※BL妄想日記です
苦手な方はお気をつけください。
「あれ?こっちにもお詣り出来るとこがある」
「あ…」
「なんだろ?」
「そこって…水子地蔵ですよ」
「へぇ~」
目の前に広がる風景と同じ映像が頭を占領する
鳥居も、出店の雰囲気も、お地蔵様も同じなのに
側に居る人と、空気だけが違う
「手を合わせてきていい?」
「…はい」
「ちょっと待ってて」
ぱっと駆け寄って、静かに手を合わせている後ろ姿を見てた
さっきまで「手が凍りそうだよぉ~」って言ってたのに
側のお地蔵さんに水を掛けて、スポンジでゴシゴシってしてる
「お待たせ~」
俺は、まだ出来ないんだな
「ニノ?」
余り者とか、居候者とか、手を変え品を変え、なんとか保っていた俺という存在
それを、根刮ぎ否定する言葉
「…どうした?」
「あ…ごめんなさい、ぼんやりしちゃった」
どんなに小さくても、生まれたからには意味があるだろうって思ってた
そう思わせてくれた人が居た
目に見えないほど小さなモノだったけど、それは俺なりの希望だったのに
「ここにね、あんたのお兄さんがいるのよ」
「兄さん?」
姉の合格祈願で、お守りとかお札とか、たくさん買った
「小さくて性別はまだ分からなかったけど、流れるのは男の子の確率が高かったから」
「そうなんだ…俺に兄さんが居たんだね」
兄が居たかもしれない事実は嬉しかった
一緒に遊んだり、一緒に勉強したり
そんな毎日だったのかもしれないと、安易に、思った
「この子が生まれてくれてたら、あんた産まなかったのに」
なにか重い物で殴られたような衝撃
「三人目は要らなかったからねぇ」
俺は、要らない
はっきり言われたのは、これが初めてだと思う
言葉の綾とか、その場のノリとか、あとは、あとは…
なんとか俺の意味を見出だそうとしたけど
冷たい空気の中には、なにも無かった
「あははっ、そうだよね~」
世界から自分が消えていくような感覚は、ただただ怖かった
それからその言葉はずっと消えなくて
飲み込めなくて、消化も出来なくて…
「兄が…ここに居るんです」
「そっか、兄ちゃん…居たんだな」
今も、出来ない、出来てない
兄に手を合わせることも出来ない
「どんなことしてでも、生まれてくればよかったのに」
「そうだよな、ニノに本物の兄ちゃんが居たってことだもんな」
「…いえ、俺の兄は大野さんです
大野さんがいいんです、大野さんしか居ないんです、俺には大野さんしか…」
言いたくないことを言いそうになった
ただの過去なのに
そんなことに流される弱さが憎い
つづく