シティポップな夏は「Timely!!」から始まる

「Timely!!」/ 杏里

 

 夏といえば杏里である。毎年「夏がキターっ!」と感じたら、必ず2曲目の「Windy Summer」を聴く。もうアルバム発売から39年間、ずっとそれを繰り返している。

 

 

 

 『Timely!!』は、1983年12月5日に発売された杏里6枚目のオリジナル・アルバムで、杏里の最高傑作である。過去にも紹介したが、また今年も紹介してしまう(笑)。なにせ今年で40年目である。もう長年連れ添ったカミさんみたいなもので、特別なものではなくなっている。が、なくてはならない存在というやつだ。

 

 とはいえ、毎年「Windy Summer」ばかり紹介しても仕方ないので、今年は他の曲にしてみたい。このアルバムは発売当時、同じ事務所の後輩だった角松敏生をプロデューサーに制作されており、同年大ヒットを記録したシングル『CAT'S EYE』と『悲しみがとまらない』を収録したこともあって、今作で自身初のオリコンアルバムチャート1位を獲得した。

 

 この『CAT'S EYE』はアルバム・ヴァージョンで、シングルとアレンジが大きく異なる。もう杏里が好きなディスコものになっているが、そこはブラコン大好きな角松のセンスである。『悲しみがとまらない』はもちろん林哲司の名作だ。林さんは今年デビュー50周年を迎える林哲司の全キャリアから、アンソロジストの濱田髙志氏が監修、カテゴリごとに系統立てて 選曲・構成したメモリアルな5枚組CD-BOXセット『Hayashi Tetsuji Song File』を発売された。おめでとうございま〜す!

 

 

 こいつが14850円もするBOXなのだ!貧乏なときには辛いのだが、本日めでたく大人買いしてしまった(笑)。なにせヒット曲、話題曲をはじめ、TVドラマやアニメ、 映画の主題歌、映画音楽、CM曲や お蔵出しのデモトラックまで初音盤化音源29曲を含む全103曲も収録しているのだ。買うしかないでしょう。

 

 実は『CAT'S EYE』と『悲しみがとまらない』は筆者的には意図的に避けてきた曲だ。杏里的じゃないからだ。なんて言うと、あんだけ大ヒットしたのに?という声が聞こえてきそうだが、これは楽曲の問題で杏里のせいでも角松のせいでもない。この2曲には触れないで『Timely!!』を語ろうとすると、まずは8曲目の「SHYNESS BOY」と「LOST LOVE IN THE RAIN」だろう。

 

 「SHYNESS BOY」は作詞・作曲・編曲:角松敏生である。シティなポップなのだが、どこかクサさが残るのが妙にいいのだ。まずは「SHYNESS BOY」というタイトルが少々クサイのだ。だが、80年代シティポップというのは、大滝さんとタツローさんを除いて、完璧なアルバムというものは存在しない。どこかクサさが残っているのが妙に安心するのだ(笑)。その辺りが角松作品のいいところでもある。

 

 

 

 このアルバムでは、実は杏里の作家としての力が発揮されている。それが「A HOPE FROM SAD STREET」(作詞・作曲:杏里)と「LOST LOVE IN THE RAIN」(作曲:杏里)で、特に「LOST LOVE IN THE RAIN」の出来は秀逸である。この5年くらいは実はこの2曲が刺さっている。「A HOPE FROM SAD STREET」は筆者的には「ハネめのストラット系」と勝手に呼んでいるのだが、妙にウキウキさせてくれる。都会のビル群の中を闊歩する感じの素晴らしい曲だ。

 

 『Timely!!』の素晴らしいところは、最後の3曲、「LOST LOVE IN THE RAIN」で盛り上がり、「DRIVING MY LOVE」で盛り上がりが最高潮に達して、「GOOD-NIGHT FOR YOU」で優しく締めるという怒涛の3曲だ。最後のバラードがしっとりし過ぎないところがいい感じで終われるのだ。

 

 ちなみに反則技だが、2008年07月16日に発売された紙ジャケ版CDに収録された<ボーナス・トラック>の「Remember Summer Days」が最高だ(笑)。なんで最初から入れなかったのだろうか?と今でも不思議だ。いつか当時の杏里のディレクターの方にきいてみようと思っている。

 

 

 「Remember Summer Days」はシングル『悲しみがとまらない』のB面で、角松敏生プロデュースの和メロウ・ブギーの傑作でもある。

 

 なんだかんだともうこのアルバムと40年付き合っている。アナログLPを買い、カセットテープを買い、初回プレスのしょぼい音のCDを買い、Blue-spec のハイクオリティ紙ジャケCDでやっと満足できたという歴史がある。40年前、「このアルバムを40年後も聴いてるだろう」と思ったが、実際そうなってしまった。人生ってやっぱり早いなぁ。