これは私がまだ20代のころに名古屋のタクシー運転手に言われた言葉です。
どんな会話の流れからそんなことになったのか忘れてしまいましたが、当時の私にとっては本当に心に突き刺さる一言でした。
その当時から15年ほど経過していますが私にはいまだに立派な経営者になろう、という意欲が皆無と言っていい程ありません。
そのくせどこかの従業員やスタッフとして働こうという意欲はもっとありませんでした。
こっちに関しては意欲どころか明らかにその能力もかけているように思います。
そんな人間ですからとにかく自分でやっていくしかないわけだったんですが、スタッフを抱えたり取引先との関係性だったり当時の私にとっては本当に避けたいことばかりが増えていく状況でした。
そんな時にこの言葉を聞いたんですね。
その会話をしたタクシー運転手の顔も覚えていませんが、この時の口調ははっきりと覚えています。
後悔と懺悔が入り混じったような本当に苦々しい声でした。
その瞬間に私のふわふわしていた部分がガチっと固まったようなそんな気がしました。
やっと
「ボスとして生きていく」
という事を受け入れた瞬間と言ってもいいと思います。
これは別に大きな組織の話をしているわけではないんです。
私のような零細企業を経営している人間でも、一人親方の会社だったとしても、サイドビジネスであったとしても、それが家庭であったとしても、自分で舵取りが出来る場所や空間がほんの一か所でもあったら人間は楽に生きられるんだろうと思います。
トップは辛い、とよくいう人が居ますがそんなの100%嘘です。
絶対に下の人間のほうが辛いです。
なぜなら己の裁量で何もできないのですから・・・
どんなに規模が小さくてもどんなに誰からも知られていなくてもどんなに社会的に認められていなくても、たったひとつだけ自分がボスになれる場所があることが大切なんだな、と雷に打たれたようにはっきりと自覚した瞬間でした。
ご縁があって一昨年前くらいからお付き合いを頂けるようになった世界の最高級ホテルのマネージャー達や最高峰のシェフたちと直接触れ合いお話する機会が増えてから、私がこれまで知っていた世界とは全く違う世界があることに気がつきました。
それは
「大きな組織の中で思いっきり自立している人達」の存在です。
先日も懇意にして頂いていたある人が
「来月辞める」
という話を聞きました。
「次はどうするの?」
って聞いたら
「半年くらいは休んで日本国内旅行するつもり」
と答えました。
よくよく聞いてみると働いている時から常にLinkedInなどで次の仕事のオファーは引っ切り無しにき続けているので全く次の職への不安がないようなんです。
世界中からオファーが来ている状態で常に働き、自分の生活スタイルに合わなくなったり環境が違うなって思ったら辞めて次に移る、そんな働き方をしている人たちは実はこの世にはたくさんいるだということを知りました。
そして彼らはセルフプロデュースとしてそんな状態になれるようしっかり自分のブランディングを行っているんですよね。
そして一旦その己のブランディングを築き上げた世界の仲間入りをしてしまえば半年くらい休んだところで安泰なんだ、という世界がこの世にはゴロゴロ溢れているんだということを私は40歳でやっと知ることができました。
こういった類の人たちは自分自身のボスが常に自分なわけです。
どんな大きな世界的企業の一員だったとしてもどこからでも引く手あまた状況を自分で作り上げてしまっているわけです。
そして、そのために何が必要だったかというと・・・その業界のボスたる地位を占めている場所で働き続けることです。
タクシー運転手の言葉に戻ります。
「どんな世界でもボスにならねばならない」
こういった生き方をしたい人にとっては、あらゆる業界のトップを占めている場所に自分を置いておくことが最も重要なことが分かります。
小さな井の中の蛙と言われようが己の場所を築く人
大きな組織の中でも流動性のある市場を自分で築き上げてブランディングをしていく人
家庭の中で己の存在を築き上げる人
なんか生きるのが窮屈で苦しいな
って感じている人はただ単に
「ボスになるのを避けているだけ」
の可能性があります。
ところが現代社会にはそれを解決した気になれる恐ろしい麻薬のようなものがあります。
それが「SNSへの盛り盛り投稿」です。
SNSが人の心をつかんでしまうのはまさにこの部分を巧みに掴んで離さないからだと私は思っています。
極めて安直に自分の物語を語れるつもりになってしまうからこそあれだけ必死にSNSに投稿し続けるエネルギーが湧いてくるのだと思います。
SNS以外の場所で「意図的にボスになりに行ってみる」と世界は少しだけ変わるかもしれません。
「浮浪者の中でさえ序列がある。その中で絶対にボスにならなきゃだめだ」
あのタクシー運転手の言葉は時間が経過するごとに重みを増していきます。