
ONE DAY 第4話
それから、しばらくして、利雄の頭の中からバイクの事が消えようと
していた時だった。
残業がなく、定時で仕事が終わり、電車に乗ろうと、大通りを
歩いていた時だった。
「利雄!利雄!」
と呼ぶ声がする。
振り返ると、声の主はユウジだった。
「お前!何やってんだ?」
「ハハハ・・・ あれ以来だな~! ここのバイク屋でオイル交換
してもらってるんだ!もう少し暇がかかるみたいだから、お前も
寄っていったら?」
「そうだな・・今日は少し時間も早いしな・・・」
「おやっさん!こいつ、オレの同級生なんだ!」
「やああ!いらっしゃい!」
「こんにちわ~!バイクにも乗ってないのに、お邪魔して・・・」
「ハハハ・・・ いや、別に構わんよ、それよりユウジ!お前!
もう少し、早めにオイル交換に来いよ!メチャクチャ汚れて
るじゃないか!」
「す、すいません・・・ オレ、いつも、こんな風に、
怒られてんだ~!」
「へへへ・・ ユウジ!お前、学生の頃から、変わんね~な!」
「ユウジ!そらそうと、今度のツーリング!何処へ行くんだ?」
「あ・・・ まだ、ちゃんと計画してないけど、海辺でも走って
陽が暮れたら、民宿でも泊まって・・・かな・・・・」
「そうか!じゃ、足回りからチェーンも見とくぞ!」
「はい!!お願い!!します!!」
「そうか・・・ 一人旅か・・・・ 羨ましいよ・・・・」
「ハハ・・・ オレには家族がいない分、自由だからな~!」
「ちょっと前に、家族で伊豆の方へ温泉に入り行ったんだ、
高速道路を走っていたら、スッゲ~スピードでよ!
抜かれちまったよ!4~5台の集団だったな・・・」
「ま、今はよ!昔と違って、道路も良くなったし、バイクの性能も
よくなってる!200km/hなんて、あっという間だぜ!」
「そうなのか?オレが乗ってた頃は、180km/hが、
やっとだったぜ?」
「こらこら・・お二人さん!何km/h出た、なんてアブナイ話は
止めた方が良いぜ~!」
とバイク屋の親父が話しに割り込んできた。
「若いもんは、バイクの話になると、すぐに、これだ~!」
とユウジが
「だって・・・やっぱ、バイクはスピードだろ?おやっさん?」
「何を言ってる、そりゃあ~ 車に比べれば、スピードは出安いさ
でも、バイクは、そんな簡単なもんじゃないよ!バイクは・・・
自由な乗り物なんだ!楽しみ方なんて無限大さ!」
「いや~!また、おやっさんのボヤキが始まった~!」
「ちょっと聞いて良いですか?」
「なんだね?」
「オレ・・・昔、バイクに乗ってたんです、こいつといっしょに
走ってたんですが、結婚を機に止めてしまったんです。
もう嫁さんをもらったんだから、子供じみたバイクは乗っちゃ
いけない気がして・・・」
「ああ・・よくある話だね・・・ で、何が聞きたいんだい?」
「それが・・・最近、バイクの事が気になって、気になって
気持ちにブレーキが効かなくなってきているんですが
気持ちにブレーキが効かなくなってきているんですが
家族の事や家のローンの事を考えると・・・・ もし・・・
オレに何か、あったら・・・なんて・・・・」
利雄は、この1ヶ月くらいの自分の気持ちを吐き出すように言った
「ほ~!これまた、絵に描いたような相談だな!バイクなんて
乗り物はな!乗らなけりゃ 乗らない方が良いに決まってるよ!」
とユウジが
「おやっさん!バイク屋の言葉じゃないぜ!」
「何言ってんだ!夏は暑いし、冬は寒いし、傾けりゃあコケルし
良いとこなんざ、一つも、ありゃしね~よ!
だがな・・・・ 在り来たりの生活の場から脱出できるんだ!
どうだ!分かるか?」
「は・・・・」
「つまりは、悩むんだったら、乗るな!という事だな!乗るんだったら
勇気を出して、一歩、踏み出してみるんだな!」
バイク屋を後にした利雄は、バイク屋の親父に言われた事を
繰り返し頭の中で思い出しながら街灯の点いた大通りを駅の
方へ歩いて行った。
自宅近くの駅を出て、トボトボと歩いていると、後ろから来た
1台のバイクが利雄の横で止まり
「おじさん、じゃないか!」と声をかけてきた
「お~!この間の少年!近くなのか?」
「その先ですよ」
「ちゃんと、エンジンをかけられるようになったか?」
「うん!おじさんのコーチで、バッチリだよ!」
「そりゃあ~良かった!」
「でも・・・ バイクに乗ると、うちの親父が、うるさくって・・・・」
「ははは・・・ どこでも同じだな!親父さん、バイクに
乗らないのか?」
「いや、昔は乗ってたらしいんだけど、大怪我をして
止めてしまったらしいんだ・・・」
「そうか・・・ そりゃ中々だな・・・・」
「おじさんも、その口かい?」
「いや・・・ そうではないけど・・・まあ、似たようなもんだ・・・
実は、どうも・・・最近、眠ってた子供が起きたみたいで・・・
今、バイク屋に行って、相談したら、迷いながら乗るな・・と
言われたとこよ!」
「へ~!変わったバイク屋だね、黙ってハイハイって
言っておけば、バイクが売れるかもしれないのにね」
「そうだな!でも、それだけ親身になってくれたって
事じゃないの?」
「おじさん!オレも応援するよ!もし、乗れるように
なったら、いっしょに走ろうよ!」
「そうだな!その時は頼むよ!先輩!」
「そうだな!その時は頼むよ!先輩!」
「ハハ・・ 先輩はないよ!じゃ!」
少年は、単機筒のパタパタという音を残して暗い路地を
去って行った。
ある朝、いつものように会社に行くと、若い社員達が、窓際で
ヒソヒソと話していた。
利雄は、自分のデスクに鞄を置き、その若い社員達に
「どうしたの?」
とたずねると、その中の一人が
「実は、困った事になって・・・・」
「え?何が困ったのよ・・・この頼りになる先輩に話してごらん?」
と利雄は、おどけて言った。
「俺達、今度の土、日で、バイクで一泊ツーリングに行く事に
していたんですよ」
「ほ~!そりゃ、すげ~な! で、何が困ったんだい?」
もう一人の若い社員の方を指さして
「こいつ、親に内緒でバイクを買っていて、それがバレちまって・・・」
「ふ~ん・・・ でも、もう子供じゃないんだし、良いんじゃないの?」
「オレもそう思うんですけど、こいつんとこ、親がメチャクチャ厳しい
んですよ。それで、旅館やフェリーや何かも予約してあるし・・・
キャンセルすれば良いんだけど、それも勿体無いし・・・って話
していたんですよ」
「そうか・・・ キャンセル料は、確かに勿体無いな・・・・」
「そうだ!利雄先輩!昔、バイクに乗ってましたよね!」
「う・・・ん・・・ まあな・・・」
「こいつのバイクで、僕らといっしょに行きませんか?」
「え?そんな事、急に言われても・・・・」
「だって、頼りになる先輩なんでしょ?」
「わ、分かった!明日、返事する!それで良いか?」
「え!良いですよ!期待していますから!」
「それで、何処へ行くんだ?」
「内緒ですよ!内緒!海が近くて、潮の香りがして、山の風と
話ができる所!」
「なんだ、そりゃあ! とにかく、明日な!」
「なんだ、そりゃあ! とにかく、明日な!」
利雄は、嫁さんに何て言おうか・・・・とか、昔のウエアーがまだ
着られたか・・・なんて事を考えていて1日、仕事にならなかった。
さて、仕事が終わり、通勤電車に揺られ、自宅に着いた利雄は、
夕飯のしたくをしている、玲子に
「今度の土、日は泊まりで、接待ゴルフだからな」
と何となく、ぎこちない言い方で言った。
いつもなら、不機嫌になる玲子なのだが、今日は
「あら、そう!大変ね~!」とニコニコしながらの返事だった。
「う~ん・・・ ゆっくりしたい所だけど、仕事だからな・・・」
と呟きながら、利雄は、ネクタイを解きながら寝室の方へ
歩いて行った。
ゆっくり、寝室のドアを閉めると利雄は
「やった~!よっしゃ!」
と喜びの余り、叫んでしまった。
「あなた・・ 何か・・・呼びました?」
つづく