
風と共に去りぬ 第4話
山陰から、ヘッドライトの光りが・・・・
車ではないようだ。
すがる想いで、近寄って来る光を止めようとすると
向こうから止まった。
1台のバイクである。
「真治さん!」
「お前は・・・・あの時の・・・・・」
そう、いつかの暴走族のリーダーらしい、あいつである。
「やっぱり、来て良かった・・・・」
「どうしたんだ?」
暴走族のリーダーは話し始めた。
「あんたは、覚えていないだろうけど、昔、オレ・・・あんたに
助けてもらった事があるんだ・・・・」
「え?」
「あんたが長州連合の頭(リーダー)をやっている頃に
闘争事件があって、殺されそうになった・・・あの時・・・」
「あんたは、悪いのはこいつらじゃない!悪いのは、
こいつらのバックにいるヤツらだ!と言って、見逃して
くれたんだ・・・・オレも嫌々やらされていて、
その一件で、そいつらから、逃げる事ができたんだ・・・
覚えていますか・・・・?」
そう、真治が1番、荒れていた頃の話しだ。
「いつか、恩返しを・・・・と思っていたんだ・・・」
「さあ!オレのを使ってくれ!!」
「良いのか?」
「藍さんを助けるためなら、壊したって良いんだぜ・・」
「ありがとう!!恩に着る!!」
「ところで・・・このバイク・・・大丈夫なのか・・・?」
「ハハハハ・・・このバイクは、見てくれは悪いが、ゲンさんが
仕上げたマシンだ!乗れば、びっくりするさ・・・」
真治は半信半疑ながら、血液を積み替え、そのいびつなマシンに
跨り、エンジンを掛けた。
「悪いな、じゃ、借りるゼ!」
タイムリミットが迫っている中、真治はバイクを走らせる。
なるほど、あの、リーダーの言っていた意味が良くわかった。
タイヤの隅々まで自分の神経が行き渡るようなバイクであった。
「間に合うぞ!行ける!藍!待ってろよ!今、行くからな!」
ゲンさんの得体の知れなさに疑問を持ちながら
藍の待つ病院へ向った。
正直、真治の体力も限界にきていたが、本能が走らせた
それと信頼できるマシンのおかげで150kmを一気に
走り抜けた。
「着いた!間に合った!!」
ゲンさんや漁師のみんなが、諦めかげんで腕組を
して病院の待合室で待っていた。
「お~!真治!よく戻って来てくれた!ありがとう!これで
藍も助かるぞ!」
みんなも、涙を流しながら、喜んでくれた。
久々のゴールであった。
でも、耐久レースのゴールよりも嬉しかった。
しかし、真治も限界であった、血液を渡すとスイッチが
切れるように、待合室のソファーに倒れ込んだ。
どれくらい眠っていたのだろう
カーテン越しに射し込む夕日と数人の話し声で、目が覚めた
「あ!藍は・・・・どうなったんだろう・・・?」
目覚めた真治に漁師の一人が気づき
「真治君、やっと目が覚めたみたいだね」
「藍は・・・藍さんは、どうなったんですか?」
「あ~!君の頑張りのお陰で、手術は大成功だったよ!
よく頑張ってくれたな!」
真治は人に見られたくない涙を拭きながら病室へ入った
射し込む夕日の中に藍の手を握りしめたゲンさんがいた。
「真治!ありがとう!ありがとう!お前さんのお陰で
藍は・・・藍は助かったよ・・・」
ゲンさんは、真治を抱きしめた。 その目頭には涙が
光っていた。
「良かった・・・・本当に良かった・・・・・」
「ゲンさん・・オレ・・・初めて人の役に立ったような気がする・・・
そして・・始めて、人を恋しいと思ったような気がする・・」
幼い頃に両親を亡くし、親戚の家へ預けられ、ありふれたように
グレ、暴走族時代に闘争・・・・運良く、才能を認められ
レースの世界へ、のめり込んで行った真治は、
自分では気づかなかったが
いつも、触れ合いや愛情に飢えていた。
また、始めての感情で、自分自身、戸惑いでもあった。
朝のうちは、そんなに暑くなかったのに、昼過ぎにもなると
爽やかな潮風は熱風に変わっていた。
そんな中、真治は漁師達といっしょに浜の仕事をしていた。
「真ちゃん!そろそろ、お昼ご飯にしようか?」
「はい!ありがとうございます!」
浜のオバちゃん達が作ってくれる昼食を漁師達に混じって
食べる
「あんた、良く働くようになったね!それに肉付きも良く
なって・・・もうイッパシの浜の男だよ!」
真治は照れ臭そうに答える
「はぁ・・・」
「ところで、藍ちゃんは、どうなんだい?」
「ゲンさんの話しでは、かなり良いらしいんですが・・・」
「あんた、行ってやらなくて良いのかい?」
「はぁ・・・気にはなっているんですが・・・ゲンさんが
働けない分、自分が、その穴埋めをしないと・・・・」
「ハハハ・・・何か・・・ゲンちゃんとこの御婿さん
みたいだね!」
「いや・・・そんな事は・・・・・」
「今日は、もう良いからさ!行っておやりよ!
みんな!良いだろ? ほらほら、良いってさ!」
「え・・・ ホントに良いんですか?」
「そうと決まったら、ホラ!行った、行った!」
真治は、藍に会いたい気持ちを押さえていたが、もう・・・
止まらなかった
止まらなかった
「藍・・・藍・・・・」
あれから1週間しか、経っていないのに病室の前に
来ると胸がドキドキしていた。
ドアをノックし病室に入るとゲンさんの姿はなく
エアコンの効いた部屋でスヤスヤと寝ていた
やさしい寝顔だ。
真治は抱きしめたかった、この愛しい小さな体を
抱きしめたかった。
押さえきれず、眠っている藍の唇に、そっとキスをした
感情が高ぶって真治の目から涙が零れ落ち、藍の
頬に落ちた
「あ!真治さん・・・」
「あ・・ゴメン・・起こしちゃったね・・・」
「いいの・・いつのまにか、寝てしまっていたんだわ」
「真治さん、あの時は、ありがとう・・・大変だったでしょう?」
「いえ・・・」
「でも・・・あんな事は、やめて下さいね・・・・」
藍の目が潤み涙が零れた
「あたし・・・もう人を失うのは嫌・・・あたし・・・真治さんを
失うの嫌・・・・」
真治も藍も自分の気持ちを押さえる必要はなかった
抱き合い唇を重ねた
ふと、後でドアの開く音がした
「お~!真治!来ていたのか・・・アレ?オレ・・悪い所へ
来たみたいだな・・・・へへへ!」
「いえ・・・・」
二人は、顔を赤らめ、下をうつむいた。
「しかし、今回は、真治に、お世話になったな、ホント
良く頑張ってくれた・・・正直、諦めかけていた所も
あったが・・・真治は命の恩人だ。」
「いえ・・オレだけでは、やり遂げられなかったですよ・・・
あの、暴走族のリーダーの助けがなかったら・・・・あ!」
真治は、自分のバイクを置き去りにした事、バイクを借りっぱなしに
している事を思い出した。
「お~!そうだ、そうだ!お前のバイクはカズが、うちに
持ってきてるぞ。」
「そうですか・・・?良かった!」
真治は、今までの溜まり溜まった疑問をゲンさんに
ぶつけた。
「オレのバイク・・・すごく乗り安くなっていたんですが・・・」
「あ~!あれか・・・ どこをどういうという事ではないが
プラグを換えるついでに、目についた所を、ちょっと
いじっただけさ」
「そうですか・・・そしてリーダーのカズ?のバイクも
外見こそ、族仕様だったんですが、乗ってみると
エンジンの吹け、ハンドリングが異常によかったんですよね」
「あいつは、子供の頃からの付き合いでな、あの古い
バイクが好きでな、どうしても、いじってくれ・・・なんて
いうもんで、ちょこちょこっと、いじってやった事が
あったんだがな・・あいつは、あの後、言いつけ通り、
ちゃんとメンテを していたんだな・・・」
そして真治は、質問の核心に、突っ込んで行く
「あの・・・」
「何だ?」
「あの・・・もしかして・・・昔、チューニングの仕事か
何か、していたんですか?」
「ハハハハ・・・前にも言ったろ!ただの趣味じゃよ」
真治は、思い切って聞いたのだが、見事に
はぐらされてしまった。
真治は・・・「このタヌキオヤジ・・・」と思ったが
顔には、出さなかった。
横で微笑む、藍の笑顔をみていると、どうでも
横で微笑む、藍の笑顔をみていると、どうでも
よくなってしまった。
それから、ゲンさんは、付け加えた
「あ~!真治!あん時のお前のバイクの故障な・・・」
「はい?」
「ククク・・・ガス欠だったみたいだ・・・!!」
「え~?」
真治は、藍の事で頭がいっぱいでガソリンを入れるのを
忘れていた事を思い出した
「え~?恥ずかしい・・・・!!」
ゲンさんはニヤニヤと笑うばかり・・・
顔を赤らめながら、窓辺を見ている
藍に目を向けると、笑いをこらえながら藍の肩がゆれていた・・・・
数日が過ぎ、藍の病状も順調に回復に向っていた
真治も仕事の合間をぬって藍の病室へ訪ねた
ゲンさんも仕事が忙しく、次第に真治と
二人でいる時間が増えて行った、真治は、ここへ
このまま、永住しても良いとさえ思っていた。
レース界から逃れて3ヶ月が過ぎた頃、
久しぶりに携帯の電源を入れてみた。
画面を見ると、着信履歴が山のように残っていた
チームの監督、メーカーのお偉方、スポンサー・・・
その中にヒロの着信履歴があった。
真治は、1度、掛け直そうとしたが、ヒロの近況を
聞くのが恐く、掛ける事ができなかった。
このまま、ケジメもつけず、ダラダラと逃げ回っていても
仕方がない事は真治も分かっていたが、今は心の
整理がついてなく、決断する勇気もなかった。
つづく