわしくないテニスの聖地、有明コロシアムにて第一局がはじまった。
局面は振り飛車と居飛車の対抗形に進んでいく。菅井竜也五段の5筋位取り中飛車に相手の習甦は△6三銀で構えるオーソドックスな構え。ただ玉の位置がよくある△3二玉ではなく角を3三に退かしての△2二玉で、4三に銀ではなく金を持ってきているのには一瞬違和感を感じた。
しかし、よくよく見ると4二にいる銀を玉頭の2三に据えれば、よくある銀冠に落ち着くわけで、これも先入観のなせる業、そこまで悪いことは無いのであろう。
暫く淡々とした駒組が続き、昼休憩前に大きな分岐点が現れた。菅井五段が▲5八飛→▲7八飛と中飛車から三間に振って歩交換を狙おうとしたのに呼応するように、習甦も△7二飛と飛車を同じ筋に据えたのだ。こっちには飛車の頭に角がいる。そこで逆に相手から歩交換を狙われる形になったので、その角をどこにどかすかということになった。
解説の鈴木八段はしきりに▲8八角を勧めていた。相手が8筋の歩を伸ばしてきたら、▲5八金→▲4七金と高美濃囲いを構築して、△8二飛とまた8筋に戻せば、▲7七角と戻り、ゼロ手で囲いを強化できるというような内容であった。
しかし、昼休憩を挟んだ長考後に菅井五段が選んだ手は果たして▲8八角ではなく▲6八角であった。
この時、私の脳裏に過ったのは、第1回電王戦での米長永世棋聖が、ようやく開けた角道を相手の角交換要求に、△4四歩として再度拒んだ手であった。眼光炯炯(がんこうけいけい)な相手に恐れを成して、目を逸らしたあの一手。
この菅井五段の▲6八角にも同じ思いを抱いた。後に市販ソフト『激指』での解析では、この局面では実は先手が+300と有利を保っており、後の△5四歩の次の手、角道を開ける△4五歩を▲同歩と取った所で互角になったが、▲同銀と取っていればまだ先手は有利を保ったままでいけたらしい。
鈴木八段の解説では▲6八角は相手からの攻めを誘った手とのことだったが、それはまるで200局に迫る練習対局により、その恐ろしさを十分に味わったことによる目に見えない圧迫感から逃れるかのような手に私には写った。
実はこの時点で、もはや勝敗は決していたのではないかというぐらい、その後は変幻自在な指し回しを魅せる習甦のワンマンショーとなった。
菅井五段には普段の実力が出せない残念な一局になってしまったが、逆に習甦にとっては相手の力を出させない会心の指し回しとなった。これは素直に習甦を誉め称えるべきであろう。菅井五段にはこの電王戦を通してもっともっと強くなってほしいし、また違う大舞台でその強くなった勇姿を観てみたい。
ソフトの事前貸出はその対戦相手の癖を知ることができるので、大きなアドバンテージだが、一方で酷い負かされ方をすると知らず知らずのうちに恐怖心が植え付けられるというデメリットがある。
今後出てくる棋士たちがどうやってその恐怖心と戦っていくのかも注目される。
第二局は、招かねざるごたごたに巻き込まれた佐藤紳哉六段がいかに平常心を保ってコンピュータと戦えるかという点が興味深い。今度こそ人間の持つコンピュータには無い強さというものを見せてほしい。
第二局につづく