ジャングルに迷ったとき2 | サバンナとバレエと

サバンナとバレエと

ブラジルからの便り

今日はセーハ・ドス・オルガンスの話のつづきです。




















例のロライマ山
から帰ってきた長女は登山が予想外困難だったと話していた。
















‘あんまり苦しいから気を失うじゃないかと思った時もあったよ。





‘よかったね、何事もなくて。





‘違うよ、気絶したいと思ったんだ。





‘気絶したかった?どうして?





‘だって気絶したら挫折できるでしょう。





‘自分で中止する事、出来ないの?





‘だめ、出来ない。





きっぱりと言った。








呆気にとられていると長女は言った。





‘ねえ、私のこうゆうところってさあ、ママにそっくりだと思わない。



















正直なところまったくそうだと思う。





私もとにかく頑固者で断念する事がまったく苦手だ。





実は断念するのが怖いのだ。





一回するとその後から簡単に放棄しはじめる気がしてそれが怖い。





ようするに強いのではなく不器用。
















セーハ・ドス・オルガンスでも挫折するより死んだほうがましだと意固地になっていた。





まったく大袈裟な話だが。同じ道を戻るのはぜったい嫌だった。





どうせ困難なら前へ突き進んだほうが楽だと思った。










セーハ・ドス・オルガンスは断念するのも勇気がいることが初めて悟った体験だ。
































二日目の夜、もうすでに十時をまわっていた。私達はまだ目的地に辿り着いていなかった。





目印のキャンプファイアーはだいぶ近くなって見えたけど、雨はだいぶ強くなっていて懐中電灯もひとつしか無かった。





ちろちろ見える火は50メートル位上のほうだった。この雨の中どうやって火を燃しているのかなっとちらっと思った。








暗くて道が分らなかった。








‘オーイ


叫んでみた。








‘オーイ、上のほうから答えてきた。








‘道はどこだー。







‘左。左へ行けー。













なるほど道らしきものが見えた。私達は足元を気をつけながら、何歩か歩いた。








‘気をつけて。





突然、Kが叫けんだ。





ふと気がつくと左側は絶壁だった。





恐怖で足が凍りずいた。





小路は真っ暗な絶壁のふちを通っていた。










ああ。だめだ。心細さが胸を横切った。










‘オーイ。だめだー。







‘オーイ。左だー。左。













私達は三回試みて三回もどった。








どうしよう。





どんどん強く降りつける雨のなかで疲れ果てて、途方にくれてしゃがみこんだ。






















‘オーイ。畜生助けてくれー





実際にKの彼氏が叫んだスラングは‘畜生なんて生易しいものではなかったが。

























‘オーイ、どこだー





やがていくつかの懐中電灯の光が近づいて来るのが見えた。





ああ、有難い。この雨のなか来てくれた。





山での人情はあついと聞いていたが、あの時は本当に感謝の気持ちで一杯になった。













彼らはキャンプ場まで導いてくれテントをはる手伝いまでしてくれた。

















そこには石で出来た大きな炉がありそこには大きな焚き火がさかんに燃えていた。





道理で雨の中でも消えないわけだった。







焚き火の周りにあつまった人たちの間には愉快な空気が流れていた。





いくつかの日焼けした楽しそうな顔が照らされていた。





コニャックの瓶が手から手へ渡っていた。





寒い中、焚き火とコニャックで身体は暖められ





先程の不安感はうそみたいに消えた。





私達は和気藹々とした会話に入り込んでいった。
















つぎの日、異様な音で目がさめた。森林警備隊のヘリコプターだった。








少年がひとり行方不明になっていた。







つづく





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      今日の画像はロライマ山の高山植物。誰かの手で作られたみたいですね。




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           肉食植物