ロシア制裁で始まった世界的食糧不足

 

 ロシアの「ウクライナ侵攻」によって、世界的な食料不足が始まった。

 

 2022年4月、「FAO」(国連食糧農業機関)は、ロシア軍の「ウクライナ侵攻」から予想される世界食糧難について警告を出し始めた。日本人がどこまで理解しているのか不明だが、ウクライナは「小麦」の生産量で世界第5位、「大麦」の生産量では世界第2位、「トウモロコシ」の生産量でも世界第3位の大穀物生産国である。


 ウクライナはその穀物のほとんどを「キエフ」からウクライナ中部を流れる「ドニエプル川」を運搬、黒海の港町「ヘルトン」「オデッサ」「イズマイル」から大型貨物船で世界各国へ輸出するが、現在はロシアが実質支配する「クリミア半島」を拠点とする「ロシア黒海艦隊」が貨物船の入港を止めている。海上輸送路を封鎖している状態なのである。つまり、小麦を満載した貨物船が出港できない状況が大変な事態となっている。

 

 世界有数の穀物生産国おウクライナが輸出ができない状態となって、世界的な食料不足が懸念されはじめている。しかし、プーチン大統領は、「ロシアへの制裁を解除すれば、農作物の輸出を増やす用意がある」と発言、食料を「人質」に揺さぶりをかけると日本のマスコミは報道している。

 

 
黒海封鎖で世界的食糧不足の危機(テレビ朝日)



 黒海を経てトルコの海峡を通るルートをロシア海軍が封鎖していることで、ウクライナ農業省のタラス・ビソツキー次官は 「ロシアの黒海艦隊はウクライナの船が通るルートに軍艦を配置し、さらにロシア軍は主要輸出ルートに多くの機雷を仕掛けてい
る」とコメントしている。


 ロシアの黒海艦隊が仕掛けた機雷に貨物船が接触したり、接近するだけで爆発したり、磁気で貨物船に寄って来る磁気機雷など、日本を含む世界56カ国以上にウクライナは小麦を運ぶことができない。オデッサの倉庫に保管される小麦の量は2000万トンとされ、小麦輸出会社「テクライン」のポロシェンコ社長が懸念するのは、倉庫にロシアのミサイルが直撃することで、キーウ州の農場の3分の1以上がロシア軍の攻撃で破壊されたと嘆く。
 一方で、ロシア軍の軍用輸送車が南部の倉庫から小麦50万トンを既にクリミア半島かロシア地域に移動させ、AP通信が衛星写真から親ロのシリアの港に運ばれたと指摘、CNNはロシアの貨物船「マトロス・ポジニッチ」と特定した。

 

 バイデン大統領が次々と西側陣営にロシアの封じ込めを命じているが、エネルギー、食糧、経済活動のロシア制裁で最も困るのは西側陣営で、制裁当事国のロシアは「小麦」生産量で世界第1位、「大麦」生産量では世界第3位、「トウモロコシ」生産量でも世界第5位の巨大穀物生産国で、ウクライナを含めると主要三大穀物の相当数をロシアが握ることになる。つまりロシアは世界の穀物市場を握っているのと同じなのである。



◆「食糧戦争」
 

 プーチン大統領は確実に「食糧戦争」も想定しており、膨大な小麦をロシア制裁を行わない国に向け優先的に送ることも考えて
おり、2022年度の小麦とトウモロコシの不作に喘ぐアメリカを尻目に着々と手を打っている。
 2022年5月14日、世界2位の小麦生産国のインドが、インド政府の特別許可を除く
「小麦輸出禁止令」を発布、世界の穀倉で「欧州のパンかご」と呼ばれるウクライナと、世界一の小麦輸出国のロシアの輸出禁止により「世界食糧価格」の急激な上昇が起きている。

 

 

 4月には世界1位の食用油の「パーム油」生産国のインドネシアがパーム油輸出を中断、3年も続くコロナ禍で通貨量が急増する中、世界の主要国が自国市場に農産物を優先的に供給する「食糧保護主義」が一気に拡大し始めているのだ。
 日本の多くの経済評論家は、ロシアが小麦を輸出しなかったら、国内に小麦が溢れて小麦価格が大幅に低下、サイロに収納できない小麦は農家の庭先で野積みされ、そのままでは腐るため、ロシア政府は大変な事になると、「プーチン大統領の愚策」などと指摘しているが、まるで日本には何も起きないと高を括っているとしか思えない。これぞバカ丸出しである。

 これまでロシアは、国際的な穀物価格が高騰した場合、その都度「輸出制限」を行ってきたため、やがて自由に輸出が行われると、価格の低い自国から国際市場に穀物が供給され、国内の供給が減少し、価格も国際価格と同水準になるまで上昇する方法で生き抜いてきた実績がある。
 この場合、所得が高いアメリカ、カナダ、EU先進国と違い、ロシアのように所得が低く、そのかなりを食料品に割く国は、穀物価格の上昇に国民が耐えられないため、輸出を制限することで、国内価格を国際価格よりも低く抑え、国民に食料が行き届く政策を行ってきた。

 2022年3月14日、プーチン大統領は、ベラルーシ、カザフスタン等、近隣諸国への小麦などの穀物輸出を一時的に制限すると決めたのは、長期戦を覚悟したからだ。大幅なルーブル安によって生活物資の価格が高騰した結果、その分だけ自給できる小麦などの穀物価格を低く抑え、国民生活の負担を少なくする政策を実施している。
 ベラルーシやカザフスタンなどの親ロ国家には、ウクライナで獲得した大量の小麦を送ることで解消すると思われる。その意味でプーチン大統領は、少なくとも食糧が有事の際の「戦略物資」と知る国際感覚を持っていると言える。

 

 

◆「黒パン」「ウォッカ」「タバコ」

 佐藤優氏は自著の中で、「ロシア人は黒パン、ウォッカ、タバコを切らさなければ国民は納得する」と指摘している(笑)。笑い話のように聞こえるが本当の話で、アルコール中毒患者が莫大に増えたことでウォッカを飲ませないようにしたゴルバチョフ大統領は国民はゴルバチョフを支持しなくなった。だがプーチンはそれを理解しているからこそロシアの「3種の神器」(とは言わないだろうが)を欠かすことなく国民に提供しているのだ。

 

 


 一方、日本の台所を預かる「農水省」は、食料自給率を本気で考える意思は上っ面だけのことで、小麦製品が食べられなくても米があるので大丈夫という「主食は米だから大丈夫」という論理に終始し、「国内で自給できるのは米だし、米は余っていますから」で終わりにしてしまう。さらに日本の食料自給率29%というのは「カロリーベース」というインチキな計算方法で、本当に日本人は「米があれば大丈夫」なのだろうか?


 「農水省」の官僚にとって「食料自給率」の向上は、農業保護を維持する為の方便と口実に過ぎず、本気で達成しようとする気は全くなく、平和時で踊るキリギリスのように、ロシアの戦術核ミサイル一発で世界規模の大食糧難が訪れることなど考えもしない。

 ウクライナを発火点に「第3次世界大戦」が勃発すれば、有事の際の「食糧」は、石油、ガス、武器と同じ〝戦略物質〟になる為、世界の穀物輸出国が一斉に食糧の輸出を停止する事態になる。そうでなくても既にインドもインドネシアも禁輸を開始している。

◆食料、肥料、エネルギー不足によるパニックが起きる


 ロシアは「ヒマワリ」の種の巨大生産国で、「油糧種子」の輸出国でも世界第5位であるばかりか、肥料の主原料(窒素・カ
リ・リン酸)の世界最大輸出国でもあり、ロシアの肥料が無ければ世界中の穀物生産量が一気に低下、穀物価格の急上昇を招くことになる。
  無機肥料でも「カリ肥料」は生産国が限られ、ロシアと同盟国のベラルーシの影響力は避けられず、カリ肥料でロシアは「ウラル
カリ社」が最大手で、ベラルーシは「ベラルーシカリ社」が独占企業で、更に「ウラルカリ」&「ベラルーシカリ」の合弁企業「BKK/ベラルーシ・カリ会社」は、世界の40パーセント以上のシェアを握っている。

 

 「小麦」もそうだが世界の13パーセントを占めるウクライナの「トウモロコシ」の輸出が、黒海封の鎖真っ最中の初夏に行われるため、ロシア制裁による西側陣営の影響は予想以上に甚大となるはずだ。このままロシア制裁が長引けば、北半球の10月に作付けされる「小麦」「大麦」の冬作は、ロシア制裁による肥料と農薬不足で育ちが悪くなる。
 さらにバイデン大統領のロシア制裁に参加する国は、日本を含めて原油、天然ガスの輸入禁止措置から、ガソリン代の高騰とガス代の高騰と電気代の高騰を招き、計画停電と本格停電は日常茶飯事となり、夏場の大停電は熱中症患者の大激増で病院はパンクするかもしれない。

 

 「戦略物資」と化した食品輸出が制限される中、輸入国が抜け駆けのパニック買いに走る事態は目に見えており、EUでもバイデン大統領の一方的ロシア制裁から手を引く国が次々増えるだろう。既にイタリヤハンガリーは抜け駆けをはじめている。
 ロシアとウクライナは2022年4月8日と9日に「小麦輸出」を制限しはじめた後、アルゼンチン、ハンガリー、インドネシア、トルコは次々と輸出制限を発表した。

 日本人の殆どはスーパーに食品が並び、コンビニでおむすびやコロッケを買えると思っているが、パン、ラーメン、うどんの材料の小麦は高品質な小麦が使われる為、入荷困難となればトウモロコシを含め家畜飼料が転用される事態に突入する。家畜用トウモロコシを人に回せても、それはそれで所詮は小手先業の焼け石に水だが、そんな代用をすれば他の主要食品にインフレをもたらし、結局価格が高騰して物を買えず飢え死にする事態に陥っていく。

 もはや旧ソ連のようにスーパーに日本人が大行列する日も近い。パンもケーキも食べられなくなり、ビールも飲めなくなる。北海道では漁業が大打撃を被っており、鮭もイクラもニシンも食べられなくなる日も近い。

 日本ではロシアを褒めると、まるで「非国民」「認否人」のように扱われるが、それは偽コロナ禍による「ゲノムワクチン接種」と全く同じ構造と気付く者は殆どいない。自公の在日政治家は「在日特権」で、在日官僚は「公務員特権」で守られ、食糧難の際は優先的に食糧を得られるが、飢え死にするのは日本人だけで、さらに偽のコロナ禍でワクチン接種した80パーセントものクチン接種者の悶絶死と餓死が2022年の夏休み頃から格化する。