(過去記事から)

知的障がいのある小2の★ちゃん。

7の指を見せると、「7」と答え、
その指を見せたまま、「あといくつで10になる?」とたずねると、
「3」と答えることができるようになっています。
他の10の合成も指を見せてする限り、完璧です。

しかし、
「手を見せないで、7といくつで10になる? と、たずねると、
何度教えても、答えが出ません。もう、本当に何度も何度も
うんざりするくらい教えるのですが、10の合成の数パターンを記憶することができません」という★ちゃんのお母さんのお話をうかがい、
それを解決するための「ゆるやかな階段」を作れないか、
考えてみました。

★ちゃんは頭の中でイメージの像を結ぶのが難しいようで、
絵を描いたり、ブロックで作品を作ったりすると
形にならないものを作り、それを命名することも苦手です。


(先月、この問題に取り組んだところ、
どうしてできないの? どうしたら できるようになるの? 


今回は、それとなく恐竜のように見えるブロック作品を作って、自分から、
「かいじゅう」と言ってましたから、こうした面は少しずつ改善されているようです)

★ちゃんが、手を見せていると、10の合成を言えるけれど、
手を見せないでたずねると、何度練習してもできない困った状態になることと
関連がありそうな問題は次のようなことです。

目を閉じさせて、手だけでおもちゃや生活用品に触らせて、

「なあに?」とたずねると、「くし」を「ボール?」と勘違いするような
とんでもない間違いをおかします。
目を閉じさせて、1本の指に触れ、「どの指を触ったでしょう?」とたずねると、

全然別の場所を指したり、2本の指に触れ、

「何本の指に触ったでしょう?」とたずねると、「5本」と答えたりします。

(この様子から、目で見る以外の情報のインプットが、

正しく知覚されていないことや、目で見ていないときに、自分の指のイメージを思い起こすことが難しそうなことが感じ取れます)

3枚のハム太郎のお友だちのカード、
「ナースちゃん」「エンジェルちゃん」「りぼんちゃん」の名前をそれぞれ教えて復唱させていって、

その後、最初のりぼんちゃんを指して「だれでしょう?」
とたずねると、全く覚えていません。
それを数十回繰り返して、何度も教え続けているうちに、
「りぼんちゃん」は覚えて、全てのカードについて「りぼんちゃん」
と答えるようになりました。

(耳から入った記憶を短期間でもとどめておくことが難しいようです。

一度は何とか覚えたものも、他のことをすると、すっかり記憶から消えてしまいます)

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★ちゃんと月1回、お勉強や遊びをいっしょにするようになって
1年になります。
1年前に比べると、★ちゃんは飛躍的に伸びたことがいくつかあります。
最初の頃、★ちゃんの遊びは、「見立て遊びをしはじめる時期の子たちの……なんちゃってごっこ遊び」が主で、
椅子を並べたり、ままごと道具を広げたりするものの、それほどはっきりした目的はなく、

食べ物をよそう真似をして、「何にしますか?」「はいどうぞ」といったやりとりや、
並べた椅子について「バス?」とたずねると「そう、バス」「学校?」とたずねると

「そう、学校」と答えるものの遊びを展開する姿はないという適当なものでした。
ボードゲームやカードゲームも誘われて何となく参加するものの、
うながされる行為に、言われるまま従い、
「もう終わりでいい?」とたずねては、またなんちゃってごっこ遊びに舞い戻る姿がありました。

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それが、今年に入って、「UNO」にはまって、何回でもやりたがり、しまいに
お友だちから「UNO名人」と評されるほど、上手になってきたのです。
他のカードゲームも、新しいゲームに積極的に参加しようとする上、
ルールを覚えるのは上手で、終わると必ず「もう1回やりたい」と言います。

また非常に苦手だった座標上の碁石の位置を模写するような作業ができはじめ、
ブロック作品をまねさせるときにも、空間的知能が伸びてきたのがわかるようになりました。

手作業も、根気よく続けることができるようになり、四角を描くことができるので、漢字も上手です。

★ちゃんのこの1年の何よりの変化は、笑顔が増え、
学習にも遊びにも
積極的に根気よく参加するようになったことです。
虹色教室でしたゲームや手作業は、たいてい自分から「お家でもしたいから」と言って借りて帰ります。

こうした変化にともなって、
「★ちゃんが喜んで何度取り組んでも
伸びないという部分」も
浮き彫りになってきて、
それにどう対応したらよいのか、考えるときがきたようなのです。

 

★ちゃんとハム太郎のカードで遊んでいたとき、
いくつか気になったことがありました。
ハム太郎のカードには、トランプ大のカードの一番上の位置に、大きな字で
カタカナとひらがなで「りぼんちゃん」という具合に名前が書いてあります。

★ちゃんはカタカナもひらがなも読むことができますから、
「本のタイトルやカードの名前などは、目立つ位置に大きな字で書いてある」
ということに気づけたなら、何十回も間違いをおかさなくても、
正しい答えが言えたはずです。
(私は★ちゃんが、カードのどの部分から情報を得ているか知りたかったので、あえてヒントは出しませんでした)

障害のない幼児は、教えられなくてもたくさん情報を目にするだけで、
そうした隠された特長に自分から気づくようになります

。幼児がいろいろやってみようとするのを邪魔し、

安易に教えすぎ、指示しすぎると、自分で発見する力が失われます。)

また、りぼんちゃんの絵は、青いりぼんをしたハムスターですから、

その特徴と「りぼんちゃん」という名前の類似点に気づけたなら、この子がりぼんちゃんと特定することができたはずなのです。

でも、★ちゃんは、UNOのルールを覚えカードを見分けて遊べる能力があるにもかかわらず、
自分で「気づく」力となると極端に弱いことになります。

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この姿から、以前学習を見ていたことがある知的障がいの○ちゃんのことを思い出しました。
その子が虹色教室に来たとき、小学2年生でしたが、

猫と犬の違いがわかりませんでした。検査では知的なレベルは3歳くらいということでしたが、
会話はまあまあできるのに、
知っている動物や物の名前が極端に少なく、

2~3歳児向けの図鑑の絵に載っているものの名前もほとんどわかりませんでした。

○ちゃんは、身体を動かすのを億劫がって、ほとんどの時間、
座ったまま半分眠っているような表情をして過している子でした。
きょうだいや友だちとも遊びらしい遊びはしないものの、
「エンタの神様」というテレビ番組が好きでそのギャグを口真似したり、
可愛らしい女の子に人気のキャラクターの文具が好きでした。

○ちゃんが、たまたま教室にあった「たまごっち」のキャラクターに興味を
しめしたので、この「たまごっち」の名前を覚えることから学習を始めました。


すると、いつもぼんやりしていた○ちゃんが、
熱心にたまごっちのポスターを眺めたり、「これは、めめっち!これは、くちぱっち!」

と指を指して言うようになり、2週間ほどの間に何十ものキャラクターの名前を言えるようになりました。

たまごっちのキャラクターというのは、
いちごのずきんをかぶっているキャラクターは「いちごっち」だったりと……
見た通りそのまんまの名前が多く、
特徴に気づけば名前が浮かんできやすいものです。


それで、しばらくたまごっちの名前を覚えるのに夢中だった○ちゃんは、
分厚い幼児向けの図鑑に載っている物の名前をどんどん覚え始め、

足し算の暗唱、かけ算の暗唱などもかなりできるようになってきたのです。
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同じ知的障がいという診断名がついていて同学年でも、★ちゃんと○ちゃんの
「できること」と「できないこと」は、ずいぶん異なります。


○ちゃんは、概念を理解することは難しくても、
根気よく繰り返しさえすれば、
単純に耳から入ったものを暗記していくことは
できたのです。


世界一周ゲームが気にいって、何度もしていましたが、遊び方の手順は
再現できても、その背後にある意味を察することは困難でした。

一方、★ちゃんは、何度繰り返してもいっこうに覚える気配のないものがたくさんあります。

唖然とするほど、記憶できないのです。

しかし、目に見えるものである限り
「これは難しいのでは?」と思われる概念を
理解して、使うことができるのです。
驚いたのは、「ジョーカーはどの数字としてもオールマイティーに使うことができる」と

いうルールを理解して、自分から様々なゲームのシーンで使うようになったことです。


また、7の指を見て、あといくつで10になるかは、残りの指を数えればいいとわかるのもスムーズだったのです。

ままごとで遊ぶ姿を見ていても、★ちゃんが、なかなか理解力の高い子であるのはわかります。

それに対して、極端に不得意な面があって、
それが学習の進みを妨げているのは確かなのです。
★ちゃんのことを考えていて、○ちゃんの話を取り上げたのは、

○ちゃんは記憶が苦手でなかったとはいえ、小2まではそうではなかったはずなのです。

犬と猫の名前や、バナナやチューリップといった名前すら出てこなかったのですから……。

数ヶ月の間で○ちゃんに記憶力がついてきた理由をつきとめれば、
★ちゃんにも役立つかもしれません。

また、リボンちゃんのリボンの特徴から「リボンちゃん」という名前とつなげられない★ちゃんの現状は、

○ちゃんと同じように好きなキャラクターの載っているポスターなどで、
特徴と名前が近いものをたくさん楽しんで覚えてみること

で改善できるかもしれないのです。

一度で良いから、「好きなものの名前をたくさん覚えてみる」
という体験が、
別の記憶をする際にとても役立ってくるかもしれない……
と感じました。

 

手を見ずに、10の合成のイメージを頭に浮かべることができるように、
私は、折り紙2枚を用意して、★ちゃんの手形をえんぴつでなぞって作りました。

それから、キラキラするアクリルストーン(100円グッズ)を
手形の指に乗せていき、
「いくつ?」「あといくつで10?」とたずねてみました。
これは易しい様子。
その後で、
アクリルスローンを置いたまま、
上から紙をかぶせて見えなくした状態で、
また「今、8個指に乗っているよ、どことどこだろうね。あといくつで10?」とたずねてみました。

するとちゃんと答えが言えるのです。

それこそ、上から紙をかぶせたまま、全く見えないようにして、
中でそっと数を操作したとしても、答えがわかるのです。

この後、私は小皿をふたつ用意して、
★ちゃんに見せないようにして、2個と3個に分けて、
2個の側に布をかぶせておきました。
そして、「あわせて5よ。こっちの隠しているお皿にいくつ入っているでしょう?」とたずねると「2!」と答えられました。

それが★ちゃんは、小皿なしで、「3といくつで5になるでしょう?」といった問題には答えられないのです。

どちらにしても答えは目で見えないはずなのに、どのような
違いがあるのでしょう?
次のような理由が考えられるのではないかと思われました。

★ちゃんは、問題側の3といくつでの「3」をイメージすること自体が難しいか、

その3のイメージを保ったまま、次の数について考えるという同時に2つ作業することが難しかった。
それで、一方だけでも目で見える場合だと後は想像しやすかった。

★ちゃんは、膨大な自分の中の情報から自分に必要なものを検索してくる力に弱さがあり、

目で見える手がかりがないとイメージをすることがとても困難になる。

★ちゃんは、何をイメージすれば問題が解けるのか、目的を達成するために
何が必要か、気づく力に問題がある。だから、皿があることで、
何をイメージすればよいか具体的で、答えが出せた。

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そうしたいくつかの理由が考えられるものの、
今は、目で見ないでも、
10の合成が言えるようになるためのスローステップを作って、
少しでもそこに近づくことが大事なので、
原因について追求することは、いったん脇に置くことにしました。

そして、
「この手形や小皿を目の前に置いた状態で、
問題や答えは、布などで隠して、答えを言い当てる」

という練習をしてきてもらうことにしました。

★ちゃんは、今回、キティーちゃんのご当地トランプカードという
1枚1枚絵柄が違って可愛らしい(★ちゃん好み)トランプで、
「10の合成」のお店屋さんゲームをしました。

とにかく★ちゃんに大ヒットで、何度やっても飽きない様子。

お互いに自分の前に1~9のトランプをバラバラに並べていて、
自分の番のとき、
自分のカードを1枚取り、「これは、3だから、7ください」と
合わせて10になるように、相手のカードを買う(真似)というゲームです。
毎回、かなりヒントはいるものの、
(何度やっても、いっこうに覚える気配はないものの、5と5で10は覚えました)
何度も楽しみながら、いくつといくつで10が耳にできるので、良いゲームです。
★ちゃんは、このカードを嬉々として持って帰りました。

こうした取り組みは、障害の種類によっては、やってもやっても良い結果が出ない場合があることでしょう。
しかし、大きな視野から眺めると持続力がついていたり、考える力がついていたりと、
別の面で非常に伸びてくる場合があるものです。

教える側も、
何かをマスターさせることに躍起にならず、
子どもといっしょに、学んだり遊んだりする過程を楽しむ気持ちが
大切だと思います。