今から１０年ほど前に
私と兄が泊まった旅館での出来事です。
元々は母が何かの懸賞でその旅館の宿泊券を
当てたのですが、
出発の２日前に足首を捻挫してしまった為に
行けなくなり、代わりに
私と兄が行く事になりました。
正直、兄と行っても楽しくないので
断ったのですが、
母が「もったいない」と少しキレ気味に言うので
仕方なく兄と行く事にしました。
兄は当時免許取り立てだったので
車の運転ができると喜んでいました。
ただでさえ気が乗らないのに、
兄のおぼつかない運転の車という事で
さらに気分が沈んでしまいました。
なんだかんだ言いつつも無事旅館に着きました。
有名人御用達の高級隠れ宿と言った雰囲気の
旅館に私は沈んでいた気分が一気に上昇しました。
とっても素敵なんです。
多分、私のお給料では一生宿泊する事ができない
レベルの旅館だと思います。
見た事もない豪華な食事と露天風呂に
母がキレ気味に言っていた意味が分かりました。
食後、お風呂に入って寝る事に。
兄も「俺も風呂に入って寝るわ」と言ったので
各自お風呂場へ向かいました。
部屋に戻ると、電気が点いていません。
兄はまだお風呂なんだと思い
１人で部屋に入りました。
布団が綺麗に敷かれた和室に入ると
奥に敷かれた布団に人影があったので
なんだ、兄はすでに戻って来ていて
寝ているんだ。
朝早かったのと、車で４時間掛かったので
疲れて寝たんだと思いました。
私もかなり疲れていたので、さほど気にせず
手前の布団に入りました。
それから５分くらい経った時、
部屋のドアがガチャガチャと鳴ったので
私は入口の方を見て
やだ、他の客が部屋を間違えているんだ、
そう思いました。
ガチャガチャ ガチャガチャ
カチッ
ガラガラガラ
引き戸を開ける音がするんです。
入って来ちゃった。
怖い、
兄を起こそうと思った瞬間。
和室のふすまが少し開いて
「なんだよ、もう寝ちゃったの？」
言うとすぐにパタンと襖が締まりました。
兄でした！！
どういう事？
ちょっと待って、
じゃあ、すでに寝ている人は、
誰？？？？
兄じゃないの？？？
私は怖くて後ろを見る事ができません。
全身が小刻みに震えて
歯がガクガク鳴っている音だけが聞こえています。
よせば良いのに、
後ろで寝ている人が近づいて来て
自分の肩をポンと叩いたらどうしようと
考えてしまい、余計怖くなりました。
全身の力を振り絞って起き上がり
襖を開けて兄のところに行きました。
兄は呑気に洗面所でドライヤーをかけていました。
取り乱した私に
兄は驚いた表情で
「どしたのお前？」
鳩が豆鉄砲を喰ったような顔に少し落ち着きました。
事情を説明すると
「マジで？
誰かいるの？？？」
いつも頼りない兄ですが
この時ばかりは頼りになりました。
腰は引けていたのですが、勇敢にも
１人で和室を見に行ってくれました。
ですがその布団には誰もいませんでした。
誰か寝た形跡もなく、
綺麗な状態のままでした。
私の見間違えとは言え
さすがに兄はこの布団に寝る気がしなかったので
フロントに電話をして布団を
変えて貰いました。
懸賞で当てて泊めて貰っているのに
図々しい気もしましたが
快く新しい布団を仲居さんが持って来てくれました。
その後は特に問題なく過ごし
無事に家に着き、母に旅館で体験した
あの事を話しました。
母は「それは私の勘違いだよ」と
笑っていました。
私もそうだよね、と思う事にしたんですが
兄が、
「いや、あの部屋本当に出るんじゃないか」
両手をだら～んと不気味に垂らしながら言うのです。
あの時、２人の仲居さんが布団を変えに
来てくれたのですが、部屋を出る際
「やっぱりお祓いした方が良いかもね」と
小声で言っていたのを兄が聞いたというのです。
「だから、懸賞にあたった人で
幽霊が出るか試していたんじゃないか？」
こんな事を言っていました。
本当かどうかは分かりませんが、
こんな怖い体験をしました。
メッセージよりお寄せいただきました。
ありがとうございます。
ド派手な幽霊譚と違って
じわりと感じる恐怖ですね。
兄だと思っていたのに違った。
分かった途端に
背後に広がる闇が襲いかかって来た。
私の勝手な想像だが、
以前にその部屋で自ら命を絶った客がいたとか。
お兄さんの言っていたように
懸賞に当たった人で試していたとしたら。。。
怖い話だ。
いつも読んでくれて、ありがとうございます。
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