最初に日本へ来た頃、頭の片隅にずっと引っかかっていたことがあった。
荷物。
キャリーケース二つにバッグも二つ。
ほとんど人間引っ越しセンターみたいな状態で来たのに、それでも服が全部入りきらなかった。

結局、韓国の郵便局で大きな段ボール二箱に服を詰め込み、日本の家の住所を書いて船便で送った。

「一か月ちょっとくらいかかりますよ〜」

郵便局の人は言った。

 

この時までは気楽だった。私が日本に来たのは9月初め。
そこから怒涛の一か月が始まった。全部を一からやり直さなければならなかった。

 

銀行口座を作って、
電話番号を契約して、
家具を買って、
ゴミの出し方を覚えて。

 

毎日がミッションの連続だった。そうして大事なミッションを一通り終え、

 

「そろそろ慣れてきたかも」と思い始めた頃。
 

ふと、記憶の奥に追いやっていた考えが戻ってきた。

 

「あ…荷物。」

 

そして新たなクエストが始まる。

 

「これ…どうやって受け取るんだ?」

 

私が住んでいたのはオートロック付きのマンションだった。
誰でも入れるわけではなく、下で呼び出されたら部屋から鍵を開けないといけない。

 

でも私はインターホンの使い方が分からなかった。ベルが鳴ったら何を押せばいいのか。
インターホン越しに会話だけして、肝心のドアは開けない、そんな“門番”状態になってしまうんじゃないかと妙に不安だった。


異国の一人暮らしの家に、そうそう誰か来るわけでもないのに。

でも当時の私は真剣だった。

結局、実験をすることにした。

Amazonで一番安いタオルを注文した。
タオルが欲しかったわけじゃない。ただの宅配シミュレーション用アイテム。
その中で一番安く、なおかつ毎日使えそうな合理的な生贄だった。

 

さらに当時の日本語の先生に、インターホンの使い方も聞いた。

 

「ベルが鳴ったらここ押して、その次にこのボタン…」

 

完璧だった。これで準備完了。


私はもうAmazonの配達員さんを迎え撃つ準備ができていた。

 

…ところが。

 

ある日、外出から帰ってくると、注文したタオルが郵便受けの中に入っていた。ゲームオーバー。


ミッション失敗。

私が買ったタオルは思った以上に薄かった。
普通の郵便物よりは厚いけど、郵便受けには十分入るサイズだったのだ。

配達員さんからすれば、わざわざベルを鳴らす理由もなかったのだろう。

 

作戦失敗。

 

しかしここで、また新たな疑問と不安が生まれた。

 

「もし本物の荷物が来た時、家にいなかったらどうなるんだ?」うっすら聞いた記憶があった。


日本は韓国より、玄関前に荷物を置いていく文化があまりないらしい。

じゃあ私が留守だったら?私の服たちは?まさかまた海を渡って韓国へ帰るんじゃないだろうな。

妙に不安だった。

でも幸い、韓国から送った荷物は、私が家にいる日の夕方に無事届いた。

 

インターホンの音が妙に嬉しかった。
私は習った通りにぎこちなく操作し、なんとか問題なく荷物を受け取ることができた。

段ボールを開けた瞬間、不思議と安心した。

 

ただ服を受け取っただけなのに、韓国で暮らしていた頃の生活の一部が届いたような気がした。

 

…ところで。

 

野菜の貨物船にでも紛れて来たのか?

服に野菜の匂いがかなり染みついていて、数日間ずっと洗濯機を回していた記憶がある。