10分もたたずに、
実家に救急車が到着した。
居間に敷かれた担架に横たわると、
次の瞬間、
パン!と私の中で音がして(母に後日たずねたところ、まわりには聞こえなかったらしい。)
バシャッと破水してしまった。
『タオルお願いします!』
『破水しました!すぐに病院に運びます!』
救急隊員がバタバタと動く中、
私は痛む腹を抱え、
ノンを呼んだ。
『ノン!』
ノンは不安そうな表情でカーテンにしがみついていた。
私はノンに片手を伸ばすと、
ノンはその手に頭をそっと突っ込んできた。
『大丈夫だよ、ママはすぐに帰ってくるからね。』
ノンは静かにうなづいた。
『ばーちゃん、悪い…ノンを頼むね。』
不安そうに佇む二人に見送られ、
私は救急車で搬送された。
救急車の中では隊員の方が、
『大丈夫ですよ、お母さん!先生が必ず助けてくれますから!』
と、何度も励ましてくれた。
単純で無知な私はすっかり安心してしまった。
「そうか…先生ならなんとかできるんだ…」
私は事の重大さに、
少しも気づいていなかった。
病院に着くと、直ぐ様産婦人科に運ばれた。
救急隊員が先生に状況を説明する。
それを聞いていた先生は、
次第に口調が重くなっていった。
診察室に運ばれ、
一通り診察を終えると、
先生はカーテン越しに重い口を開いた。
『…………大変申し上げにくいんですが………』
『恐らく、細菌に感染されたのではないかと思われます………』
『すでに破水してしまっているので、放っておいても、24時間以内には産まれてくると思います………』
『産まれなかったとしても、母体を守るために、取り出してあげなきゃいけないんです………』
『……けれど、まだ六ヶ月ですから……赤ちゃんが産まれてくるには小さすぎて………生きていけないんです………』
…………………え………?
じゃあ、
じゃあ、私の赤ちゃんは?
今お腹の中で、
生きている、
私の赤ちゃんはどうなるの………?
『先生………じゃあ、赤ちゃん………は』
先生は医師として、
私の問いに答えなければならなかった。
『…あきらめるしか、ないんです………。』
涙が、
スーーーっと、
流れて落ちた。
頭が追いつかない。
受けとめられない。
ウソだ、ウソだ、
こんなのウソだ……………
だって、
この子はまだ、
生きてるよ、
私のお腹の中で、
生きてるんだよ………
『…じゃあ、この部屋で少し休んでいてください。今、ご主人に連絡しましたから………』
看護婦さんに案内されたのは、
六畳ほどの畳の部屋。
言われるがままに、
敷かれていた布団に横たわり、
ただじっと、
天井を見つめていた。
口はぽかんと開いたまま、
頬はぴくりとも動かず、
ただ涙だけが、
流れ続けていた。
神様…………
いるなら、
この子を守ってよ………
私はどうなったっていいよ、
本当にいるなら、
この子の命を、
救ってよ…………!!
ねぇ、
神様………………!!
(続編へ)