お茶会の帰り道、京都の時代祭行列に偶然行き合わせて、その中で輿に揺られる

百済王明信に出会った小桜は考えた。

 

百済王氏のことを、もっとたくさんの人に知ってもらうためにボランティアの活動でお話を聴いてもらおう!

 

小桜は物語を創った。

 

 

桓武帝の御世に皇族が増えて宮中は栄えた一方で、藤原氏をも巻き込んだ

激しい皇位継承争いの嵐はその後も長く続くことになった。

 

そして、百年ほど過ぎた頃、伊勢物語にはこんな場面が描かれた。

 

 

皇族の狩り場、交野ヶ原で狩りを楽しんだ一行は、惟喬親王の別荘、御殿山の

「渚の院」で酒の宴を開いた。

 

桜の花びらがひらひらと舞い散る中、在原業平は一首、歌を詠む。

 

世の中に 絶えて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし

 

「これは、天皇になれなんだ、われの悲運に同情してくれはる業平どのが、世の無情を歌に詠んで、われの心に寄り添うてくれておるのやな」

 

と、惟喬親王は業平の優しさをありがたく思った。

 

「そうや、天の川のほとりに、歌を詠むにはちょうど良い所があるから、そろそろ

帰りながら、そちらに寄ってみようやないか?」

 

惟喬親王に促された業平らは、渚の院を後にした。

 

 やがて一行は、天の川のほとりに立ち寄って、そこでもふたたび酒宴が開かれた。

業平がまた一首。

 

狩り暮らし たなばたつめに 宿からむ  天の河原に 我は来にけり

 

惟喬親王は、うまい歌を詠まれて、返す歌が浮かばない様子だったが、

頭の中では、「さては、業平どの。ただ、この土地に言い伝えられている天の川の話に因んで、言葉のとおりに詠んだのやないな」と察っするところがあって、迷ったのだった。

 

そこで、お供の紀有常が気を利かして代わりに返歌を詠んだ。

 

一年(ひととせ)に ひとたび来ます 君待てば  宿貸す人も あらじとぞ思う

 

「『待っている人がおるのやから、あなたなんかに宿を貸すもんですか』

と、さては彦星は織姫に断られたんかいな?はっはっは」

すっかりいい酔い心地の業平は豪快に笑った。

 

「いやいや、『酔っ払っているあなたに宿を貸す人はいないから早く帰りなさい』と

いうことや」

 

と、酔っ払っている業平を連れて帰らなければいけない紀有常が、少々持て余し気味に、諭すように行った。

 

惟喬親王は

 

「『一年に一度でも、あなたが会いに来てくださるのをずっと待っていたのですよ。

私が宿を貸さないと思いますか?』 とも取れるな」

 

と昔ばなしに聞くところの、楠葉の継縄屋敷に桓武天皇が明信を訪ねて再会した場面を思い描いていた。

 

そんなふうに酒を飲みながら、歌で遊ぶのを楽しんだ一行は、「さぁ、帰ってまた飲み直そう」と水瀬離宮へと帰って行ったのだった。

 

桓武天皇と百済王明信、二人の真実は・・・天と地の、ふたつの天の川(天野川)だけが知っている。       

 

おしまい

 

 

深読み過ぎるかもしれないが、

もしかしたら・・・

 

幾つもの意味を重ねて歌を詠む、雅で洒落た言葉遊びをした平安人。

作者は、延暦十四年のあの日、桓武天皇が歌を詠み、それにお応えしなかった明信の、その場面の余韻を、百年ほど後の伊勢物語に、天の川のほとりの酒宴の歌として残したのか?

あるいは、本当にあった、花見の『はしご酒』の様子を日記のようにしたためたのか・・・。

 

千年を超えて、今、この物語を創りながら、『伊勢物語』を創った人のことを想う小桜だった。

 

 

 

お読みいただいて、ありがとうございました。