※BL妄想書庫です
苦手な方はお気を付けください
隔離されたような暗闇の角
やっと泣くことが出来た彼を抱き締めていたら、こちらも色々と込み上げるものがあって、いつしか二人で泣いていた
そして、あの時はあーだった、この時はこーだったと、離れた時の互いの想いを受け止め合った
今は手をしっかりと握り、二人並んで座っている
「あー…なんか疲れたな」
「…泣いてたもんね?」
「お前に言われたくねーし」
「…ふふっ」
元に戻ったというよりは、進んだ先でまた出会ったという感覚に近い
が、ふと感じる懐かしさに心は安らいでいる
「あのさ」
「うん」
「あの、さ」
「ふふ…なんですか?」
「あれだよ、そのぉ、予約?してないんだけど」
再会の夜はショックとインパクトが有りすぎて、すでに体力の消耗が著しい
彼も疲れていると思う
「今夜はお披露目だけだからステージは一本で終わりだよ?」
毎日だろうが久し振りだろうが、ステージを見てしまったら 欲 情 せずにはいられない
肌の上をガウンやジャケットが覆っていても、温もりは伝わってくる
手のひらなんて触れ合ってしまっているんだ
早く身体も真っ裸になって、隅々まで互いを確かめ合いたいが、再会直後にガツガツしてしまうのはあまりにも即物的過ぎるか?
「やるぅ?」
情緒を気にして躊躇っていた俺に対し、決定的なお誘いを出したのは彼だった
「な、なんだよ…お前、雰囲気ないな」
柄にもなく照れてしまう
「ねぇねぇ、やらないのぉ?」
脇腹を肘でうりうりと突かれ、濡れた瞳で見上げられた
「やるに決まってんだろっ」
珍しく気にしていた俺の情緒はあっさりと吹き飛んだ
「んー…んっ…」
近付いてきた唇を、唇で受け止める
「んん…ぅ…」
漏れる吐息が甘い
久し振りのキスは 下 半 身 に 頗 る 効 く
「あーん、 ち ん こ いたぁい」
「ふははっ」
素直さを手に入れた彼は無敵かもしれない
どうしようもなく煽られて、もう一度キスをする
「んふ…ん…ん」
駄目だ
俺も ち ん こ 痛ぇ
歩いて移動するのは無理かもしれない
このままここでやっ…
「ここでいちゃいちゃすんじゃねぇ!」
ペチン、ペチン
聞きたくない声が聞こえて、それぞれの頭が叩かれた
「…んだよ、邪魔すんな」
「こんな所でおっぱじめられたら営業妨害なんだよっ」
名残惜しい唇を離して、彼を胸に抱き締める
「下がこんな固い場所じゃこいつの身体に負担がかかるのでー、ここで 挿 入 するつもりなんてありませんけどー?」
あわよくば…と思ったことは隠しておく
「 挿 入 以前の行為も営業妨害に決まってんだろっ」
「だってよ、どーする?」
「んも…もご…もごもご…」
可愛さを増した彼を見せたくない一心できつく抱き締めているから、俺に埋もれて言葉が作れていない
仕方ない、通訳しよう
「ここでやりたいってさ」
「嘘をつかせるなっ!」
「せんぱーい?大丈夫ですかぁ?そろそろ出ようと思うんですけどぉ」
マスターの後ろからほったらかしにしてしまった同僚の顔が覗く
「色々気を使わせてごめん、もう大丈夫だから」
「あららっ らぶらぶ!これはお邪魔虫っすねっ」
「今度ゆっくり紹介する」
「楽しみにしてまっす」
「私も帰るよ」
同僚の後ろからやはり場違いに華やかな先生が顔を出す
「先生っ」
彼は声に反応して顔を向けた
「よかったね」
「はいっ」
「今夜は彼と飲み直すことにしたから」
「先輩、そーゆーことなんでっ」
二人は共に背が高く、先生の常人とは思えないオーラと、黙っていればスマートなイケメンである同僚が並んで立つと、モデル雑誌の表紙を連想させる
性格は正反対と思われるのに、どこがどのように共鳴したのだろう?
明日会社で聞いてみよう
「おい、和むな、他の客が通る前に立ち去れ!」
「はいはい、よし、行くぞっ」
腕を解き、立ち上がる
彼はクスクスと笑いながら見上げている
あぁ、無敵…
下半身がこれ以上騒いだら本当に歩行困難になる
急いで彼の身体を引っ張り上げる
「そーいえばー、ぺちゃんこさんってなーにぃ?」
「それはあとで説明するっ」
「えーでもぉせっかく同僚さんがぁ」
「焦らすな! 精 液 吐きそうだっ」
「おぇー」
「先輩、それはないっす」
「 精 液 って吐けるんだ?人間の神秘だね」
「店先で下品なこと言うんじゃねぇ!」
クレームの中に、冗談とは思えない純粋な感想が混じっていて、少しだけ心配になる
しかし今はそれに対応している隙など無い
「はいはいっ どーもすみませんねっ 行くぞっ」
「はぁ~い」
手を繋ぎ、扉をグイと引く
「いってらっしゃ~い」
「早く去れ!」
背中に応援と非難を受けて、店に入った
彼の部屋に行くにはステージを通らなければならないが、片方がパフォーマーだからギリギリセーフか?
手を繋いだまま靴を脱ごうとすると、彼が耳打ちする
「……になったの~」
「へぇ~ それは便利だな」
「こっちっ」
客の前を通らずにカウンター脇を抜け、厨房の手前の酒樽が置かれてた場所に誘導される
今は綺麗に片付けられたその空間の突き当たりに、真新しい小さな扉があった
「マスターが復帰祝いにって、作ってくれたっ」
五日前から作り始めたのだとしたら、その作業中に俺もこの店に来ていたはずだ
「…どこまでも弄びやがって」
いつかあいつを負かしてやる
「んー?なにぃ?」
「なんでもない、これは押すの?」
「うんっ」
彼に続いて腰を屈めて入り、扉を閉める
暗闇に目が慣れると、正面にシャワー室が見えた
あの通路だ
「これからはここを通っていつでも部屋に遊びに来てねっ」
「おぅ」
左へ進むと懐かしい扉が見えてくる
これを開ける前に、吐き捨てるように言ってしまったあの言葉を、もう一度、今度こそ大切に言おう
「おかえりっ」
「ただいまぁーっ」
二人の前に、眩しい光が溢れた
終わり