夜驚症~④迫りくる死の矢 | タマネギの流氷漬け

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将棋を中心に、長男・次男の少年野球等、子供たちの日々の感じたことに対して書いていきます。

このシリーズは当初子どもの話で終わるつもりだったのですが、私自身の体験談も一緒に書いたほうがより関連性がはっきりするだろうと思いましたので、補足します。

今までは子どもの夜驚症について書いていましたが、実は私も子ども時代にその夜驚症を体験していました。

記憶で残っているエピソードは二つあり、どちらも小学校時代で風邪を引いて熱を出してコタツで寝ていたところでした。一つ目は急に起き出して台所にあったお餅を口に入れ、2階に駆け出し寝室の布団に潜り込んだもの。もう一つ目は大声で喚きながら外に駆け出していったというものでした。

後者の記憶の一部始終は後で親から言われて固定されたものですが、記憶の断片は驚くことに今でも鮮明に残っているのです。

“それ”が現れたのは熱が出てウンウンと疲れきっていたときでした。“それ”は、いきなり目の前に現れました。そう、まるで酷く鋭利な矢が飛んできたかのように“それ”は私を貫こうとやって来ました。その時私はこう叫びました『死にたくない!』。 “それ”から何としてものがれたい一心で、 『わーっ!』と、外に駆け出して行きました。

“それ”の現れる前兆とも言うべき嫌な感覚も残っています。ムンクの叫びの空のような強力なうねりの中に突然放り込まれ、異次元からあの死の矢が飛び出してくるのです。

この感覚は実は学生時代に覚醒時、二度追体験しているのです。パニック障害という言葉が今ではピッタリですが、その体験は予備校生時の受験勉強に追われているときと、大学で体育会系のクラブ活動の合間のオフでの電車乗車中だったときです。どちらも疲れきっていたという共通点があり、症状も同様で、例のうねりの中に突然放り込まれ、動悸がして息苦しくなり、まるで体がブラックホールの特異点に吸い込まれてギュッと潰されるような感覚に襲われました。

このパニック障害的な感覚と前出の熱で魘された時の感覚(医学的には熱せん妄)は今思えば酷く似ているのです。

そういえば数年前にタミフル関連の転落死事故のニュースが数多く報道され、様々な議論を巻き起こしていましたが、私個人の体験を元にして考えると、どの症例も高熱が引き起こした熱せん妄状態が引き起こしたものではないかということです。現に私はタミフルなど抗ウイルス薬など無い時代で外に駆け出しており、それが高所で起こっていたら間違いなく転落死してことでしょう。

この熱せん妄は②で述べましたが、睡眠して1~2時間後に多いとされ、ノンレム睡眠期なのでその行動を全く覚えていないことが多いそうですが、私のように断片的に覚えていることもあったり、なかには鮮明に覚えている例もあるようです。

その鮮明に覚えている例を新聞の投書よりご紹介します。

48歳女性。FluB型。夕朝夕の計3回タミフルを服用し体温は37℃になった。夜中、突然、目の前が真っ赤になり、ベッドに太い鉄柱が突き刺さり、ベッドが回転し始めた。体に爆音をあげ炎が燃えるジェットエンジンが巻きつけられた。どんな障害物も突き破るパワーを持ったように感じた。他方、これが問題の幻覚かと冷静に判断できる自分もおり、必死でベッドにしがみついていた。

市川宏枝:タミフル服用, 夜中に幻覚が:朝日新聞,2007年3月8日「声」


いや、私の体験など屁みたいなもので凄まじいことこの上ないですね(笑)。この例は記憶があまりにも鮮明なのでレム睡眠期の悪夢とも思われそうですが、実際にベッドにしがみついたという腕に力が入っていたのなら、体の休息のレムではなく、脳の休息であるノンレム睡眠時の出来事とも考えられそうです。


すこし脇道に逸れてしまいましたが、私のこのような体質はどうやら息子にも影響、つまり遺伝していると思われる記述があります。ここでは夜驚症を睡眠驚愕障害と呼んでいます。


睡眠驚愕障害をもつ小児は睡眠驚愕または睡眠遊行の家族歴を有することが多い。生物学的第1度親族では、この障害の有病率が10倍に増加しているという。しかし正確な遺伝様式は知られていない。


睡眠驚愕障害の発症時には、発症誘因が20%程度に認められる。


●恐怖:怖いテレビドラマや本

     交通事故やガス爆発の体験や目撃

     暴力を伴う身体的いじめ

●緊張:入園、入学、学校行事、叱られたこと

●興奮:家族旅行、遊園地などの楽しい興奮


誘因としては上記に示したように、恐怖、緊張、興奮などがほぼ同数ずつ認められる。睡眠驚愕は誘因のあった当日の夜か、遅くとも数日以内に出現が確認される。他の80%では誘因は確認できない。


発症誘因の有無と年齢との関係をみると、7歳以下で発症する場合は誘因が確認されるのは15%程度と少ない。これについては、誘因になった出来事があっても、患児が低年齢の場合は母親に上手に説明できなかった可能性があり、また遺伝素因を保持している小児がある年齢に達して発症閾値が自動的に低下し、誘因なく発症した可能性も考えられる。


しかし8歳以上で発症した場合は、誘因を70%と高率に認め、誘因としては執拗な身体的いじめや交通事故の体験など、強いストレスが多い。これより低年齢で発症した場合よりも高年齢のほうが、心理社会的因子の関与が大きいと推測される。つまり8歳以上で発症するものの多くは外傷後ストレス障害、PTSD類似の発生機序が推定される。

―星加明徳:睡眠驚愕障害(夜驚症):小児内科Vol.35増刊号2003 P847


上記の文献では自身の豊富な臨床データから7歳以下と8歳以上で明確な違いがあると推定しているがよりその違いに踏み込んだ文献(夜驚症ではなく熱せん妄ですが)があるのでご紹介します。


熱せん妄の発症機序は不明であるが、この病態には小児の発達期における睡眠、覚醒、自己意識、感覚受容、自他の区別などに関する系の機能的変容が関与していると考えられる。幻視や後頭部優位の高振幅徐波は、視覚連合野やα律動形成にかかわる系の障害を示唆、睡眠脳波でのCAP(continuous alternating pattern)構造は睡眠の不安定性を示唆、覚醒障害としての夢中遊行からの類推では脳内に機能的に覚醒と睡眠が混在する状態が想定され、デフォルト状態の脳という観点からみると、自己意識に関与する系と感覚情報の受容や処理にかかわる系の遮断が病態に関与する可能性が考えられた。



(中略) 小児(7~9歳)では成人に比較し、default mode network の中の前頭葉系と前頭葉の機能的結合(後部脳梁膨大部皮質と内側前頭前野など)が未熟とされる。これは8歳過ぎから前頭前野の体積が急に増加するという報告とも関連するかもしれない。



(中略) もともとシステムとして未熟なdefault mode networkの中で頭頂葉内側系が機能低下に陥り、自己意識の混乱、visual awarenessの低下による幻視、前頭連合野からの抑制も低下し、見当識障害、情動不安定、統制のなくなった発語につながった可能性がある。つまり熱せん妄では自己意識(自己定位)に関与する系と感覚情報の受容や処理にかかわる系の遮断が病態に関与する可能性が考えられる。熱せん妄自体が10歳を過ぎると少なくなることは、この系の発達と密接に関連すると思われる。 

-久保田雅也:いわゆる熱せん妄の病態:小児科 Vol.51 No.7 2010 P935~941


最後に子どもを見守る側の親への語りかけのようなやさしい目線で書かれた文献がありましたのでご紹介します。


夜驚と夢中遊行は、生まれつき夜驚をおこしやすい脳を持った子どもにみられます。おこしやすさとは、考えや運動を調節する大脳皮質と、怒ったり笑ったりすることに関連する大脳辺縁系のバランスが悪くなったとき夜驚や夢中遊行はおこります。成長とともにバランスの悪さが改善され、数年以内に夜驚や夢中遊行もなくなります。


(中略) 夜驚や夢中遊行をおこす子どもは心理的なきっかけがあってもなくてもおこすと考えるべきでしょう。


(中略) 夜驚の子どもが泣き叫ぶのは眠ってからの1時間半くらいで通常おこりますので、午前2時以降にはじまるような子どもは夜驚ではないこともあります。また、嘔吐や尿失禁を伴う場合もてんかんである場合がありますので、小児科医に相談した方がよいでしょう。


(中略) 日常生活のなにかを変えることによって夜驚や夢中遊行を減らすことはできません。強く叱った日に夜驚が増強することもありますが、叱らなければならないときは叱ってかまいません。また、旅行や遊園地など楽しい経験で夜驚が増強することもありますが、これもやめる必要はありません。夜驚がおこったときの対応はただ見守っているだけでよいでしょう。無理に目を覚まさせようとしても目は覚めません。押さえつけてもよい効果は期待できません。夢中遊行の場合は事故が起きないようにすることです。具体例を挙げますと、階段を降りたがる場合は一階に寝かせ、ガラス製品などを廊下に放置しないことです。


(中略) 夜驚や夢中遊行はお子さんによくみられることで、原因は成長過程における脳の一過性のバランスのくずれですから自然になくなります。てんかんなどの病気が隠れていることもありますが、非常に稀ですから強調する必要はありません。相談にきた母親のほとんどは心理的な要因を心配し、特に育て方について自信をなくしている場合が多いように思います。自責的な気持ちから養育に関する失敗を打ち明けられることもよくあります。(中略)頑張ってという直接的な表現ではなく、苦労をねぎらうことや困難な状況に耐えていることをほめることで、お母さんが再び頑張る気持ちを持てるようにすることが大切です。

―飯山道郎:睡眠(夜泣き・夜驚・夢中遊行):チャイルドヘルス Vol.9 No.4 P13~14


子どもの脳はまだまだ成長過程であり夜驚や夢中遊行があったとしてもけがをしなように親が落ち着いて見守ることが大事だということですね。最後の文献を読んで何か肩から力が抜けたような楽な気持ちになりました。これからも子どもたちにはいつもと変わりない姿勢で接していこうと思います。ではまた。