読了。

コンピュータサイエンティストと、エンジニアと、ビジネスはどうあるべきかがよくわかる本。
(正確にいうと、どうでないべきか)

超優秀な人材ばかり集め、確かに技術的に優れているのに、なぜ失敗するプロジェクトが
あるのかを疑問に思ってまして、これからの組織作りのためにも今回読みました。

取り逃がした未来―世界初のパソコン発明をふいにしたゼロックスの物語
ダグラス・K. スミス ロバート・C. アレキサンダー
日本評論社
売り上げランキング: 587,654


本書は、現存している元ゼロックス社の伝説的研究所である
パロアルト研究所がいかに偉大な発明をし、それを商業ベースに
載せる事に失敗したかを追った本です。

本書の序盤にイノベーションは2つの事が必要だ、
という趣旨のジャックゴールドマンの言葉が出てきます。

1.「発明」がされる。時にそのニーズは発明者にしかわかっていない事も
2.それを事業化し、広く利用されるようにする

上述の通り、パロアルト研究所は1に成功し、2に失敗した、
とよく言われています。

キラ星の如し発明の数々


当局から目をつけられるほどのコピー機市場でのシェアを背景にした
潤沢な資金投資。

優秀なコンピューターサイエンティストをヘッドハントし、
人材が人材を呼ぶほど優秀な人材層

それらの人材を有機的に議論させ、協働させる優れたマネジメント

上記3要件を備えたパロアルト研究所からは来るべきパーソナルコンピューティング
時代に備えた発明が次々にされていきます(しかも、研究者達は自分が
作ったコンピュータで仕事をしている)。

実際のところ、パロアルト研究所の発明はすごいものが多く、
ビットマップ利用、GUI、マウス、イーサネット、CPUのマルチタスキングと
いった現代のパーソナルコンピュータには当たり前についている機能などが
あります。

現在当然のように使っているこれらの技術群は、実はこの研究所から
生み出されているのです。

彼らの研究がいかに優れているかはかのスティーブ・ジョブズが初めて
パロアルト研究所を訪れ、
デモ機を見た後に発したセリフが象徴しています。

「どうしてゼロックスはこれを売り出さないんだい?」
「これを売り出せば、競合全員を吹き飛ばして大儲けできるぞ!」

もちろんそうできない理由があったのですが、
後年アップルが、同研究所からボブテイラーを引き抜き、
GUI やマウスといった特徴を備えたリサというコンピュータを発売したのは
有名な話です。

では、なぜその発明は生かされなかったのか?


では、これだけ優れた研究所であるパロアルト研究所はなぜ成功しなかったのか?
というのは端的にやはり、「コンピュータサイエンス」「エンジニアリング」
「ビジネス」が結びついていなかった。という事に尽きます。

1.「コンピュータサイエンス」と「エンジニアリング」が結びつかなかった

ゼロックスは買収した会社にパロアルト研究所の発明を製品化させる目論見でいました。
しかしながら、それはかないません。

端的に、エンジニアリングの部門とサイエンスの部門の仲が悪かったからです。

サイエンティストは前時代的なエンジニアをバカにしていた。
エンジニア達は、プライドから生意気なやつらとは仕事をしたくなかった。

せっかく生まれた発明のたねは、ついぞ製品化されなかったのです。

2.ビジネスサイドが発明の価値を見抜けなかった。

ゼロックスは、実は技術ベンチャーです。創業者は技術者で、
コピーの仕組みを根本的に変えてしまったジョーウィルソン氏です。

ですが、彼が後継者に指名したのは営業出身のジョー・マックローでした。

彼は、優れたゼロックスのプロダクトを売る仕組みを作り上げ、
空前絶後のシェアを築き上げた張本人です。

さらに悪いことに、時がたつに連れて技術に強い人員が幹部からいなくなっていきます。

この事は後半に出てくるこの一節が象徴しています。

ゼロックスは、毎年莫大な金を研究、開発、そしてエンジニアリングに遣っていた。
それでいながら、経営幹部の中には、一人として製品開発プロジェクトを行ったことが
あるものがいなかった。

従って、経営幹部のだれも、エンジニアに対して、これはもっと安くできるはずである
とか、これこれはもっと早く行えるはずであるとか言えるものがいなかった。

この状態で、次世代のPCを見抜くなど、望むべくもありません。

もしもジョーウィルソン氏が存命であれば、全リソースをかけて発明を
エンジニアリングし、PC市場はゼロックスが制覇していたかもしれません。

3.いつの間にか会社は権力闘争の場になった

そして、この件のもっとも醜悪なポイントは、主力製品で市場シェアを落とし、
次世代を担うべき製品がでてこないのに、権力闘争に明け暮れている幹部が
存在していることです。

正しいだろうが、自分がそのポジションを取りたいから反対する。
意見を通さない。勝手にやる。

醜悪の一言に尽きます。

ではどうすれば良いのか?


非常にシンプルで、ビジネス、コンピュータサイエンス、エンジニアリングを
結びつけるという本当にそこをやり切るという事になるのかと思います。

それぞれが結びつかない、失敗のパターンというのは存在していて、
それをきっちり潰し切るという当たり前の結論になりました。

まぁ、全てはリーダーまたはプロデューサー次第という事ですね。頑張ります。