Canzone・7 | 黒チョコの嵐さんと大宮さん妄想書庫

黒チョコの嵐さんと大宮さん妄想書庫

嵐さんが好きです。二宮さんが好きです。大宮さんが好きです。

こちらは妄想書庫でございます。大変な腐りようです。足を踏み入れる方は、お気をつけくださいませ。

※BL妄想書庫です


苦手な方はお気を付けください





















さっきの会話、そして完全なる失態が店内のお客さまへも届いてしまったかもしれない


俯いてカウンターへ戻る



「今日のは随分長かったなぁ」



意外にもサムさんの眼力は鋭くない


よかった…



「すみません」



指導は受けずに済んだけど、さっきの俺は明らかにこの珈琲屋の店員として失格だった

一つも納得出来ないし、最後の言葉も意味が分からない

でも仕事中だから

相手はお客さまだから

何を言われても冷静に対応しなければいけなかった



「なにか問題でもあった?」

「いいえ」



問題と言えば問題なのかもしれない

でもそれは店としての問題ではなく、俺個人の問題



この難題、サムさんだったら解決出来るのかな



「新しい恋ってさ、今の人だろ?」

「…はっ?!」

「あれ?違った?」



渦巻いていたモヤモヤが一瞬で吹き飛ぶ



「違いますよっ!」

「そう?」



先週の不可解な会話が無かったとしても、あの人の存在は気になっていた

声が似てる気がした

目で追ってしまっていた

思いの外綺麗な指先に、その仕草に、うっかり見惚れてしまったりもした



でも、これが恋?



「違いますから!」



全力で否定する俺を、サムさんは眼力で制圧する代わりに

吹き出すのを堪えるような丸い目と膨らんだ頬で、黙らせた





「そんなに必死にやんなくていいと思うけど」

「いいえ!完璧にやりたいので!」



サムさんと入れ違いで勤務に入ったモーリスさんがレジ締めの作業をしてくれるから、俺は張り切って掃除をする



新たに出来たルーティーン

それに少なからず支えられていたことは認める

失恋で痛む胸を癒す勢いだったことも、認める

その存在を有り難いと思っていたことも、認めてやる!



だけど、それが新しい恋だなんて簡単過ぎる


名前を言い当てられた上に物足りないと言われ、挙げ句の果てに「終わるの待ってる」なんて言われてしまうなんて

俺に隙があった

悔しい



「ワックスかけようかなーっ!」

「あ、待って、先週業者が入ったって聞いたよ、連絡ノートに書いてあった」

「じゃあ窓拭こうかなー!」

「それは朝やるよね?」



動いていないとすぐにあの人の言動を思い出してしまう


振り回されてしまう自分が悔しい



「椅子と机を磨く!」


「え?だったら俺も手伝うよ」


「大丈夫!個人的に今すぐピカピカにしたいだけだから!モーリスさんは先に帰って~」


「本当に手伝わなくていいの?」


「うん!」



脇目も振らず一心不乱に磨き続けた

 








朝から雨が降っている

 

足元が悪くなると常連さんの足も遠退く



「来ないねぇ」



店内には老夫婦のお客さまが一組だけで


鳴らないドアの鈴を見つめて、サムさんが言う



「ですね~」

「珍しくあのお客さまも」

「そうでしたっけ?」



俺の足を考慮して終電ギリギリを読んで、駅までの道を駆け抜けた先週の夜



店の前に立っているかもしれない

駅に居るかもしれない


後ろから突然名前を呼ばれるかもしれない



無駄な事を考える時間と動揺する隙を与えずに、発車寸前の電車へ乗り込んだ



回避した満足度感があった

それなのに



「…待ってるとか言ってたくせに」



この一週間でなぜか胸のモヤモヤは増している



「誰が?待ってるって?」

「…いいえ、誰も、問題無しです」

「問題無し?」

「はい」

「トーストからは煙出てるっぽいけど」

「えっ?!」



振り返ると、オーブントースターからプスプスと黒い煙が溢れていた



「やばっ!熱っ!」



慌てて取っ手を握ったら、その手には綿の手袋がはめられていなくて

反射的に後ろへ飛び退いたらガチャンと音がした



静かな店内には似つかわしくない音に、ご婦人が振り向いた



「失礼しました」



固まっていた俺の代わりに、サムさんが直ぐ様お詫びを入れる



「すみませんっ」

「なにやってんの」

「あ、カップ…割っちゃった」

「もういいから、下がれ」

「…すみません」



ビニール袋に入れた氷とタオルを持たされて、休憩室へ押し込まれた
















つづく