※BL妄想日記です
苦手な方はお気をつけください。
絡まり合う舌は痺れるように気持ち良いのに
胸か、頭か、心か
どこが痛いのかも分からないほどに身体中が痛い
「ニノの部屋、また行っていい?」
「…はい」
「じゃ、この続きはその時にする」
「……はい」
キスの練習を終えると、またその腕で引き寄せて
大野さんは俺の横で眠った
肩越しに天井を見つめる
必要とされてるんだから、文句なんて無い
悲しいことでも、ツライことでもない
だけど、涙だけが、止まらない
「…っ…ぅ゙…」
声が漏れないように腕を噛んだ
もっと頑張らなきゃ…
「シーリングは色んな役割が出来るからさ」
「はい」
「例えば、この外のシーンの木漏れ日とか、さっきの部屋の中で回想してるシーンとか」
「なるほど」
「スポットライトは上と前から、理由分かる?」
「えっと…前からだけだと立体感が無くて、上からだけだと顔に影が出来るから」
「そう、あとは組み合わせで場面転換するから見てて」
「はい」
照明機材を吊って、大体の位置を決めてから
明かり作りの様子をブースから見てた
「おぉ~、同じ種類で照してるのに全然違いますね」
一つの明かりでも、明暗の差をつけることによって雰囲気が変わる
「この辺のさじ加減はセンス、あとは経験しないと培われない」
「はいっ」
ペンライトを耳の上に挟んで、ノートにメモをとる
「木漏れ日…部屋の中…シーリングとピンスポ…」
「本番見てく?」
「え?!いいんですか?!」
「前売りはもう無いらしいから、ブースからだけど」
「是非!お願いします!」
オペしてるのを近くで見れるのは願ったり叶ったり
一回の経験でより多くのことを学ばないとね!
今回の現場はキャパ150人程の劇場
照明はフットと客席合わせて80機
「大野さんの作品を照らす時はどんな明かりが必要になるのかなぁ~」
開場時間になるまで、客席に座って想像を膨らませた
上演時間になる前にブースへ入って、ノートをスタンバイ
臨場感のあるそこで、舞台とオペ卓を交互に見てた
『お母さんっ』
モニターから台詞が聞こえてくる
『…あなたに会いたくて…会いたくて…だから、あなたを産んだのよ』
『でもっ』
『あなたに会えて…私はとても幸せなの、悲しいことなんて一つもないわ』
『お母さんっ お母さーんっ』
シーンの山場なのに、舞台を見ることが出来なくなった
大事なオペ技術をメモしたいのに、腕も手も強張って動かない
「大野さん…」
音を立てないように、息だけで呼ぶ
「お…のさ…」
ブースの隅で、この身体が逃げ出さないようにするだけで精一杯だった
つづく