【出生数75.8万人の衝撃】「奇跡の町」が高齢者に突きつけた過酷な現実 | 本のブログ

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過酷な現実は、たとえ、今年から大量に子供が増えても、高齢者層へのインパクトは限定的、もしくは、ほぼない。

なぜなら、新生児が社会に出て貢献するのには、20年ほども掛かるからで、高齢者にとって、自身の生存とのトレードオフになるからだ。

だから、高齢者を説得するのではなく、現役世代を説得することが、本当の意味では重要なのだと思うのだが、誰もそれをしようとはしない・・・不思議なことだと思う。

【出生数75.8万人の衝撃】「奇跡の町」が高齢者に突きつけた過酷な現実「子育て支援より墓じまいにカネを使うのか」
3/4(月) 11:02配信 JBpress

 2019年に合計特殊出生率2.95を記録し「奇跡の町」と呼ばれる、岡山県奈義町。2002年に「町存続の危機」を訴えてから徹底した子育て支援策を実施してきた。
 その過程では、「なぜ我々のカネを子育て支援ばかりに使うのか」と高齢者から反発を受けたこともあったという。
 奥正親町長インタビュー後編では、「現役世代vs高齢者」という日本全国共通の課題をどのように克服してきたのかについて聞いた。
 (湯浅 大輝:フリージャーナリスト)

■ 駐屯地の影響はわずか
 ──人口約5700人の奈義町には、自衛隊の駐屯地があります。雇用の受け皿としては大きな存在かと思いますが、他にはどのような仕事に従事している方が多いですか。
 奥正親・岡山県奈義町長(以下、敬称略):町内にある自衛隊駐屯地(日本原駐屯地、約600人が勤務する)の他には、町内の工業団地で勤務されている方(町民の17~18%が勤務)や、隣の津山市(人口約10万人)・美作市のサービス業に従事されている方々など、さまざまです。

 ──出生率2.95を記録したのは、結婚適齢期の世代が多い自衛隊駐屯地があることも関係しているのでしょうか。
 奥:2014年に出生率2.81を記録した際、自衛隊勤務の方々を除いた数値を計算したことがあります。すると、2.61という数字が出ました。奈義町で暮らす自衛隊員はご家族を含め約400人程度で、もちろん出生率への好影響はありますが、すべてではないと考えています。

 ──やはり、現役の子育て世帯の移住者も多いのではないですか? 
 奥:2021年9月から2022年10月の数字で、Uターン者が91人、Iターン者が97人です。Iターンをする方々はメインが子育て世帯で、近隣の市町村や県内から移住していることがほとんどです。やはり「奈義町では子育てがしやすいらしい」という噂を聞きつけて、いらしているのではないでしょうか。
 今年中には増加する子どもの数に対応するために、老朽化した2つの幼稚園と1つの保育園を統合し、幼保連携型認定こども園の「なぎっ子こども園」を開園します。給食も無料にする予定で、さらに子育て支援を充実させていきます。

 ──「なぎっ子こども園」着工を巡っては、高額な建設費に対して不満の声を抱く高齢者もいる、という一部報道もありました。多くの自治体は人口ピラミッド上、高齢者が大多数を占め、現役世代との対立に悩んでいると思います。奈義町では、こうした問題をどのように解決していますか。

■ 怒る高齢者のなだめ方とは
 奥:「自分たちが貯めたお金なのに、自分たちのために使ってくれない」という気持ちを抱く高齢者の方々もいるでしょう。ただ一方で、先ほど(前編)お話しした通り、奈義町存続を住民投票で決めたのは、他ならぬ高齢者の方々でもあります。
 若い現役世代がいて、子どもを産んでくれて、はじめて高齢者が享受する公的サービスが存続できるわけです。仮に、現役世代にだけ重い負担を課してしまうような地域になってしまうと、高齢者の支え手がいなくなり、結果的に介護や病院などの福祉の質が落ちてしまうのです。子育て支援はある意味で、高齢者に対する福祉でもあると考えています。
 私は時々、高齢者の方々に「家でお金を貯めても、子どもがおらず、誰も帰ってこない。そのお金はどこに使うんですか?  墓じまいに使うのですか?  今奈義町で起きているのは、それと同じことですよ」と問いかけています。子育て支援にお金を使わないと、自分の愛する町に何も還元できなくなってしまうでしょう。
 また、高齢者の方々の納得をいただくためには「現在のサービスの質を落とさない」ことも重要だと思います。「我々は放っておかれている」と孤立感を抱えてもらいたくないからです。実際に、補聴器購入や帯状疱疹ワクチンのための補助金を用意するなど、その都度必要なお困りごとを解決する体制をつくっているのです。

 ──若い人と子どもが増えなければ、自分たちの首を締めることにもつながりかねない、ということですね。
 奥:人口減少社会というのは、皆さんが思っているより生やさしいものではないと思います。特に、人口約5700人の奈義町にとっては町の存続がかかっている死活問題です。
 議会でも「出生率2.3を維持する」ことを掲げ、現在の人口をキープしようとしていますが、それでも高齢者の多さを考えると、将来的に町民の数は減っていくでしょう。現実的には「5000人で成り立つ町」を目指しています。逆にいうと、5000人を切ってしまうと、町を支えているさまざまなインフラを維持できなくなってしまうのです。
 奈義町の1960年代の人口は9000人以上でした。2000年代から少子化対策に本腰を入れ始めて、5700人代でなんとか踏みとどまっているのが現状なのです。正直、この人口でも、町の存続という観点からは「崖っぷち」の状態ですよ。それくらいの危機感でさまざまな政策を打っています。

 ──規模の違いこそあれど、奈義町と同じように「現役世代vs高齢者」という構図で身動きが取れなくなっている自治体はたくさんあると思います。各方面からの反対があっても、少子化対策を最重要項目に位置付けるべきでしょうか。

■ 奈義町でさえコロナ禍で出生率減
 奥:「国としても人口は減っていくし、仕方がないかな」と思っていては、自治体は消滅してしまいます。国に頼らずとも、自治体が主導して動ける余地は随分大きいのです。
 奈義町は2012年に「子育て応援宣言」を発表しました。行政が町民に「子育て支援に注力する」と約束したのです。こうした宣言や条例を残しておくと、選挙で首長が交代しても、自治体としての姿勢は維持できるものだと思います。
 自治体が取れる具体的な行動としては、まず現在の子育て世帯が置かれている経済的苦境を理解するべきです。その上でそれをサポートするような制度を用意しなければいけないと思います。理想的には「子どもが自立するまで、金銭的には自治体が支援してくれる」という安心感を与える必要があるでしょう。
 将来への不安があると、どうしても子どもは増えないものです。奈義町でさえ、コロナ禍の2020年の出生率は2.21、2021年は2.68と、例年よりも低い数値を記録しました。経済的支援で不安感を少しでも払拭できるなら、迷わず実行すべきです。
 そして、子どもは国・地域にとって宝である、という認識を広めていくべきだと思います。高齢者に対しては、自分の愛する町の存続のためには子どもと現役世代が必要だ、と実感してもらわなければいけませんし、たとえ政治的判断としては不利になったとしても、踏み込みにくいところにも踏み込んでいくべきです。
 結婚適齢期の未婚者の住民にも「子育ては本来、とても楽しいことなんだ」と分かってもらう必要があるのではないでしょうか。奈義町では「なぎチャイルドホーム」に、中学生や高校生を呼び、子育てに参加してもらう機会を設けようとしています。
 個人主義的な生き方を否定するわけではありませんが、結婚や子育てに対するマイナスイメージばかりが先行してしまうのは良いことではないでしょう。実際に、なぎチャイルドホームの利用者は、大変なことさえあれど、充実した子育ての時間を過ごせているのです。
 「異次元の少子化対策」は何も経済的な支援だけではなく、地域のあり方・子どもに対する認識のあり方を含めた、抜本的改革を必要としていると思います。>>前編:【出生数75.8万人の衝撃】出生率で全国平均の2倍超「奇跡の町」奈義町長に聞く少子化対策、おやつ代も支援する理由