武田肇
2016年12月17日08時12分
政府は、支払いを保留していたユネスコ(国連教育科学文化機関)への今年の分担金を支払う方針を固めた。中国が申請した「南京大虐殺の記録」が世界記憶遺産に登録されたことへの反発を背景に、今年分を支払っていなかった。保留状態で越年した場合、国際法違反となることなどから、得策ではないと判断した。
複数の日本政府関係者が明らかにした。日本の今年の分担金は約38億5千万円。支払いはユネスコ憲章に定められた加盟国の義務で、年内に支払う必要がある。しかし昨年、「南京大虐殺の記録」が世界記憶遺産に登録され、自民党議員の反発が強まったことなどから、政府は拠出金(約7億7千万円)とともに今年の支払いを保留。拠出金については11月に支払った。
政府関係者によると、憲章の規定上は未払いが2年を超えない限り、総会での投票権は失わない。ただ他の加盟国に反発が広がれば、透明性向上など日本が主張するユネスコ改革が停滞するとともに、日本政府が新たに登録を目指す世界文化・自然遺産や記憶遺産の審査にも影響が出かねないと判断した。
また、分担金の分担率1位の米国が支払い停止を続けており、分担率2位の日本が保留を続けた場合、3位の中国が実質的にトップとなる。中国の影響力が増す一方、日本の発言力が低下する懸念があることも考慮した。
外交筋によると、ユネスコ事務局は、通常は日本が4~5月に支払う分担金が受け取れないため資金不足に陥っており、外部の借入金を増やしている。利子がかさめば、結果的に加盟国の負担が増加。今秋のユネスコ執行委員会では、名指しこそ避けたものの、分担金未払いの国に早期支払いを促す決議が採択された。
政府はこうした事情を勘案し、「年をまたぐと加盟国からそっぽを向かれ、日本にとってマイナス面が大きすぎる」(政府関係者)との結論に達した。
ただ、自民党内からは「ユネスコ事務局の対応に変化がないのに、支払う理由がない」という声が出ている。とりわけ日本が再三求めている、記憶遺産に登録された南京事件の記録公開にユネスコ側が応じていないことへの不満が根強い。日中韓などの民間団体が今年、旧日本軍の慰安婦に関する資料の記憶遺産登録を申請したことを受け、「圧力を維持する必要がある」との主張もある。
このため政府が分担金を支払う方針に転換したことは今後、自民側から反発を招く可能性もある。(武田肇)