※BL妄想日記です
苦手な方はお気をつけください。
ペタペタペタペタペタ
背中から聞き慣れた心地よい足音がついてくる
たったそれだけのことで、玄関の前に立ったら色んな記憶が甦りそうになった
単純で愚かな自分が悔しいんだか嬉しいんだか…
蓋が隙間なくしっかりと閉まっていることを再確認して、扉を開けた
「わー!変わってないねー!」
この部屋に大野さんが居るという光景は、自分が予想するよりも破壊力があった
今朝この部屋を出る時まではひっそりと隠してあったはずなのに
あのソファに、あのラグに、あの机に
ここからは見えないお風呂場や寝室にも
今はどこを見ても大野さんとの想い出が溢れてる錯覚に陥る
カタン
蓋が揺れた音がして、背中にヒヤリとした汗が流れた
これくらいのことで出てくるような、そんな安い覚悟で閉めた蓋じゃないのに
馬鹿みたいに色付く視界と、勘違いして揺れそうになる醜い心
見付かる前に、切り離して捨てた
「元気?」「寝てる?」「今、どこに居るの?」
健康診断かのような質問に対して答えを述べる
「オイラと離れた夜、その夜からニノは進んだ?」
「はい」
納得してもらわなくてもいいから、反論の余地を残さないように
あなたが早く諦めて、早く帰れるように
「ありがとう…ニノ…」
なぜ礼を言われたのか分からないけど
大野さんがちゃんと泣けて、ちゃんと進めて、やるべきことをやれたっていうなら、これほど嬉しいことはない
これからも大野さんは大野智として頑張れ
「タクシー呼びます」
「ま…待って!まだ!まだ話あるよ!」
これで解放してあげられると思ったのに、必死な声で止められた
俺なんかにそんなエネルギー向けるなんてもったいない
申し訳ない
「オイラがニノを迎えに行く!」
大野さんのプライベートを奪う資格なんて俺には無いのに
俺のことなんか
「どうでもいいんですよ」
だって幸せだから
重なることのない点と点が奇跡的に重なって
それは必然的にまた元の道へと分かれていったけど
その時間の全てが幸せだったから
今も、これからも
「ずっと幸せでした」
だから大野さんは大野さんで、俺のことなんか気にせずに、自分の幸せを大切にしていけばいい
押し切ったからといって油断したわけじゃないけど
ここからの反論は無いだろうと思っていた
だから、目の前に落ちた黒い影の意味が分からなくて
反応が遅れた
つづく