愛生誌2022年3・4月号の尾崎元昭先生のエッセイから
ハンセン病は接触感染が主とされていましたが、現在はほとんどが飛沫感染と考えられています。飛沫感染説では、新しい患者さんが出たらその周りに飛沫で菌を排出する感染源の人がいることになります。ところが調べてもそういう感染源が明らかにならない患者さんの方が多いのです。飛沫感染や接触感染、空気感染、小動物や生活環境からの感染などなど、ハンセン病の感染経路はまだまだ解明されていない課題です。
ハンセン病はうつりにくいとよく説明されています。この場合、「うつる」とは菌が体内に入ることではなく、感染して発病するという意味で使われているようです。確かに感染しても発病する人は多くないのは事実と思いますが、菌の侵入や感染がどの程度起こりにくいのかはまだ明らかではありません。まだ流行している地域の住民の血液検査で菌への抗体を調べた報告がありますが、かなり多くの人が抗体を持っていました。つまり不顕性の感染があって抗体を持つ人が増え、集団免疫が成立していたということになります。菌の侵入や感染の起こりやすさはまだ分かっていないが感染しても発病しにくい、これが現在言えることでしょう。
ハンセン病と違って、新型コロナウイルスは治療薬がまだ整っておらず、同じコロナウイルスのインフルエンザのように簡単に検査できる態勢になっていません。流行がインフルエンザ並みになる日が早く来ることを願わずにはおれません。
参考文献
らいの不顕性感染に関する免疫疫学的研究 (1~3報)
阿部正英ら
日本らい学会誌 59:130-144、162-168、60:72-84