みんなにウツッちゃった “永ちゃん” の 「ブルーレイ」。 | げたにれの “日日是言語学”

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やたらにコトバにコーデーする、げたのにれのや、ごまめのつぶやきです。

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〓ねえ、あゝた、あゝたですよ。


   ちょいと 「ブルーレイ」 言うてみてください


〓さぁて、どう発音してはりますか?


〓このセツですな、アッシが、TVで確認したところでは、「ブルーレイ」 に2通りのアクセントがあるんでやす。


   [ ブ ↑ ル ↓ ーレイ ]
   [ ブ ↑ ルーレ ↓ イ ]

     ※矢印の意味は、↑から後を高く、↓から後を低く発音する、という意味






  【 日本語 東京アクセントのしくみ 】



〓言語のアクセントには、大きく分けて、


   高低アクセント
   強弱アクセント


の2通りがあります。この世界には、どちらか一方のアクセントを持つ言語、両方を持つ言語、どちらも持たない言語の4通りがあります。


〓また、高低アクセントにも、「音節 高低アクセント」 (=声調) と 「単語 高低アクセント」 の2種類があります。

〓古典ギリシャ語、古典ラテン語、日本語などは、「単語 高低アクセント」 を持つ言語です。また、中国語、ベトナム語、タイ語、チベット語などは、「音節 高低アクセント」、すなわち 「声調」 を持つ言語です。



〓日本語の東京方言の場合、


   「アクセント核」 (~かく)


というモノの位置が、「単語のアクセントの型」 を決定します。少しややこしいので、図解してみやしょう。5拍の単語で説明します。



   ●○○○○-○  アクセント核は1拍目 (語頭)
   ――――――――――
   ○●○○○-○  アクセント核は2拍目
   ○●●○○-○  アクセント核は3拍目
   ○●●●○-○  アクセント核は4拍目
   ○●●●●-○  アクセント核は5拍目 (語末)
   ――――――――――
   ○●●●●-●  アクセント核がない  「平板型」 (へいばんがた)


        ○ …… 低い拍
        ● …… 高い拍
        -○, -● …… 「~が、~を」 といった助詞



〓これでは、ナンのコトやらわからんので、具体的なコトバを入れてみやしょう。



   ●○○○○-○
     「アカトンボ-が」、「マツダイラ-の」、「イヤリング-を」
   ○●○○○-○
     「オカーサン-が」、「ワシントン-の」、「ニジューマル-を」
   ○●●○○-○
     「ホトトギス-が」、「ウキブクロ-の」、「ユキダルマ-を」
   ○●●●○-○
     「サッポロシ-が」、「シホンシュギ-の」、「ナメラカサ-を」
   ○●●●●-○
     「ナミノハナ-が」、「ジューニガツ-の」、「ハツデンショ-を」
   ○●●●●-●
     「ドラエモン-が」、「トナリムラ-の」、「ボールペン-を」



〓“アクセント核” というのは、「高く発音される最後の拍」 を言います。つまり、下に示すところの ■ の拍が “アクセント核” です。


   ○○○○-○
   ○○○-○
   ○●○○-○
   ○●●○-○
   ○●●●-○
   ○●●●●-●


〓最後の ○●●●●-● にはアクセント核がありません。言い換えると 「発音の山、高低のクライマックス」 が無いのです。それゆえ、この型を 「平板型」 (へいばんがた) というわけです。高いには高いが 「頂点がない」 から、「平ら」 なんですね。


〓ここでは五拍の語を例にあげましたが、四拍でも三拍でも理屈は同じです。


〓上記のアクセントは、アッシの使用しているアクセントで、『日本国語大辞典』 でウラを取りました。
〓これらの中には、複数のアクセントが通用しているものもあります。たとえば、「アカトンボ」 は、今では、「○●●○○」 と発音するヒトがほとんどでしょう。五拍語の 「頭高」 (あたまだか) の和語は、明治以降、「○●●○○」 に移行してしまったようです。同類の語には、「陣羽織」 (じんばおり)、「肩車」 (かたぐるま) があります。


〓伊集院光さんは、昭和42年、東京都荒川区 (下町) の出身ですが、


   ラジオで 「肩車」 (●○○○○) と発音する


のを聞いたことがあります。つまり、このアクセントの移行は、いまだ進行中である、ということですね。


〓歌舞伎のような古典芸能では、こうしたアクセントが保存されています。また、「松平」 (まつだいら) というのは、ヒトサマの名字 (みょうじ) なので、勝手にアクセントを変えないほうがよろしゅうガショウ。


〓以前、TBSの 「土曜ワイド ラジオTOKYO」 で、レポーターが小説家の 「五味康祐」 (ごみ こうすけ) さんのお宅にオジャマして生中継したことがあります。レポーターが、


   ゴミコースケ-サン ○●●○○○-○○ 「五味康祐さん」


を連発していたら、五味さんが、


   「あの、ボクは “ゴミ” ○●じゃなくて、“ゴミ” ●○なんですけど」


と申し訳なさそうにオッシャッてましたナ。つまり、


   ゴミ-コースケ-サン ●○●○○○-○○


なんです。


〓歌舞伎、講談では、「松平」 のアクセントは厳格に守られています。武士には 「松平」 の名字を名乗る人物が多いですから。




〓上には6通りのアクセントの型をあげましたが、


   ○●●●○-○
   ○●●●●-○


は非常に少なく、ある種の合成語にしか現れないようです。例を探すのに苦労しました。


〓ところででゲスな、見てわかるとおり、


   語頭の高い ●○○○○-○ 式と
   アクセント核のない ○●●●●-● 式


を除くと、きわめて規則的に、


   2拍目で高くなり、その後、任意の拍で低くなる


という形式であることがわかります。つまり、東京方言の単語は、


   どの拍までが高いのか ── すなわち 「アクセント核」


を示しさえすれば、その語のアクセントの型を記述できるのです。たとえば、ローマ字を使えば、まるで英語のアクセントを示すように書くこともできます。


   Nézu = [ ネ ↓ ズ ] 根津
   Akásaka = [ ア ↑ カ ↓ サカ ] 赤坂
   Marunóuchi = [ マ ↑ ルノ ↓ ウチ ] 丸の内
   Omotesándō = [ オ ↑ モテサ ↓ ンドー ] 表参道


〓あるいは、単語のあとに 「アクセント核のある拍」、あるいは、「アクセント核の音」 を示す数字・文字を付けて表記することもできます。


   【 根津 】 [1] / [ネ]
   【 赤坂 】 [2] / [カ1] ※「カ1」 は 「最初のカ」 の意
   【 丸の内 】 [3] / [ノ]
   【 表参道 】 [4] / [サ]


〓ただし、これらの方法で表記できないのが 「平板型」 です。よく、若い世代の発音が平板型に移行している (平板化)、ということが言われますが、その型です。


   ギター ●○○ → ○●●-●
   フレーズ ○●○○ → ○●●●-●


〓「平板化」 によって意味が分化したり、ニュアンスが変わる場合もあります。


   パンツ ●○○ 「下着」
   パンツ ○●●-● 「アウター」 (=ズボン)

   カレシ ●○○
   カレシ ○●●-●


〓「アクセント核」 というのは、“高いピッチ (調子) を打ち止めにする拍” です。つまり、「平板型」 というのは、


   終点の駅の “車止め” を破壊して、永遠に走っていってしまう列車みたいなアクセント


です。“車止め” が壊れちゃってるので、助詞にまで高いアクセントが伝染しちゃうんですね。


〓辞典では、「平板型」 のアクセントを


   【 ウクレレ 】 [0]


のように、数字の 「0」 で示すことが多いようです。「アクセント核が無い=0」 という意味ですね。






  【 あゝた、外国人の名前をどう発音していますね? 】



〓これで東京方言のアクセントのしくみがわかったと思います。


〓ところででゲスね、アッシら、外国の地名とか、海外の有名人の名前なんぞに、無意識にアクセントを付けて発音していますが、どんなアクセントを付けているか気がついていますかい?


   バ ↑ ラク・オ ↓ バマ
   ウィ ↑ ル・ス ↓ ミス
   ア ↑ ンジェリーナ・ジョ ↓ リー
   ク ↑ リント・イーストウ ↓ ッド


〓どうです。みんなオンナジ。


   ○●●●……●○○


という形式です。100%というワケではありませんが、ほとんどの場合、この方式です。すなわち、後ろから3拍目にアクセント核を置くんです。だから、未知の名前でもすぐに発音できる。数学ふうに言うなら、


   n 拍の外国人の名前は、n-2拍目にアクセント核を置く


と言えます。ただし、姓が2拍の場合は、


   グ ↑ ラハム・ベ ↓ ル
   リ ↑ チャード・ギ ↓ ア


というぐあいに、n-1拍目にアクセントが移動します。すなわち、○●●……●○ ですね。2拍しかないので、これ以上、後退できない。背水の陣ということですね。


〓しかし、一般の話者にこうした分析ができていない場合は、やはり、後ろから3拍目にアクセントを置きます。


   ホ ↑ ーチ ↓ ミン  ※本来は 「ホー・チ・ミン」 の3語から成る
   プ ↑ エルト ↓ リコ  ※本来は 「プエルト・リコ」 の2語から成る


〓ところででゲスね、日本人が、しばしば、外国人の名前をフルネームで覚えているのは、かくのごとくに、


   フルネームを1語として発音しているから


なんですね。たぶん、CD店の名前の並びがファーストネームから始まるようになったのも、


   フルネームでは覚えているが、姓名の切れ目がよくわかっていない


というケースが増えたからでしょう。アッシが子どものころのレコード店では、


   「オリヴィア・ニュートン=ジョン」 は 「ニ」
   「スティーヴィー・ワンダー」 は 「ワ」


に並んでました。


〓ところで、こうしたアクセントの法則は、日本人の名前には適応されません。日本人の名前は、姓と名をバラバラにし、2語としてアクセントを置きます。


   ヒ ↑ ガシコク ↓ バル / ヒ ↑ デオ  「東国原英夫」


〓TVのクイズ番組では、有名人の名前を 「フルネームで答えろ」 というものがありますね。


   姓だけ出てきて、名前が思い出せない


ということが、よくありやしょう? バラバラにアクセントを置いているから続けて出てこないんですね。


〓ところが、同じ日本人の名前でも、外国風の名前だと1語に変じます。


   フ ↑ ランキー・サ ↓ カイ   フランキー堺
   ア ↑ ントニオ・イ ↓ ノキ   アントニオ猪木
   ビ ↑ ート・タ ↓ ケシ     ビートたけし
   ア ↑ ンジェラ・ア ↓ キ    アンジェラ・アキ
   ボ ↑ ニー・ピ ↓ ンク     BONNIE PINK


〓しかし、外国語とオボしき要素が入っていても、日本式の名前だと判断されると、2語に分けられます。


   カ ↓ トー (↑) ロ ↓ ーサ   加藤ローサ
   ク ↓ ロキ (↑) メ ↓ イサ   黒木メイサ


〓どんなに短くても、2語から成る名前と判断されると、別々にアクセントを置きます。


   ネ ↓ コ (↑) ヒ ↓ ロシ    猫ひろし


〓ワケのわからん名前は、判断が揺れます。


   ユ ↓ ースケ / サ ↑ ンタマ ↓ リア  …… 2語に分けている
   ユ ↑ ースケ・サンタマ ↓ リア   …… 1語とみなしている


〓「語末にアクセント核のある語」、および、「アクセント核の無い語」 ── すなわち、○●●……●● 型の語のあとに、頭の高い語が来ると、見かけ上、1語のようになります。


   ヤ ↑ マモト / タ ↓ ロー    山本太郎


〓次のような名前は、この見かけ上の一語でしょう。実際には2語です。


   ナ ↑ カヤマ / エ ↓ ミリ   中山エミリ
   ツ ↑ チヤ / ア ↓ ンナ    土屋アンナ



〓1990年代に、フランスの俳優 ジャン・レノ Jean Reno が日本でブレイクしたことがありました。『グラン・ブルー』、『ニキータ』、『レオン』 が立て続けにヒットしたころです。当時のワケエシは、


   ジャ ↑ ンレノ [0]


と発音していました。すなわち、○●●●-●型で、アクセント核なしです。これは、外国人の名前の発音として、とても珍しい例です。


   名前が短く、ナニよりも、若い人たちのあいだで有名になったから


でしょう。今でも、「ジャ↑ンレノ」 という発音は優勢ではないでしょうか。法則から言えば、


   ジャ ↑ ン・レ ↓ ノ


となるハズです。


〓実は、“ガチョ~ン” でオナジミの 「谷啓」 (たに けい) さんの名前のアクセントも破格の法則外なんですが、これは、ハリウッドのコメディアン 「ダニー・ケイ」 Danny Kaye をモジッたものなので、ダニー・ケイのアクセントを踏襲しているのでしょう。
〓もし、本名が 「谷啓」 というヒトがいたら、アクセントは、


   タ ↓ ニ (↑) ケ ↓ イ


でしょう。






  【 永ちゃんのオキテ破りの “ブルーレイ!” 】



〓でですねえ、この外国人の名前に関するアクセントの法則と似たものが、「あまりナジミがないが合成語と見なされる外来語」 についても観察できるのです。語源的に正しいかどうかにかかわらず、一般のヒトに、合成語と判断されると規則が適応されます。



   【 5拍語 】 ○●●○○
   サ ↑ ーチャ ↓ ージ


   【 6拍語 】 ○●●●○○
   サ ↑ ブプラ ↓ イム
   ヘ ↑ ッジファ ↓ ンド


   【 7拍語 】 ○●●●●○○
   ト ↑ リプルル ↓ ッツ
   プ ↑ ライムレ ↓ ート
   ブ ↑ ッシュ・ド・ノ ↓ エル



〓この法則に当てはまらないとしても、合成語の第2要素がすべて低く発音されることはありません。すなわち、「アクセント核は、必ず、第2要素にある」 のです。


   ア ↑ ウト=ソ ↓ ーシング 8拍  outsourcing
   イ ↑ ンフラ=ストラ ↓ クチャー 10拍  infrastructure
   セ ↑ クシャル・ハラ ↓ スメント  10拍
   コ ↑ ンビニエンス・スト ↓ ア  10拍
   ド ↑ メスティック・バ ↓ イオレンス  12拍


〓固有名詞の法則が、一般の外来語で崩れることが多いのは、合成語を成す個々の単語を、すでに知っているからです。たとえば、「ストア」 はよく知られた○●○型のアクセントですモンネ。



                 CD               CD               CD




〓では、以上のことを踏まえて Blu-ray、すなわち、「ブルーレイ」 を発音するとどうなりますか? そうですね。


   ブ ↑ ルー・レ ↓ イ


ですね。おそらく、たいていの日本人なら、「ブルー+レイ」 だろう、と考えるハズです。つまり、


   アクセント核は、必ず、第2要素たる “レイ” にある


ということになる。だから、「ブ ↑ ルーレ ↓ イ」 ですよね。


〓ところがギッチョンチョン。TVで聞いていると、次の2通りのアクセントが聞こえてきます。


   (1) ブ ↑ ルーレ ↓ イ
   (2) ブ ↑ ル ↓ ーレイ


(2) は日本語としては掟破り (おきてやぶり) なんですね。合成語の後ろの要素がアクセント核を失っている。しかも、「おかあさん」 と同じアクセントです。

〓なぜ、こんなアクセントになったか、と言えば、


   みんなが、永ちゃんの口マネをしたから


にちがいありません。CMの 「ブ ↑ ル ↓ ーレイ」 がウツッちゃった。


〓ならば、ナゼに、永ちゃんは、こんなふうにアクセントを置くのでしょう? それは、おそらく、


   英語風に発音したから


ですね。
〓英語においては、2語から成る合成語の場合、第1要素に主アクセントを置き、第2要素に副アクセントを置く、という法則があります。



   Whíte Hòuse 「ホワイト・ハウス」
     whìte hóuse とアクセントを置くと、「白い家」 の意味になる

   wóman dòctor 「婦人科医」 (=woman's doctor, gynecologist)
     wòman dóctor とアクセントを置くと、「女医」 の意味になる

   bláckbìrd 「クロウタドリ」
     blàck bírd とアクセントを置くと、「黒い鳥」 の意味になる



〓つまりですね、英語の場合、


   Blú-rày 「ブルーレイ」
   blùe ráy 「青い光線」


という呼び分けになります。すなわち、永ちゃんは、


   Blú-rày!


と言うているカンジなのです。


〓日本人は、どうしても、強さアクセントを、高さアクセントに変換して聴き取ったり、発音したりします。たとえば、


   「ア ↑ イデ ↓ ンティティー」 ○●●○○○○ idéntity
   「セ ↑ レンディ ↓ ピティー」 ○●●●○○○ serendípity
   「コ ↑ ンプラ ↓ イアンス」 ○●●●○○○○ complíance


といった中途半端な外来語アクセントは、明らかに、原語のアクセントと日本語のアクセント核を一致させたものです。


〓ですんで、


   英語を気取った永ちゃんの発音が、「ブ ↑ ル ↓ ーレイ」 と聞こえる


と、こういうことなんです。


〓それゆえに、


   外来語の合成語のアクセント規則を破るような、
   稀代の 「おかあさん」 型アクセントの “ブルーレイ”


が誕生した、と、そういうワケなのです。