平成29年2月11日
内閣総理大臣 安倍晋三 殿
内閣官房長官 菅 義偉 殿
湯澤 甲雄 横浜市南区大岡3-41-10電話045-713-7222
<譲位「一代限り集約へ」に賛成>
2月7日付産経新聞「特例法大半 反発残る」参照。
同記事の一代限りの特例法の立場に立つ自民党坂本哲志副幹事長のご意見「全
ての天皇に退位を認める制度改正を行うことは、物理的時間的にも無理。先ずは
今上陛下のご退位の制度設計を静かに進めてほしい」に対し、全面的に賛意を表
明いたします。
この賛意の背景について、以下説明します。
私が賛意を表明する根拠は、現行憲法第1章天皇に関する条文が以下に説明
する通り、必ずしも永久に保障する国民の基本的人権に該当する条文になって
いないからであり、拙速を慎むべきであると思料するからです。
現行憲法はポツダム宣言第10項にあるごとく、帝国憲法において行われてき
た自由民主主義の回復を引継いで帝国憲法を改正し、新設の自由民主主義の原
理の下に公布され立憲されたものです。その原理の中核に据えられたものは憲
法が永久に保障するとした国民に対する国民の基本的人権です。即ち、憲法が永
久に保障する国民の基本的人権の具体的内容が定まり、憲法条文となって初め
て憲法が成立する仕組みになっています。
昭和54年国際人権条約(社会権規約、自由権規約)締結により、憲法が永久
に保障すべき基本的人権の法的骨格が漸く明らかになりました。それは、「家族
や共同体の人々が歴史的に形成してきた尊い習俗(Inherent Dignity、天皇制、
伝統文化、道徳、宗教、法律、領土等)並びに慈しみの心」であり、国が認定し
たものとされました。ところが、国会は憲法制定後33年経た今日も傍観して認
定せず、その具体的内容について法律化していません。従って、日本国憲法の中
身は軍事占領中と同じくもぬけの殻の法文を国会議決しているのであって、日
本国憲法の実態は法律とは言えない一種の宣言文に近い状態にあります。
ひたすらに世の中の安寧を祈る天皇に対して、国民はこれを有難く感謝の念
で受け止めて、天皇を国家の家長に崇め、天皇は国民と一体であるとの国民の思
い、換言すると、国民が歴史的に形成した尊い習俗としての天皇制という国民の
基本的人権についても、憲法条文から抹殺されていることを自覚すべきです。
憲法がこのような状態にある時に、憲法第1章に依拠して皇室典範改正等の
恒久的制度改正は、正に拙速にして避けるべきです。
一方、昭和21年憲法制定時におけるマッカーサー・ノートの第一原則とマッ
カーサー憲法草案第1条に対して憲法第1条の条文を照合すると、両者の間に
は巨大な乖離があります。また、マッカーサー元帥と日本国民の両者の思いが近
い関係にあるにも拘らず、マッカーサー司令部と日本の憲法制定委員が策定し
た憲法条文が、両者の間を切り離そうとしている様子が垣間見えます。
しかしこれらを明らかにするには相当な時間を要するので、天皇陛下のご体
調を考慮すれば、急ぎ解決すべきであると考えます。
上掲の乖離の問題について、以下に説明いたします。
1、マッカーサー・ノート第一原則との巨大な乖離について
昭和21年2月3日マッカーサー三原則が示されましたが、その第一原則は、
次の通りです。憲法条文はこの通りに創られるべきでした。
<The Emperor is at the head of the State.(天皇は国家元首の地位にある)
His succession is dynastic.(皇位は世襲される)
His duties and powers will be exercised in accordance with the
Constitution and responsible to the basic will of the people as provided
therein.(天皇の職務と権限は、憲法に従って宗教的儀式を行い、且つ、憲法の
定める国民の基本的意思に対して責任を負う。)>
しかし、憲法の規定は以下の通りです。
(1)天皇は「国家元首」とせず、「象徴」とされています。
(2)皇位は「連綿とした世襲」(dynasty)とされず、「天皇の地位は主権の存す
る国民の意思による」とされ、「dynastic」ではありません。しかも天皇
の地位を、連合国占領下にあって本来存在しない「主権の存する国民」に
依拠する虚偽規定を設けて、国民の意思で退位させる道を開いています。
(3)「天皇の職務と権限は、憲法に従って宗教的儀式を行い且国民の基本意思に
対して責任を負う」が抹消されています。神事は憲法条文とすべきです。
2、マッカーサー憲法草案第1条との巨大な乖離について
(但し、マッカーサー憲法草案の原本は、国会図書館にも国立公文書館にも保管
されておらず、外務省に秘匿されていると思われます。本文は、外務省公表の
ものであり、修正が加えられていると思われます)
<the emperor shall be the symbol of the state and the unity of the
people, deriving his position from the sovereign will of the people,
and from no other source.(外務省仮訳 皇帝ハ国家ノ象徴ニシテ又人民
ノ統一ノ象徴タルヘシ彼ハ其ノ地位ヲ人民ノ主権意思ヨリ承ケ之ヲ他ノ如
何ナル源泉ヨリモ承ケス)
これに対し、憲法の規定は以下の通りです。
(1)<天皇は、「国民と一体(unity)である」>という国民感情に合致した規
定が翻訳されていません。正しく翻訳されていれば、天皇と国民とは憲法上
役割を異にするが、両者は共に主権者となります。従って、後段の<
deriving his position from the sovereign will of the people, and
from no other source.>の条文は捏造文と思われます。特に天皇を三人称
で呼ぶことは、全く国民感情と相反し、基本的人権侵害であり無効です。
(2)「the emperor shall be the unity of the people,」は、「united kingdom」
「united states」と同様にして、世界に比類のない我が国の国情、換言す
ると「天皇と国民は一心同体」とする日本国民の伝統的感情に対する英語
の表現と理解します。天皇を三人称にして国民と対立させています。
以上