道路工事のおじさんになりたかった
私は昔、道路工事のおじさんになりたかった。
正確に言うと、5歳の時に一瞬だけ、道路工事のおじさんにになりたいと思ったことがあった。
事の始まりは、保育園の卒園式も差し迫った3月のこと。“卒園式で将来なりたいものをひとりひとり発表しましょう” ということで名簿が回ってきた。他の子は、『お医者さん』、『お花屋さん』、『パイロット』、『SM嬢』 、『お菓子屋さん』 などと書いている中、いや、SM嬢はウソね。……などと書いている中、私は堂々と『道路工事のおじさん』 と書いた。もう、変なの挟んだから話のテンポがおかしくなったじゃないか。……まあ、続ける。
3月と言えば年度末。家族でドライブしていたときに、私は年度末恒例の道路工事をしているのを見つける。そのころの私の楽しみと言えば、砂場で山を作ったり穴を掘ったり山をぶっ壊したりというもの。それが道路工事を見て、“すっげーたのしそう! どーろをぶっこわしてる!!” と思ったのだ。すぐさま母親に聞くと、「あれは『道路工事のおじさん』 よ」 と優しく教えてくれた。『道路工事のおじさん』 ……今まで知らなかったが、なんて魅力的な職業なんだ!!!
話は戻って、回ってきた名簿に私は堂々と『道路工事のおじさん』 と書いた。お前ら知らないだろうけど? みたいに他の園児に対して少々の優越感を伴って。
しばらくすると、保護者を起点として自分に妙な視線が投げかけられているのがわかった。“あの子道路工事のおじさんになりたいんだってクスクス” 、“道路工事のおじさんって、あの道路工事のおじさん? クスクス” 、“ママー、道路工事のおじさんってなに? それはね、クスクス”、“クスクス”、“クスクス” ……
正直しくじったと思った。どうにかしてこの現状を打破せねばならないと思った。しかしこっちは5歳児、何の手立ても講じられないまま卒園式を迎えてしまう。
卒園式当日。私は死刑台に登る死刑囚の心持ちで列に並んだ。自分の左から順番に、「お医者さんになりたいです!」、「お花屋さんになりたいです!」 どんどん迫ってくる。「パイロットになりたいです!」、「SM嬢になりたいです!」、「お菓子屋さんになりたいです!」、「SM嬢になりたいです!」、「SM嬢になりたいです!」 SM嬢多いなおい! とか冗談を言うヒマもなく自分の番が回ってきてしまった。そして私は言った「……動物園の飼育係になりたいです」 すぐさま先生が飛んできた。「あなたは、『道路工事のおじさん』 でしょう!!」 とすごい勢いで言われた。果たして私は卒園者の中で、たったひとり、自分のやりたくないことを言う人になってしまった。「道路工事のおじさんになりたいです……」 周りの反応など覚えていない。ただ下を向いていたのだけ覚えている。それがトラウマで、将来の夢を恥ずかしくて言えない子に育ってしまった。
そんな私も、今では立派な道路工事のおじさんです! んなわけない。
正確に言うと、5歳の時に一瞬だけ、道路工事のおじさんにになりたいと思ったことがあった。
事の始まりは、保育園の卒園式も差し迫った3月のこと。“卒園式で将来なりたいものをひとりひとり発表しましょう” ということで名簿が回ってきた。他の子は、『お医者さん』、『お花屋さん』、『パイロット』、『SM嬢』 、『お菓子屋さん』 などと書いている中、いや、SM嬢はウソね。……などと書いている中、私は堂々と『道路工事のおじさん』 と書いた。もう、変なの挟んだから話のテンポがおかしくなったじゃないか。……まあ、続ける。
3月と言えば年度末。家族でドライブしていたときに、私は年度末恒例の道路工事をしているのを見つける。そのころの私の楽しみと言えば、砂場で山を作ったり穴を掘ったり山をぶっ壊したりというもの。それが道路工事を見て、“すっげーたのしそう! どーろをぶっこわしてる!!” と思ったのだ。すぐさま母親に聞くと、「あれは『道路工事のおじさん』 よ」 と優しく教えてくれた。『道路工事のおじさん』 ……今まで知らなかったが、なんて魅力的な職業なんだ!!!
話は戻って、回ってきた名簿に私は堂々と『道路工事のおじさん』 と書いた。お前ら知らないだろうけど? みたいに他の園児に対して少々の優越感を伴って。
しばらくすると、保護者を起点として自分に妙な視線が投げかけられているのがわかった。“あの子道路工事のおじさんになりたいんだってクスクス” 、“道路工事のおじさんって、あの道路工事のおじさん? クスクス” 、“ママー、道路工事のおじさんってなに? それはね、クスクス”、“クスクス”、“クスクス” ……
正直しくじったと思った。どうにかしてこの現状を打破せねばならないと思った。しかしこっちは5歳児、何の手立ても講じられないまま卒園式を迎えてしまう。
卒園式当日。私は死刑台に登る死刑囚の心持ちで列に並んだ。自分の左から順番に、「お医者さんになりたいです!」、「お花屋さんになりたいです!」 どんどん迫ってくる。「パイロットになりたいです!」、「SM嬢になりたいです!」、「お菓子屋さんになりたいです!」、「SM嬢になりたいです!」、「SM嬢になりたいです!」 SM嬢多いなおい! とか冗談を言うヒマもなく自分の番が回ってきてしまった。そして私は言った「……動物園の飼育係になりたいです」 すぐさま先生が飛んできた。「あなたは、『道路工事のおじさん』 でしょう!!」 とすごい勢いで言われた。果たして私は卒園者の中で、たったひとり、自分のやりたくないことを言う人になってしまった。「道路工事のおじさんになりたいです……」 周りの反応など覚えていない。ただ下を向いていたのだけ覚えている。それがトラウマで、将来の夢を恥ずかしくて言えない子に育ってしまった。
そんな私も、今では立派な道路工事のおじさんです! んなわけない。