蝶の舞 | サバンナとバレエと

サバンナとバレエと

ブラジルからの便り

中学生のころ、



親友と歩いていたら、ふとアゲハ蝶が一匹私の胸に止まった。

間違いを気づいたのだろう。次の瞬間にもうすでに高く飛んで行った。

ラッキーだと喜んでいたら友達が言った。


‘僕、蝶って割合と好きなんだ。



‘誰でも好きでしょう?



‘ああ、だけど意味があるんだ。ほら、蝶ってさ、ぜんぜん慣性がない飛び方するだろう?



物理で習ったばかりの言葉を使った。

慣性(inertia)とは運動の状態を続けようとする性質を意味するが、この性質は質量が関係しているので、蝶のように軽いものには慣性がないように見える。

たしかに蝶ははまったく予想できない飛び方する。方向も高さも一瞬一瞬変わっていく。



‘慣性が無いってことはさ、過去を背負わない事じゃないのかな?


‘過去が嫌い?


‘いいや、そんなんじゃなくて、どんな過去でも一瞬一瞬忘れていく事かできたら、もっと自由になれるんじゃないかな感じ。 第一忘れるべき、思い出すべきなんて選んでいたら、自由にはなれないよ。


‘だけど無理でしょう?そんなの。



‘ああ、だから蝶をみるのが好きなんだ、無理だから。




慣性の無い飛び方、それからずうっと胸にしまった。

随分あとにビニール袋が風に舞うのをみて、ああこれもと思った事もある。



大人になって、あの日の友のさりげない言葉がどれだけ美しいものなのか理解した。



過去に惑わされないこと、その一瞬一瞬、素直に周りに対応していくこと、


仏教の教えのように美しい。



あれから蝶を見る度、あの会話を思い出す。







サバンナとバレエと

                 Credits: Antonio Machado