自民党よ、左傾化し保守の価値観から遠ざかるのか。少なくとも2つの案件が危険な兆候を示している。同性愛者など性的少数者(LGBT)への理解増進を図る法案と、中国共産党政府による重大人権侵害への国会非難決議だ。
LGBT法案では、元々自民党は「性的指向および性同一性に関する国民の理解増進に関する法案」を作成していた。
しかし、稲田朋美前幹事長代行が党の「性的指向・性自認に関する特命委員会」の委員長に就任した頃から自民党案の医学用語としての「性同一性」が「性自認」に変わり、自民党案になかった「差別は許されない」が入った。
稲田氏らが野党との交渉でまとめた「合意案」は「性的指向および性自認を理由とする差別は許されない」と謳う。
他方、右の箇所に該当する自民党案は「性的指向および性同一性の多様性を受け入れる精神の涵養」「寛容な社会の実現」と穏当な内容だ。
合意案は抽象的に「差別は許されない」とするのに対し、自民党案は多様性受入れの寛容な社会を謳っており、両案は根本的に異なる。
また合意案は当事者が自分の姓をどう認識するかの「姓自認」を重視するが、これは第三者の検証が及ばない事柄だ。検証不可能な事柄について、差別の定義を欠いたまま「差別は許されない」とし、法律違反の非難が発せられるのだ。
民主党政権下で成立しかけた人権擁護法案と本質的に変わらない。「被害者」が「差別」されたと感ずれば差別は認定され、「許されない」、つまり非難される。現に野田聖子幹事長代行は5月24日、「本人たちが差別だと感ずることについては差別だ」と述べたが、これは言論弾圧、報道の自由への抑圧につながるのは明らかだ。
私も将来を期待する稲田氏はなぜ変身したのか?
『実子誘拐ビジネスの闇』(池田良子著、飛鳥新社)が謎解きの端緒となるだろう。
極左の運動家が首相官邸や保守政治家に深く食い込んでいるとの指摘がある。左翼運動家が同じ政策目標に向かって協力する同志として接近を試みる例として自民党の森雅子前法相、野田氏、木村弥生党副幹事長らの名前がある。
自民党がいまだに中国非難を国会決議できないでいることに触れる紙面の余裕がなくなったが、自民党左傾化の背後に公明党や立憲民主党、国連NGO、日弁連などの強い影響が見て取れることは強調しておく。
目前の選挙を心配して公明党に過剰な配慮をし、全会一致の国会の悪しき慣例に縛られて野党にものを言えず、保守の保守たる立場を失うとしたら、それは大いなる間違いだ。
日本の価値観の神髄を守りながら新しい時代のより良い価値観を受入れていくのが保守である。根幹はしっかりと維持するものなのだ。それを忘れての左傾化ならば保守層の自民党への支持は着実に消えていくだろう。
(令和3年6月7日 産経新聞)