忘れないよ (6) | 完ぺきなママより幸せなママでありたいあなたへ

完ぺきなママより幸せなママでありたいあなたへ

宮城県多賀城市で、子育て中のママへ心理セラピーと心理学講座を開講しているリバティライフです。子育てや生きづらさの悩みを改善する心理セラピー、人生を楽に楽しく変化できる各種心理学講座、対人恐怖解消セラピー、高度ヒーリングセッションなどをご提供しています
 

私が座っていた小さなベッドの脇には、小さな扉があった。


私が赤ちゃんと対面していると、


その扉から夫が息を切らしてやってきた。


夫は実家に着いたとたんに病院から連絡が入り、夕飯も食べずにやってきたそうだ。



『…………産まれちゃったよ………』



と、力なく言う私。


夫は目を合わせようともせず、


赤ちゃんを見ようともせず、


小さくうなずいて、


私の隣に座った。


夫は無表情のまま、



『…………俺にも抱かせて。』



と言った。


私は言われた通り、


夫の手のひらに赤ちゃんを乗せた。



夫は、






そのままボロボロと泣いた。







私たちは、



お互いに自分を責めた。



そうでもしなければ、



気が狂ってしまいそうだった。



すでに消灯の時間が過ぎていたため、


その後、


夫は自宅に帰り、


眠れない夜を一人で過ごした。


私はほんのわずかの時間だったが、


赤ちゃんと一緒にいられた。


赤ちゃんはガーゼでおくるみのように身体を包まれ、


小さな木箱に入れられ、


二時間ごとに冷蔵庫で冷やされる。


会いたくなったらナースコールを押すと、看護婦さんが赤ちゃんを連れてきてくれる。


私は赤ちゃんを木箱から出し、


自分の横に寝かせた。


その小さな、小さな手のひらに、


私の指を乗せてみる。


ふにゃふにゃの柔らかい手。


どんなに小さくても、可愛いわが子。


いつまでも、いつまでもこうしていたかった。





今夜は一緒に寝ようね。



あなたと一緒に過ごせるのは、



これが、最初で最期だから………










二日後、


私は赤ちゃんとともに退院した。


退院時先生に、『乳腺炎にならないように、母乳は毎日絞り出してくださいね。』と説明された。


これから、


火葬場へ連れていかなければならない。


その前に、


どうしてもノンに赤ちゃんを会わせたかった。


私と夫は、ノンが待つ私の実家へ車を向けた。


実家へ着くと、


『ノン、あなたの弟だよ。』


と言って木箱を開けた。


ノンは木箱をのぞきこむと、


『…あっ、赤ちゃん、寝てるよ!』


と言った。


その無邪気な言葉が、


まわりの涙を誘った。


『…ノン、赤ちゃんはこれからお空に行くんだよ。会えなくなるけど、ノンは覚えていてあげてね。』


ノンは少し考えて、


『……うん。わかった!』


と答えた。


私と夫は実家を出て、花屋に向かった。


私は青いトルコキキョウを買って、木箱に入れた。


その後、トーマスのミニカー、チョコレートなども買って、赤ちゃんの横に並べた。


新生児用の肌着を着せて、ガーゼをお布団がわりにした。


火葬場へ着いても、私はなかなか動くことができなかった。


これが最期の別れ……


もう、本当に会えなくなってしまう。



『………ノンが待ってるから……』



夫の言葉で、


私はやっと車から降りた。





火葬場の中に入ると、別室に案内された。


そこに用意された大きな祭壇に、


小さな小さな木箱を置く。


薄暗い部屋。


窓のひとつもない。


喪服の二人の職員が見守る中、



お焼香をして、


手を合わせて終わりだ。


あっけなさすぎる。


これだけで子供を置いて帰るのか。


私はそんなに出来た人間じゃない。


この子はまだ小さすぎて、


骨も残らないという。


完全にこの世からいなくなる。






嫌だ!



置いていきたくない!



この子と一緒に帰りたい!








いつまでも、



その場にしがみつく、



あきらめの悪い私を、



夫がかかえ、



なかば無理矢理、



外に出された。








車に乗っても、



涙を止めることができない。


私に押し寄せるのは、



後悔と、



自責の念。













六ヶ月で記入が止まった、





真新しい母子手帳を、





私は、






いつまでも、いつまでも、









抱きしめていた。