北京五輪まであと4ヵ月半ほど、施設を急ピッチで整える中、一筋縄ではいかない事件が続出している。我々、日本人から見れば、真っ先に思い浮かぶのは中国製冷凍ギョーザの中毒問題などの食の安全だが、中国国内では、経済発展によりしいたげられた人民解放軍の問題、そして、今回のチベットの暴動。この中で、オリンピック開催に大きな打撃となるのはどれかを勝手に考えるのが、今回のテーマ。
中国製冷凍ギョーザ中毒問題に象徴される食の問題は、環境問題との関連もあり根が深い。日本国内では、中国製冷凍食品から次々と高濃度の残留農薬が見つかり、中国製食品の信頼は失墜、店頭においてもほとんど売れないという事態。
残留農薬が注目されるキッカケとなった中国製冷凍ギョーザ中毒問題は、この残留農薬とは区別して考えなければならない。なぜなら、千葉県市川市で家族が食べた問題の冷凍ギョーザ、一時重体となった女の子が吐き出したギョーザからは、人体に悪影響がでるレベルの300倍。助かったのは奇跡と言われるほどの量。つまり、これは明らかに混入されたというレベルであり、残留農薬などという言葉で片付けられるものではない。
それでも、中国政府は、中国国内での混入の可能性を否定、自分たちは悪くないの一点張り。しかも、ギョーザをパッキングした後、そのフィルムの外から薬品が中にしみ込んだという検査結果を発表。日本側に渡された資料では、結果が記されているだけで、再現実験ができるほどの内容がなかった。現段階では、日本側はしみ込まないという見解。
しかも、ここで気になるのが、加工食品は食材を洗い、調理するため、本来なら残留農薬のレベルは生野菜よりも下がるはず。それが、中国産輸入野菜からは考えられない高濃度の残留農薬が加工食品にある時点で、おかしな話。これは、生野菜の検査は厳しく、加工食品はこれまでそれが甘かったことが影響している。
生野菜は残留農薬が低いもの、他は中国国内と同じようなものということではないだろうか。加工食品向けに、特に悪いものを使ったというよりは、おそらく中国国内では普通に流通しているのだろう。
農薬を大量に使う背景には、見栄えがいいものは高く売れるため、生産者側が安い禁止農薬も構わず使い、それに対応したため。強力な農薬、禁止された農薬ほどよく効き、安価で販売されており、それを取り締まらない限り、この悪循環は終わらない。
これが、北京五輪開催に大きな障害となるかというと、オリンピックのテーマとして、『自然に優しい』というスローガンがあるが、現在の中国はそれとは正反対。この時点で、アウトといえるが、自然に優しいという抽象的な言葉には、一度決まった開催を中止させるほどの力がないのが実状。
さらに、食べ物は中国4000年の歴史により、安全なものを選手に提供するという。4000年どころか、1000年前ですら農薬があったかという皮肉も聞こえてきそうだが、個人的には安全な食材を手に入れれば、とりあえず、急場はしのげるため、致命的な話ではない。
次に、物騒な話だが、中国国内で人民解放軍の間でちょっとした出来事があった。つい先月中頃の話だが、北京軍区と南京軍区の若手軍人らが『台湾とただちに開戦すべし』という血判書が提出された。この時期に、台湾を攻めるという話にはそれなりの流れがある。
世界史などでもお馴染みの話だが、第二次大戦後、中国共産党と中国国民党は敵対関係にあり、中国本土で戦いに敗れた国民党は、台湾に逃げ延び国を築いた。そのときの初代総統が蒋介石(しょうかいせき)。
敗れたとはいえその数は数十万人、国民党軍が台湾になだれのように押し寄せたという。それに反感をもった台湾にいた知識分子、不穏分子は国民党軍により弾圧されたというが、資料の公開を現在も拒んでいるため正確な数字はわからない。
敗れた兵の寄せ集めと、共産党が台湾に攻撃を仕掛けるが、共産主義の拡大を恐れた米国が台湾側に手を貸したこともあり、また、空軍力、海軍力が劣ってこともあり、制空権、制海権を取ることができず、侵攻は失敗したという歴史がある。
ところが、現在は、経済発展に伴い軍備を強化、これなら勝てると若手軍人は自信を伺わせる。ここまでの話では切羽詰った状況ではないように見えるが、実際は、軍備のハイテク化にともない少数精鋭とはいわないまでも、多すぎる兵をリストラし始めた。
リストラされた退役軍人は、経済発展で浮かれる社会で行き場を失い、公安省の調べによると、銀行強盗などの凶悪事件で有罪となった退役軍人は年間8500人ほどにのぼるという。
若手軍人らにしてみれば、共産党の象徴だった軍人が、経済発展によりしいたげられた現状の打開を目的としているのは間違いない。
しかも、中国に7つある軍区同士が連携しないよう交流が固く禁じられている。これは軍が事を起こさないようにという仕組みだが、今回は、同時期に血判書が提出され、連携していたことが伺える。これは、軍区を越えて動ける上層部の人間が関与していると見られている。
さらに、軍区のなかでも、要である首都北京を守る北京軍区、海峡を挟み台湾と対峙する南京軍区、最重要軍区で起こった話だけにただ事ではない。しかし、これはあくまでも中国内部の問題であり、外国がとやかく言う話ではない。
最後は、チベットの大規模騒乱だが、中国チベット自治区ラサで起きた暴動がキッカケとなり、その暴動は隣接する省に拡大。さらに、亡命チベット人が、インド、米国、フランス、日本などにある中国大使館に抗議デモを行っている。中国政府による人権侵害などを国際社会に訴えている。
チベットは1940年代まで独立国家だったが、1951年に中国側が軍事侵攻し占領。チベット自治区として、中国側に取り込まれた。しかし、チベット自治区の9割以上はチベット族。歴史、文化的にも、中国に染まっているわけではない。
今回の暴動により、中国側の報道とインドにあるチベット亡命政府の報道では、死亡者、負傷者数で大きな開きがあり、どちらを信じるかという話に。中国側は、YouTubeなどの動画配信サイトを中国国内からアクセスできないようブロックしており、規制を強化している。
このような誤った情報が中国国民に流される時点で、現実との誤差が生まれ、摩擦の原因になると思うと同時に、現代社会では、情報をコントロールするのは不可能と思うのだが、これが中国のやり方といわれればそれまで。
中国がチベットにこだわる理由として、鉱物資源があり、埋蔵量は推定で10兆円以上というからかなりのもの。しかも、国土の広い中国は、多民族国家。タガがはずれれば、他の自治区にも独立に強く傾く可能性もある。
中国側は最高指導者であるダライ・ラマが暴動を引き起こしたと名指しで非難しているが、ダライ・ラマ本人は、平和的な独立を強調。自分の力ではこの暴動は止められないと、また、オリンピックについては、中国はホスト国に値すると北京五輪を支持している。
先進国では、差別や人権侵害はタブー視されているだけに、これまでのチベットにおける人権侵害を訴えられるのが、中国にとっては一番厳しいはず。しかも、暴動を武装警察などで派手に鎮圧するれば、国際社会から叩かれるのは間違いない。しかし、国内向けには鎮圧できなければ、政府が見くびられると八方塞がり。
この対処を誤れば、北京五輪に大きな影を落とすことになる。オリンピックの開催国は、他国の模範となるような意識があり、このゴタゴタの中国が無事にその役割を果たすことができるのだろうか。
急速な経済発展のひずみが、社会に悪循環を生み出し、中国の長い歴史、文化を飲み込もうとしているように見える。