上昌広医師が「一斉休校」などの“副作用”を懸念。一部は現実に?
水島宏明 | 上智大学教授・元日本テレビ「NNNドキュメント」ディレクター
3/1(日) 1:00
TBS「NEWS 23」で話す上昌広医師(左側、2月26日、画面を筆者撮影)
新型コロナで日本中がニュースから目が離せなくなってしまった。安倍首相がテレビカメラを前に記者会見して「全国の学校での一斉休校」を改めて要請するともに、北海道知事もテレビカメラの前で緊急事態を宣言し「外出やめて」と呼びかけた。
だが、こうした事態になって政治家たちが緊迫感を漂わせて、かなり唐突なタイミングで次々とパフォーマンスとも言えるような発表や政策を打ち出している中で、テレビ各局で冷静に医師の立場で科学的な対応を求めている人物がいる。医療ガバナンス研究所理事長の上昌広(かみ・まさひろ)医師だ。元東京大学医科学研究所特任教授で都立駒込病院、虎の門病院などで勤務した経験がある医師だ。
2月28日(金)もTBS「ニュース23」で注目すべき発言をしていたので紹介。
一方で政府が全国の学校の臨時休校を要請したことについても批判的な姿勢を示した。
(上医師)
「これについてもかなり疑問があります。社会は複雑系なのでこういうことをすると、予期せぬ副作用が出るんですね。特にお子さんが学校に行かなくなると、家で面倒を見るんですが、女性が働きに行けなくなるんです。女性が多い職場というのは、たとえば病院なんです。」
(小川キャスター)
「はい」
(上医師)
「病院というのは働きに行けなくなると看護師さんが来なくなる。事務(の人)が来なくなる。そうなると機能不全を起こすんです。」
(小川キャスター)
「機能しなくなる?」
(上医師)
「はい。そうすると医療ミスや患者さんを診れないとか、様々な不具合が出るんですね。実は都市機能が破綻するということはいちばん患者さんが亡くなる・・・つまり死亡率が高まるということがわかっているんです。」
上昌広医師は中国でのデータを例に出しながら、冷静に話を進めていった。
(上医師)
「今回の中国の対応でも、武漢だけ飛び抜けて死亡率が高いんですよ。なぜかというと、都市が崩壊したからなんですよ。上海なんかはそんなことがないんですね。ですから、都市機能を維持するという意味で今回の対策・・・、女性が働けなくなる対策・・・これには私は疑問があると思っています。」
(小川キャスター)
「医療体制の崩壊を招きかねないと?」
(上医師)
「はい。要するに女性が多い職場が崩壊する。典型例が病院なんです。」
上医師が懸念する「病院の崩壊」「都市機能の破綻」という状況はすでにその兆しが見え始めているのではないのか?
筆者は札幌の病院関係者から聞いた話を思い出した。
女性の看護師や事務スタッフが多い病院の職場。高齢者が多く通うある病院では患者が咳き込んでいたり、発熱したりしている場合には一律に「診ない」方針で他の医療機関に行ってもらうことにしたという。少しでも肺炎の疑いがあれば事実上診療から排除しているという。
子どもたちの学校の一斉休校が始まる前からすでにこういう状態が始まっている。
患者を診るのが役割のはずの医療機関が患者を診ないということになると、上医師の言う「予期せぬ副作用」「機能不全」につながってしまう可能性がある。
確かに「全国一斉休校」や「一斉外出禁止」などは関係者に緊迫感を持たせる効果があるのかしれないが、実際に学校に行くような子どもの母親が病院などで働いている場合の対応策はできていないとしたら、上医師の言う「副作用」が大きいことになる。