雨の日の “身辺抄” ―― あるいは、「シンフォリカルポス」 と 「シンフェローポリ」。 | げたにれの “日日是言語学”

げたにれの “日日是言語学”

やたらにコトバにコーデーする、げたのにれのや、ごまめのつぶやきです。

   シンフォリカルポス花



〓一昨日、雨の中、雑用をかたづけるために、クルマで出かけました。と、


   車道に堂々と自転車を止めて、ケイタイでメールを打っているヤツがいる


〓裏通りですが、交通量は必ずしも少なくありません。5メートル幅の歩道があります。それにもかかわらず、ツツミシタ似のコデブの男子高校生が、


   路肩から1メートルも車道に入ったところ


に自転車を止め、サドルにまたがったまま、左手でカサをさし、ウスラ笑いを浮かべながら、一心不乱にメールを打っている。


   コイツ、アホじゃなかろか


〓フツーにクルマを走らせたら、完全に轢 (ひ) いちゃいますがな。

              雨          雨          雨


   菅野美穂チオビタ

〓残額にオロオロしながら、銀行で金をオロし、マツキヨで、菅野美穂さんの愛情のこもったチオビタを 2箱 (試供品つき) 買いました。計22本ですね。


〓あまり知られていませんが、チオビタとリポビタンDは、成分が寸分たがわす同じなのです。しかも、値段はウンデイである。しかも、チオビタにはカンちゃんの愛情が入っている。


〓それから、コンビニに寄りまして、グラビアのチェックです。 山本梓 さんがありました。“特冊新鮮組DX” です。キチンとしたオトナは買いません。それと、不祝儀袋を1つ。



   山本梓表紙

   “特冊新撰組DX” と不祝儀袋


という買い物は、ニンゲンとしてどうなのだろう。




  【 グラビアアイドルの行方 (ゆくえ) 】


〓どうもですね、山本梓 さんのグラビアというのは、いっこうに下火にならないんです。同期のグラビアアイドルをならべてみましょうか。ファースト写真集の出た年で分けてみましょう。こういうコトにはウトいヒトのために、ヨミガナもつけます。


   【 1999年 】
     小池栄子 (こいけえいこ)
     ほしのあき


   【 2000年 】
     安めぐみ (やす)


   【 2001年 】
     小倉優子 (おぐらゆうこ) “ゆうこりん” です
     磯山さやか (いそやま)
     MEGUMI


   【 2002年 】
     若槻千夏 (わかつきちなつ)
     根本はるみ
     山本梓 (やまもとあずさ)
     熊田曜子 (くまだようこ)
     安田美沙子 (やすだみさこ)
     和希沙也 (かずきさや)


   【 2003年 】
     小野真弓 (おのまゆみ)
     井上和香 (いのうえわか)
     夏川純 (なつかわじゅん)


“ほしのあき” さんは、1999年にファースト写真集を出していますが、ブレイクしたのは、おそらく、2005年から2006年にかけてです。年齢はイッテますが、上のヒトたちより経歴は短い、というイメージがあります。


〓“ゆうこりん” こと小倉優子さんは、やはり、今でも雑誌のグラビアは多いようですね。若槻千夏、根本はるみのお二人は、グラビアの活動期間が短くて、今から思い返すと、ファースト写真集が 2002年だったというのが信じられません。

〓 2003年組の小野真弓、井上和香、夏川純の3人は、グラビア雑誌で見ることがメッキリ少なくなりました。このグループでは後輩ですよね……


安めぐみさんは、このグループでは、ちょいと早い 2000年なんですが、このあいだも、「週刊プレイボーイ」 に巻頭のグラビアで登場してました。



   安めぐみプレイボーイ



〓やはり、今でもグラビア雑誌の掲載回数が多いのは、小倉優子さん、熊田曜子さん、山本梓さんの3人でしょう。そのなかでも、“あずあず” こと山本梓さんの露出頻度はダントツという感じです…… なぜなのかな。




  【 “シンフォリカルポス” 】


〓な~んてことを考えながら、ガソリンスタンドに寄りまして給油。あいかわらず高うガスな。ついでにタイヤの空気圧を高めにしてもらいます。


〓それからスーパーで買い物でゲス。


   レタス

   レタスが小さくて高い!



〓おいおい。ソフトボール大で 198円だと? フシギでさあね。レタスってえのは、ちょいと天候が不順だと、とたんに値段が跳ね上がる。そういう作物ですね。


〓とね、花売り場で、珍しいものを見つけました。このスーパーではついぞ見たことがありません。



   シンフォリカルポス実

   シンフォリカルポス


〓知らないヒトも多いんじゃないかな。日本語版の Wikipedia では立項されてません。和名を 「セッコウボク」 (雪晃木) とも言います。英名は、


   snowberry 「スノーベリー」 (雪のようなベリー)


〓なかなか風流な名前ですね。


〓日本人にわかるように説明するなら、小さな白玉 (しらたま) が群がってついている木の仲間です。
〓思わず食べたくなるような、フシギな質感の実です。そう、


   シンフォリカルポスは、実の状態で花屋にならぶ


のです。黄色い花が、赤い実になってから花屋にならぶ 「ヒペリカム」 hypericum と同じく、いわゆる “実物” (みもの) です。


〓この “シンフォリカルポス” の実を2つに割ると、断面は、


   
      シンフォリカルポス図           シンフォリカルポス実カット



のごとく2気室に分かれていまして、それぞれに、小さな白いタネがはいっている。ピーマンに入っているような小さくて白いタネです。


〓「シンフォリカルポス」。北米原産で、出まわり時期は9~10月。スイカズラ科。“シンフォリカルポス” という名前は、よくあるパターンで、


   学名の属名 (ぞくめい) をそのまま流用したもの


です。


〓「属名」 ですから、同じ属名の種 (シュ) が他にもたくさんあります。これが、園芸種の “通用名” の困ったところです。よく通用する 「種」 (シュ) を属名で呼んでしまうから、あとがグダグダです。同じ属の花があとから入ってくると、名前が混乱したり、区別ができなくなったりします。


〓日本で、“シンフォリカルポス” の名で出まわっているのは、


   Symphoricarpos albus [ スュンぽリ ' カルポス ' アるブス ]
        「シンフォリカルポス・アルブス」


らしい。 albus の部分を 「種小名」 (しゅしょうめい) と言います。ラテン語の 「白い」 という基本的な形容詞。“実が白い” ことを言っているんでしょう。


〓しかし、外来の花というのは、名前が覚えづろうガスな。“シンフォリカルポス” ねえ……。「シンフォニー」 に似ているが非 (ひ) なり。



〓語頭に、 Syn-, Sym- のつく語は、必ずや、ギリシャ語に由来します。 Symphony 「シンフォニー」、 Symposium 「シンポジウム」、 Synchronized Swimming 「シンクロナイズド・スイミング」。


〓では、“シンフォリカルポス” の語構成を見てみやしょう。


   συμφέρω sympherō [ シュン ' ぺロー ] 「集まる」
   καρπός karpos [ カル ' ポス ] 「果実」


〓この2語の合成語です。


   φέρω pherō [ ' ぺロー ] (荷を)かつぐ、運ぶ


というのは、ギリシャ語の基本中の基本の動詞です。


〓キリストという単語と合成すると、次のような名前ができます。



   χρῑστο- Khrīsto- ← Χρῑστός Khrīstos [ くリース ' トス ] キリスト
    +
   φορ- phor- ← φέρω pherō [ ' ぺロー ] 背負って運ぶ
    ↓
   -ος -os  「形容詞をつくる接尾辞」
    ↓
   Χρῑστόφορος Khrīstophoros [ くリース ' トぽロス ]
             「キリストを背負って運ぶところの (者)」
    ↓
   Christopher 「クリストファー」 英語
   Christophe 「クリストフ」 フランス語



〓「クリストフォロス」。小さな男の子に姿を変えたキリストを、それと知らずに背負って川向こうへ渡してあげたことからこの名がある、と伝えられています。


〓ところで、「シンフォリカルポス」 の場合は、動詞が合成語の第1要素になっています。



   συμφορι- symphori- ← συμφέρω sympherō [ スュン ' ぺロー ] 集まる
    +
   καρπ- karp- ← καρπός karpos [ カル ' ポス ] 果実
    +
   -ος -os  「名詞をつくる接尾辞」
    ↓
   συμφορίκαρπος symphorikarpos [ スュンポ ' リカルポス ] 「群れて実る果実」



〓「シンフォリカルポス」 を “群れて実る果実” と名付けるのは、実物を見ればすぐにナットクがいきます。


〓ただし、上の造語法はどうもおかしいんですね。「シュンポリ~」 というぐあいに、語と語の接合部で -i- を挟むのはラテン語の造語法なんです。造語要素はギリシャ語なので、これは間違いです。


〓第1要素が動詞の場合、ギリシャ語では、現在語幹か、アオリスト語幹を使います。なので、


   συμφερκαρπος sympherekarpos [ スュンぺ ' レカルポス ] 「シンペレカルポス」


とすべきでした。植物学者のすべてがすべて、複雑なギリシャ語の造語法をマスターしているわけではなく、ハチャメチャなものも少なからずあります。





  【 「コンスタンティノポリス」 と 「シンフェローポリ」 】


〓先日は、ギリシャ人が建設した植民都市 “スフミ” について書きました。黒海沿岸というのは、ギリシャ人の居住域からは、船に乗れば容易に移動できるために、たくさんの植民都市がありました。ですから、この地域には、ものすごく昔からギリシャ人が住んでいるし、地名にもギリシャ語のものが見られるのですね。


〓ロシアのクリミア半島には、


   Севастополь Sjevastopol' [ シェヴァス ' トーポり ] セヴァストーポリ
   Симферополь Simfjeropol' [ シムフィェ ' ローポり ] シンフェローポリ


という大きな都市があります。これは、「コンスタンチノープル」 Cōnstantīnopolis と同様に 「~ポリス」 というギリシャ語の都市名なんです。


〓正式なラテン語音なら、


   Constantinopolis [ コーンスタンティー ' ノポりス ] コーンスタンティーノポリス


です。
〓英語名の


   Constantinople [ ˌkɑnstæntə'noʊpəl ] [ ˌ カンスタンタ ˈ ノウパる ] コンスタンティノープル


で覚えているヒトが多いと思いますが、これは、ラテン語形がフランス語で訛った語形を受け継いだものです。
〓イタリア語では、 Costantinopoli [ コスタンティ ' ノーポり ] と後ろから3音節目のアクセントを保つことができるので、語末では -s が落ちているだけです。
〓しかし、


   フランス語は、アクセントのある音節からアトの母音はすべて消えてしまう


という特性があります。
〓そのため、語末の音が 「クチュクチュ」 っと寸ヅマリになります。以前、 「英語のアリストテレース Aristotle には、なぜ、 -s がないのか」 について説明したことがありますが、原因は同じです。


〓語末が、 -nópolis [ ~ ' ノポりス ] ですから、フランス語では ó 以下の母音 o と i を抹消しなければならない。すると、



   -nópolis [ ' ノポりス ]
    ↓
   -nópoli [ ' ノポり ] 俗ラテン語
    ↓
   -nóple [ ' ノプるゥ ] [ 'nɔplə ] 原フランス語
    ↓
   -nóple [ ' ノプる ] [ 'nɔpl ] 現代フランス語



となります。語末の -e は、 pl を読ませる記号として残存しているのです。


〓北イタリアを中心とした現代イタリア語の諸方言 (標準語であるトスカーナ方言も含む) では、 -is, -ēs に終わるラテン語彙の一部が、現代語で、対格に由来する -e ではなく、 -i に終わる場合があります。たとえば、


   Giovanni [ ヂョ ' ヴァンニ ] ← Iōannēs [ イヨー ' アンネース ] ヨハネ
      ※これに対し -e で終わる語形 Giovane [ ヂョ ' ヴァーネ ] が、
       Google イタリア国内限定の検索で 1,210万件ヒットする。


   Napoli [ ' ナーポり ] ← Neāpolis [ ネ ' アーポりス ] ナポリ
      ※ナポリ語では Nàpule [ ' ナープれ ] と言う


   crisi [ ク ' リーズィ ] ← crisis [ ク ' リスィス ] 危機


      ※イタリアの各方言で以下のようになる。

        トスカーナ crisi
        ボローニャ crîsi
        パドヴァ  crisi
        ピエモンテ crisi
        レッジョ・エミリア crisi
        モデナ  crîsi
        シチリア crisi
        カターニア (シチリア島) crisi
        サルディニア crisi
        ヴェネチア crixi  x = [ z ]
        ジェノヴァ crixi  x = [ z ]

        ――――――――――
        コルシカ crisa
        ナポリ  
crisa
        ニース  
crisa  ※オック語 (南仏の言語) の方言 
        サビーナ (ウンブリア) crìsa
        フリウリ crise

        ※ -a は女性名詞であることから、 -e → -a と変化したものか



crisi-crise
赤い記号は CRISI となる地域。青い記号は CRISA, CRISE となる地域。



〓「コンスタンティノポリス」 もこの類に属し、イタリア標準語 (トスカーナ方言) では、


   Costantinopoli [ コスタンティ ' ノーポり ]


となります。


〓ギリシャ語 (コイネー=東ローマ帝国の共通語) では、


   Κωνσταντινούπολις Kōnstantīnūpolis [ コーンスタンティーヌ ' ウポりス ]
      「コーンスタンティーヌーポリス」


です。 Constantinus 「コーンスタンティーヌス」 というローマ皇帝の名前は、純粋なラテン語彙なので、ギリシャ語の地名にこの皇帝の名を戴くときに、


   接合母音をギリシャ語式の -ο- にすることを憚 (はばか) った


のではないか、と思われます。そのため、「コーンスタンティーヌス」 というラテン語の名前と、「ポリス」 というギリシャ語の普通名詞を合成する際に、変則的に接合母音を -u- にしてしまった。なので、「コーンスタンティーヌーポリス」 Cōnstantīnūpolis という奇妙な音になってしまいました。


〓それを、


   ラテン語が、ギリシャ語式に改編して、逆借用した


ために、ラテン語では、「コーンスタンティーノポリス」 Cōnstantīnopolis という風に、ギリシャ語名よりもギリシャ語らしい名前になってUターンしてきました。



   シンフェローポリ

   シンフェローポリ。駅。

〓いやはやいやはや、ハナシをガバチョと戻します。

〓で、「シムフェローポリ」 なんですが、もとは、ギリシャ語で、


   Συμφερόπολις Simferopolis [ スィムフェ ' ローポりス ]


でした。

〓 18世紀後半、露土戦争後にロシアは巧妙に立ち回り、チュルク系の “クリミア・ハン国” を滅亡に追いやり、クリミア半島を自国の領土としたのです。
〓そのときに、チュルク語の都市名を、ギリシャ語式の “シムフェローポリ” と改名したのですが、ロシア人が地名をギリシャ語に改名するという慣例はなく、おそらく、地元のギリシャ人の呼び名を採用したのではないか、と思います。

   συμφερ- simfer- ← συμφέρω simfero [ スィム ' フェーロ ] 役に立つ
    +
   -ο-   接合母音
    +
   πόλις polis [ ' ポりス ] 都市
    ↓
   συμφερόπολις simferopolis [ スィムフェ ' ローポりス ] 「有用なる都市」



〓「スュムペロー」 という動詞は、 「集める、集まる、一致する、適合する、適用される、役に立つ」 という語義を持っています。この順番で意味が広がったんですね。


〓実はですよ、日本人が 「コンビニ、コンビニ」 言うているのは、次のラテン語から派生しておるのです。


   conveniō [ コヌ ' ウェニオー ] 「集まる、一致する、適合する、適用される」
    ↓
   conveniēns [ コヌ ' ウェニエーンス ] 「一致した、適合した」
    ↓   ※ n と s のあいだに t が隠れている、つまり、 convenient-s である。
    ↓
   convenient 英語 「適切な」→「使いやすい、便利な」


〓ラテン語の con は英語の with で veniō は come。 フランス語の venir ですね。「いっしょに来る」。だから、「集まる、一致する」 なんです。


〓ところで、シムフェローポリスも、本来は、動詞語幹を使って造語するので、


   Συμφερέπολις Simferepolis [ スィムフェ ' レーポりス ]


とならなければいけないのです。


〓しかし、なんせ、18世紀のクリミア半島のギリシャ人のギリシャ語ですから、接合部に、なんでも -ο- を挟む単純な造語法になってしまっていたのかもしれません。


〓ロシア人は、ギリシャ正教を採り入れて以来、たくさんのギリシャ語彙を借用していますが、その際には、語末の曲用部分 (変化する部分) を取り去って、


   男性名詞なら 何もつけない。語幹が母音で終わっていれば  を付ける
   女性名詞なら  をつける。
   中性名詞なら  をつける。


という操作をしました。さもないと、ギリシャ語の単語をロシア語として格変化させることができません。


   πόλις polis [ ' ポりス ]


の語幹は πολι- poli- [ ポり ] なので、本来は、


   полий polij [ ' ポりイ ]
     ※あとで書きますが、正しくは女性名詞なので полия polija となるべき


として借用すべきなのですが、ギリシャ語の語幹の分析はムズカシク、 πολ- pol- [ ポる ] が語幹だと誤分析したんでしょう。


〓ならば、


   -пол -pol [ ~ポる ]


でいいではないか、と思うかもしれませんが、さにあらず。実際には、 -поль -pol' [ ~ポり ] となっています。


〓ロシア人は、л L 音について、


   dark L cleart L をきびしく峻別 (しゅんべつ)


します。ロシア人はそういう耳を持っているんです。


dark L (ダークエル) というのは、舌の真ん中をくぼませて発音する 暗い L のことです。発音記号 (IPA) では [ ɫ ] と書きます。


〓モンノスゴク専門的な言い方をすると、これは、


   軟口蓋化 (なんこうがいか) した L


と言い、その意味では、 [ ] と表記します。 [ ] と [ ɫ ] は同じものです。ここで、軟口蓋化をムズカシク説明しても意味がないので、実際的に説明すると、ある子音を、舌の中央部をスプーンのように凹ませて発音すると、「軟口蓋化音」 (なんこうがいかおん) になります。このとき、舌の付け根のほうは、必然的に持ち上がっています。


   【 主な dark L 】
     英語の単語末、あるいは子音の前の L  ── all, feel, field, help
          ※ land, delight, long などの L は clear L
     ポルトガル語の単語末、あるいは子音の前のL  ── Brasil, falso
     ポーランド語の ł 。ただし、一般人の発音では [ w ] になる。


〓英語とポルトガル語は、まったく同じ音変化を起こしています。ブラジル・ポルトガル語では、 dark L は [ w ] に変じており、 Brasil [ ブラ ' ズィウ ] のごとくになります。これと同じ変化はポーランド語でも起こっており、アナウンサー、舞台俳優などを除いて、 ł は [ w ] で発音します。


〓ロシア語は、


   л [ ɫ ] ( [ lˠ ] ) ― ль [ ] (軟口蓋化した L と硬口蓋化した L )


という対立を持っており、この中間の clear L ── すなわち、西欧諸語の “普通の L 音” ── を持っていません。


   лампа lampa [ 'ɫɑ:mpə ] [ ' らーンパ ] 「ランプ」
   лето ljeto [ 'lʲe:tə ] [ ' りぇータ ] 「夏」


〓ロシア語は、L 音について、こういう音韻体系を持っているので、ロシア人は、両者の中間音である西欧諸語の clear L (普通の L) を耳にすると、これを軟音の L ── すなわち ль ── に近いと判断します。


〓「アラスカ」 Alaska がロシア語で Аляска Aljaska 「アリャスカ」 になるのは、そのセイですし、「ソラリス」 Solaris がロシア語で Солярис Soljaris 「ソリャリス」 になるのも、そのセイです。


〓現代でも、 le, li および語末・子音の前の l を写すときには ль を使いますが、 la, lu, lo を写すときには軟子音 ль を使いません。「ソラリス」 に古い規則が適応されたのは、これが、西欧諸語ではなく、同じ L に硬軟を持つポーランド語だったからです。(原作は、スタニスワフ・レムですね)


〓英語の ~land という地名は、ロシア語では、しばしば ~ленд ~ljend 「~リェント」 となりますが、これは、


   land [ 'lænd ]
    ↓
   ль + энд  l' + end
    ↓
   ленд [ 'lʲent ] [ ' りぇント ]


というカラクリです。ロシア人は、英語の [ æ ] を э [ ɛ ] で写します。たとえば、英語の Samuel は Сэмюэл Semjuel [ ' セミュエる ] ですね。フランス人の名前ならば、 Samuel Самюэль [ サミュ ' エり ] となります。


〓そんなようなワケなので、「シムフェローポリ」 の語末は -пол -pol ではなく、 -поль -pol' なのです。この地名は、ロシア語では “男性名詞” として扱います。おそらく、ロシア語の 「都市」 город gorod が男性名詞だからでしょう。


〓しかし、ロシア語にギリシャ語彙を借用する場合は、ギリシャ語の性を踏襲するのが普通です。ギリシャ語の πόλις polis は女性名詞なので、ロシア語でも女性名詞とすべきでした。少なくとも18世紀ではなく、もっと古い時代であったら、女性名詞としていたかもしれません。

〓語幹を πολ- pol- とみなすのであれば、ロシア語形は -пола -pola とすべきだったし、語幹を正しく πολι- poli- とするのであれば、ロシア語形は -полия -polija [ ~ポりヤ ] であるべきでした。



        雨       雨       雨



  【 エピローグ 】


〓ええと、そんなことを考えながら、スーパーを出まして、クルマで帰ります。アッシは、いつもこんなことを考えているんですね。まだ、雨は降ってます。


〓と、出かけるときに通った例の裏路地にさしかかりますと、


   例のツツミシタふう男子高校生が、さっきと寸分たがわぬ
   路肩から1メートルの位置に自転車を止めたまま、あいかわらず
   ウスラ笑いを浮かべてメールを打っている


のです。「コイツ、アホじゃなかろか」 ではなかった……