パチンコ小説-23完 | パチプロ日報

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パチンコ小説第1話から読む


※まだ読んでいない方は必ずパチンコ小説第1話から読み進めて下さい。












気合を入れてスーツに身を包み、裁判所の門をくぐる。


玄関先で弁護士や管財人らが待ち構えていたので、一緒にエレベーターに乗って債権者集会の会場へと向かった。


裁判所というと法廷を想像していたのだが、会場は会議室といった感じのもので、最前列の債務者と書かれたプレートの席に座った。


裁判官や弁護人たちも同じく最前列の指定席に座り、集会開始の時刻を待った。


目の前にたくさん並べられている机や椅子は債権者用だったが、裁判官の号令で集会が始まっても1席も埋まることはなかった。


結局誰1人集まることなく債権者集会はわずか5分ほどで終了した。


聞けば今更集会に来たところで債権を1円でも回収できるわけではないのでほとんどの場合が誰も来ませんよという事だった。


ちょっと拍子抜けたが、事がスムーズに進んでいることにホッとした。


私の自己破産についても近々免責が下りる見通しだという事も確認できた。









来月1日グランドオープン。


そんなチラシ文句にも何一つ興味が沸かなかった。


低貸し専門店だからだ。


パチンコ収入で生活している私にとって1パチ等の低貸しは一切興味がない。


最近になって1パチ等の低貸しがだんだん増えてきて、4円パチンコの台数が減りつつあった。


そればかりではない。


この街にはパチンコ店がいくつもあるのだが、相次いで等価店に変更する店が続出していたのだ。


等価に変更したばかりの一時期はおいしかったが、すぐに打てない釘調整に変わり果ててしまった。


等価は見返りが大きいと一般客は喜ぶのだろうが、釘調整はひどいものばかりだし持ち玉遊戯の利を生かせないので、私にとっては全く喜ばしいものではない。


釘も全く動きがないので等価店に変わってしまった店には行くことすら無くなっていった。


エースは相変わらず3円交換で頑張っていたので、貯玉無制限無料を生かせばまだまだ打てる調整はあり、次第にエースにばかり行くようになっていた。



そんな時だった。



いつも通り開店と同時に入店した。


入口近くに貼り出されたポスターが目に止まると共に思わず足も止まった。






来月から貯玉2000発まで無料に変更させて頂きますという内容だったからだ。









頼みの綱のエースが貯玉2000発まで無料に変更となってからは稼働時間がめっきり減ってしまった。


2000発以内に持ち玉ができて1日打ち切れればいいのだが、MAXタイプ等を打てばたいていはあっさり使い切るか当たっても途中で持ち玉が無くなる日が続いたからだ。


一応回る台なら現金を足すこともあったが、それも午後2時までとしていた。


稼働時間の減少は収支に大きく響いた。


ただでさえ釘状況の悪化と共に収支が落ち込んでいたのに、さらに落ち込んでしまっていた。


悔しいが自分ではどうにもできない環境の変化に対応し続けなければならない。


それでも結局は打たなければ1円にもならないのだ。









いつも通りエースに来て銭形を打っていた。


ライトミドルなので2000発以内に当たる事も多く、この日はまだ午前中だというのに既に1万発以上の出玉を確保していた。


回転率はいまひとつだったが1日持ち玉で打ち切れば何とかなる計算だ。


あとは1日打ち切るだけかと昼飯を取らない覚悟を決めて黙々と打ち続ける。


大量出玉にひと安心したのか昨晩妻が言っていた事を思い出した。


お義父さんの会社で働かないかという事だった。


妻も心配しているしお義父さんも心配しているので会社に入ることはOKだという事らしい。


気にはなったのだがまだ大丈夫だからと断った。




夕方近くになって妻からメールが入った。


ビデオカメラが届いたので今日中に使い方を覚えておいてという内容だった。


そういえば明日は保育園のお遊戯会だと言っていたな。


いつもならデジカメの動画機能で済ませていたのが、張り切ってビデオカメラを買ったらしい。


パチンコのアテもないし、久しく保育園にも行っていないのでたまにはビデオ役として参加するか。


まだ持ち玉がたっぷりあったので少々勿体無いと思いながら貯玉に流し、午後7時には店を後にした。









お遊戯会の会場に着いたときには既に保護者でびっしりと埋まっている後だった。


ビデオカメラも会場を取り囲むように所狭しと並べられている。


さすがに慣れたお父さん達は中央のベストポジションに陣取っている。


出遅れた私は会場の隅ではあったが何とかビデオをセットするだけのスペースを確保できた。


まあいい、どうせ映すのは自分の息子だけだ。


妻は中央付近でカメラを片手に座っている。


慣れない手つきで三脚をセットし、電源を立ち上げステージの方にレンズを向けて調整をしていると、息子のクラスの子どもたちが続々とステージに登場しお遊戯会が始まった。


まずは楽器の演奏が始まり、息子は木琴担当だった。


ズームを調整しながらレンズの中に息子の姿を映し込む。


リズムに合わせてしっかりと木琴を叩く姿に成長を感じた。


この日に向けて毎日練習してきたのだろう。


いつの間にか大きくなったものだ。


楽器演奏が終わると先生のオルガンにそって子どもたちの歌がはじまった。


歌詞も見ずに歌っていたのでこの歌もしっかり練習してきたに違いない。


歌は明るく元気な歌だ。


息子も大きな口を開けながら一生懸命歌っている。


でも何故だろう。





どう頑張ってもこみ上がってくる涙を抑えることができない。




歌はとても明るく元気な歌なのだ。



でも聞いてるだけなのに次々と涙があふれてくる。



ビデオ役をかって出て正解だった。


会場の最後方で画面を覗くふりをしながらハンカチで涙をぬぐい続けた。



私にもこの子たちのような時期があったのだ。


それが今はどうだろう。


充実した日々を過ごしていると言えるだろうか。


こんな生活を望んでいたのだろうか。


そればかりではない。


父親らしいことをやっているか。


今年も運動会は行っていない。


自分の息子は走るのが早いのかそれとも遅いのか。




大切なものを失いかけていた。



いや、すでに失ったものもきっとあるだろう。




キッシーのときに子どもには父親が必要だと感じたはずなのに。











その夜、お義父さん達にもビデオを見せようと妻の実家にいた。


お義父さんの会社で働かせてもらうことにした。


お義父さんはビールをつぎながら早速明日からでもと言ってくれたが、1日だけ待ってもらった。





翌日、エースに行き、預けていた大量の貯玉を全て換金した。


その足でサッカーボールを1つ買って家族の待つ家に帰った。















チリンチリン。


「いらっしゃい。おや久しぶりだね。」


「まいど、ご無沙汰です。2人だからカウンターでいいよ。生1つとズリからは2つね。」




チリンチリン。


「いらっしゃい。あら今日は変わった組み合わせだね。」


「あ~っ、久しぶりですね。」


「おおナオちゃん、元気してた?

子どもはどう?大きくなっただろ。」


「ええ、私は元気ですよ。子どもは元気すぎて困っちゃうくらいです。」


「はは、そうか。あ、彼女にも生1つね。」


「今日はどうしちゃったんですか。こんな所に呼び出して。」


「こんな所って言ったらマスターが怒るぞ、先に乾杯しようか。」


「同期の人から聞きましたよ。
所長に昇進したんですってね。
おめでとうございます。」


「ああ、知ってたのか。ここもすっかり長くなったからね。
それで、うちの会社のことだけど、営業課でも転勤がない準総合職がOKになったから、もしナオちゃんが就職先を探しているならどうかなと思って。」


「あ、そんな話しだったんですね。嬉しいけどもうちょっと返事を待ってもらってもいいですか?昨日1件面接を受けたばかりなので。」


「いや、全然構わないよ。その気があればって思っただけだから。」




ピリピリリッ。


「課長、あっ、所長電話ですよ。」


「あ、うん。もしもし。お~、久しぶり。

どう、元気してるか?

あ、そう、来週こっちに来るのか!

じゃあ3人で飲もうよ。

えっ、3人だよ。

ちょっと待って、変わってあげるから。

ほら。」


「わっ、西村さんですか?

ひっさしぶり~、ナオです。

来週来るんですね。

いまみっちゃんにいるんですよ、懐かしいでしょ。


えっ、やだそんなんじゃありませんよ。

課長が仕事の話があるからっていうからですよ。


あっ、それとせっかくなので私も課長みたいにあだ名で呼んでもいいですか?

いつも課長ばかりあだ名で呼んでるので前から気になってたんですよね。


えっ、いいんですか!


じゃあ来週待ってますからね。










ニプロさん。」