長い間よその猫を見て暮らしていたこの家の人間は、今もTVで岩合光昭の「世界ねこ歩き」を放映する日はそわそわする。見ないのはもったいない。でも家に猫がいるのにわざわざよその国の猫をTVで見て面白いのだろうか。つい今夜もTVをつけた。「スイスの巻」だった。雄大なアルプスを背景に、牛や山羊や犬とともに猫たちが歩き回る。にっきやはっかはTVの猫に反応するだろうか?

 

          

猫が寝そべっていた椅子をそっとTVの前に移動する。まずにっき。おや、これは何だ?画面を凝視しているのが分かる。そのうち身を乗り出して、椅子から飛び降り、TVモニターの近くまで行った。TVの中の猫は人間から食べ物を貰ったり、しぼりたての牛乳を飲んだりしている。にっきの手が画面をタッチ。しばらく見たあと、遊びに行ってしまった。

 

 

次にはっかの椅子を鑑賞席に。優雅な姿勢のまま、気も散らさずにじっと画面を見ている。何が見えているのだろう。画面に映るのが自分の同類だと分かるのだろうか。ミーミー鳴く子猫たちの声は同じ猫語なのだろうか。にっきが周りで暴れまわっていても、はっかはTVの方を見ていた。

 

家の窓から外を眺めるのと、TV画面でよその国の猫たちを眺めるのと、どこが違うのだろう。人間はリアルとバーチャルを行き来して心を楽しませる。猫はリアルな世界で生きるだけだろう、と思っていた。必ずしもそうではないかも知れない。二匹はTVの猫たちを凝視していた。