黄金の簒奪者たち:その64

 

 「倉庫業+金融業+密貿易」が長州の戦費蓄財システムであった。そして、それを支えた「撫育資金」こそが萩藩が明治維新を成し遂げるための武器弾薬を買い支えることができた錬金術のからくりであった。これがなければ攘夷運動も討幕もなかったし、グラバーをはじめとする海外の武器商人たちも商売相手として丁重に扱うこともなかったはずである。最初は現金商売にこだわったトーマス・グラバーも、萩藩に金があると知った瞬間、絶大な信用保証を与えている。『維新革命史』には、グラバーの言葉としてこう書かれている。

 

 「お二人(井上馨と伊藤博文)が取引を始めれば100万ドルくらいの金はいつでも用立てるのでご心配には及ばぬ」


トーマス・グラバー

 

 グラバーがいかに現金な人間だっかを物語る言葉だが、そうした意味では、「撫育資金」という秘密資金は画期的なファイナンス・システムであったということだが、それを両手を上げて「幕末の志士たちはすごかった」などと褒めるわけにはいかない。なぜなら、この資金は庶民から搾り取ることで誕生した金だからである。「宝暦検地」で新たに生み出された6万石という数字は、もともとの測量が甘かったから出てきた数字ではない。

 

 当時、どこの藩もそうだが、再検地とは最初から加増ありきで行われるもので、「宝暦検地」の時はあぜ道まで耕作地とみなし、家の近くにたまたま生えていた実のなる木々まで年貢の対象にしたのである。そんなことを突然言われた農民にしてみれば「勘弁してくれ」という話で、再検地による加増のしわよせは農民たちへの年貢として重くのしかかっていったのである。まるで「消費税」と一緒である。いや、同じなのだ。単純に萩藩の農民が日本国民に変わっただけなのである!!

 

検地の様子

 

 1989(平成元)年に最初3%で消費税が導入されてから、1997(平成9)年に5%、2014(平成26)年に8%、そして2019(令和元)年10月から10%と税率が引き上げられてきた。一般庶民の年貢は上がる一方、収入は下がる一方。よくこれで国民一揆が起きないなと思うのは筆者ぐらいかどうか知らないが、このインチキを理解した一部の人たちは「財務省解体デモ」をして頑張っている。なにせ財務省(旧大蔵省)とはそのまま「長州」だからだ。

 

 萩藩でも農民一揆はたびたび起きた。特に1831年(天保2年)に起きた防長大一揆では13万人以上の民衆が放棄した史上最大の一揆に発展している。その原因は萩藩が豪商たちと結託し、特産品のすべてを藩の専売品にしたためで、この時は農民だけでなく、商人や職人たちまでもが怒ったのである。なにせ専売品の収益も「撫育資金」の収益にしてしまったため、専売品の製造・販売する人たちが一斉に撫育局への怒りをあらわにしたのである。これぞ「撫育資金」の正体であり、江戸幕府にも嘘をつき、萩藩の領民たちをも騙して搾り取った金なのである。太平洋戦争の時に、一般の人間たちが持っていた貴金属類も全て没収されたのと同じなのだ。

 

◆特別会計と撫育資金

 

 「撫育資金」の正体をこれで終わりではない。というのも、この後、萩藩は江戸幕府を倒し、新政府を樹立するからで、維新の志士達はそのまま明治新政府の要人となり、いまでいう「官僚」は長州閥によって独占されることになったのである。そして、それは西南戦争で新政府から薩摩閥が引いた後でますます顕著となった。これが意味することは、現在まで続く明治新政府の官僚制度とは長州閥が作り上げたものということである。 

 

 実際、明治新政府の黎明期は、現在の財務次官に当たる大蔵大輔(おおくらのたいふ)が井上馨で、井上は後に大蔵卿(残材の財務大臣)となる。また、局長クラスに当たる大蔵少輔(おおくらのしょうふ)は後の総理大臣となる伊藤博文が担っており、大蔵省は初期から長州閥が牛耳っていた。そして、何よりも注目すべき点は、萩藩時代、井上と伊藤の役職が赤間関(馬関の意味)の外人応接掛だったことで、その同僚には村田六蔵こと大村益次郎もいたのである。

 

井上馨と伊藤博文

 

 実はこの赤間関外人応接掛とは撫育局直属であり、彼らの上司は木戸孝允であった。木戸孝允は赤間関応接場越荷方対州物産貿易事務管掌という越荷方のトップの役職で、その下の実働部隊として伊藤、井上、大村が動いていたのである。さたにいえば越荷方対州物産貿取引組駆引として、馬関の現地で采配を振るっていたのは、かの高杉晋作だったのである!! 前回、1865年から翌年にかけて長州が武器弾薬の購入のために15万205両もの支出があったとしたが、これらを購入したのが、木戸孝允、高杉晋作、井上馨、伊藤博文、大村益次郎たちで、彼らに武器を手配をしたのが坂本龍馬だったのである。

 

 お分かりだろうか。維新の志士達などというのは、後世に作られた長州をヨイショするための表現であり、長州出身の志士たちはみな撫育局員だったのである!! 撫育局の人間たちならば、撫育資金の重要さは身にしみて理解していたはず。明治から始まる度重なる戦争(日清戦争・日露戦争)の戦費はもとより、一般会計とは連動しない自分たちが好き勝手に使える金を密かに蓄えておくことの重要性は彼が一番良く分かっていたのである。明治に始まる官僚機構とはそんな連中が作ったものなのであり、その制度は150年経った現在でもほとんど変わっていないのである!! いや、絶対に変えさせないのである。

 

 日本の官僚制度とは「エリートによる権力支配」であり、これは明治新政府を支配した長州閥によって作られた頑丈な組織である。これまで多くの政治家たちが官僚制度の改革に取り組んだが、一度として成功したことはない強固な仕組みである。どんなに権力を持つ政治家といえど、官僚制度だけは打破することはできないのである。たった一度だけ破壊できるチャンスはあった。それは太平洋戦争の直後、GHQによって解体されそうになった時があったが、アメリカの日本統治の思惑の中で温存することが決まり、現在に至るまでメスは入っていない。唯一変わったのは、どこの組織もトップは在日朝鮮民族にしたことだ。

 

萩博物館の錦絵

 

 戦後から現在に至るまで、省庁の統廃合はあったにせよ、その仕組みと思想は何も変わっていない。つまり、現代まで続く「裏会計」の思想は萩藩の撫育資金であり、元撫育局員で大蔵官僚であった伊藤博文、大蔵大臣であった井上馨、撫育局トップで明治政府参与であった木戸孝允らがこの国の制度の中に埋め込んでいったものなのである。そう、撫育資金こそが現在の「特別会計」なのである。その証拠に、撫育資金と特別会計はそっくりである。一般会計の数倍の資金力を持ちながら、なにがあっても一般会計とは無関係。中身は公表せず、使用目的も国会の承認を必要としないのである。

 

 おまけに「特別会計」の資金を税金(年貢)から捻出する官僚たちが湯水のように無駄遣いするのもそっくりである。NHKの大河ドラマのような「維新の志士たち」などというのは幻想であり、いかに長州の撫育局に関わった人間たちが湯水のように金を使ったのかは、絶対に歴史の教科書にも登場しないし、大河ドラマでも描かない。描けないのである。NHKを作ったのも彼らの末裔だからだ。

 

 高杉晋作は1862年(文久2年)、幕府の視察船で上海に向かったが、物資の捕球のため長崎に約100日間足止めをくらった。この間、高杉は毎晩のように豪遊し、芸者の身請けまでして藩からもらった渡航費を残らず使ってしまったのである!! そのため、船が出航する際には買った芸者を転売し、その金を持って上海に向かっているのだ。さらに、上海から帰国すると長崎で見た蒸気船に惚れ込み、藩の許しも得ず勝手に売買契約を結んでしまった。1866年にも同じように長崎でトーマス・グラバーが保有していた艦船オテントサマ丸を3万6000両で衝動買いしているのだ!! 「はぁ?」である。ポルシェやフェラーリじゃない。艦船である。

 

高杉晋作と井上馨

 

 ところが司馬遼太郎好きの人たちは、それが小説であるにもかからわず、まるで本当にあったかのように錯覚してしまっている人が多い。「奇兵隊を作った高杉はイギリスに毅然とNo!と言った」などとして、「高杉晋作は男も惚れるような格好良さ」などと曰わっている。冗談も休み休み言いなさいというやつだ。現代でいえば海外出張を命じられた社員が、会社の金を使い込んでお姉ちゃんを水揚げした上に、無断で大型取引をしてしまったというもはや巨額の横領事件のような話なのである。司馬遼太郎を崇拝する人たちは、そうしたところも含めて「男に惚れて」しまうのかもしれない(笑)。

 

 井上馨も同じである。イギリスへの密航資金として藩から渡された600両(1人200両で3人分)を伊藤博文らとどんちゃん騒ぎをして全部使い切ってしまっているのだ。そりゃ男が惚れるわけだ(笑)。肝心の留学費用をどうしたのかといえば、江戸屋敷にあった撫育資金を担保に、萩藩出入りの豪商に5000両も借りて工面したのである!! 藩の一般会計は切迫しているというのに、100両、200両なんかはした金だといわんばかりに当たり前のように無駄遣いしているのである。まさに男のロマンだ(笑)。在日の自民党女性国会議員がパリで豪遊するなど彼らにとっては大した話ではないのである。

 

 お分かりだろう。どんなに国民が苦しい生活をしようが、財務省が「日本の借金は増え続けてます」などといい続け、増税必至といったインチキな論調をメディアへのブリーフィングで刷り込むのか。全ては彼らが「無駄遣い」をし続けたいからなのである。「やめられないとまらない、カルビーのかっぱえびせん」ということだ(笑)。

 

 

 彼らの御用メディアNHKは、2025年5月9日付けのニュースで以下のように報じている。

 

 “国の借金”1323兆円余 過去最大を更新 財政状況一段と厳しく

 

 国債や借入金などを合わせた政府の債務、いわゆる“国の借金”は、ことし3月末の時点で1323兆円余りと過去最大を更新し、財政状況は一段と厳しくなっています。財務省によりますと国債と借入金、それに政府短期証券を合わせた政府の債務、いわゆる“国の借金”は、ことし3月末の時点で1323兆7155億円と9年連続で過去最大を更新しました。去年3月末と比べた1年間の増加額は26兆5540億円となり、財政状況は一段と厳しくなっています。

 昨年度は防衛費や社会保障費が増えて、110兆円を超える当初予算が組まれたことに加え、電気・ガス料金の補助再開や住民税非課税世帯への給付金など物価高対策を盛り込んだ13兆円を超える補正予算を編成した結果、国債の発行が積み重なりました。
 内訳は、
 ▽国債が1182兆8849億円
 ▽短期的な資金繰りのために発行する政府短期証券が93兆8996億円
 ▽借入金が46兆9310億円となっています。

 今年度の当初予算は115兆円を超えて過去最大となり、新たな国債を28兆円余り発行する計画となっていて、引き続き規律ある財政運営が求められることになります。

 

 さらに借金を増やそうとしているのである。そして、それはまだ表の一般会計の話で、長州閥が今も握る「特別会計=撫育資金」はその4倍もあるのだ。インチキもいい加減にしなさいという話だが、この国の民は150年もこうしたインチキで騙され続けてきたのである。

 

<つづく>