その時、小桜(さくら)はふと気になった。

「百人一首は天智天皇から始まる・・・。じゃあ、万葉集の初めの歌は・・・たしか雄略天皇・・・・。これにも意味があるのかな」

雄略天皇
はどんな人だったのだろう。調べてみた。
倭の五王のうち最後のが、雄略天皇とするのが通説。武が自ら「使持節都督 倭、百済、新羅、任那、加羅、秦韓、慕韓七国諸軍事安東大将軍」を称したけれど、宋からは、百済を除いた六国諸軍事安東大将軍とされた。七国の将軍を名乗ったのに、百済以外の六国の将軍だと言われた。その後朝貢を止めた。
小桜は、このことはどういう意味があるのだろうか、と考えた。
もしかすると、雄略天皇(ワカタケルのミコト)も百済から渡って来た人だったのだろうか。百済の漢城が高句麗に落とされた時、雄略天皇が能津の地を百済に与えて再興したと、何かの本で読んだ気がする。やはり、百済のために、倭国大王になった人かもしれない。
ヤマトに乗り込んで豪族や王族を次々に誅殺し、お妃を奪って周辺を攻略した? ワカタケルの鉄剣は埼玉県の稲荷山古墳と熊本県の江田船山古墳から出土されていて、ヤマトの権力基盤を拡げたことがわかる。
奈良時代の淡海三船は、「雄略」とは、「雄々しく略奪した」という意味で、漢風諡号を考えたのだろうか。
要するに、百済が孤立させられていて危険なので、は倭国大王を名乗り、百済を含めて東方七国の将軍として宋に認めて欲しかったのに、かなわなかった。
そこで、もういい!と宋に東方の将軍として認めてもらうというシステムを棄てた。倭国の王権を強化して、倭国を「百済を救う同盟国」にして、高句麗や新羅を攻めた。
それで、万葉集の巻頭歌は雄略天皇で、二番歌が舒明天皇・・・。二人の天皇の間は百年ほど離れているけれど、百済から渡って来て王になった倭王の歌を雄略天皇の歌として巻頭歌に、同様に百済から渡って来た百済王武王の歌を舒明天皇の歌として次の歌に。
百済王氏明信(くだらのこにきし みょうしん)さんの物語では、藤原不比等が亡くなる前の持統天皇に、万葉集を贈っていた。まるでアルバムのように。だから、天智天皇の娘として百済王家の血統に誇りを持つ持統天皇のために、百済王家とゆかりがあって、日本国以前の国造りをした重要な方を記念に残すようにしたのだろうか・・・。
雄略天皇の歌は「良家の娘だな。私はヤマトの国の大王だ。名も家も教えよう。結婚しよう」という歌。舒明天皇の歌は「このヤマトの国はいいなあ、これから私がヤマトの天皇だ」という歌だ。
 小桜がそんなことを考えているうちに玄関のチャイムが鳴った。
「おっと、やっとパパのお帰りだよ」
待ちわびていた愛犬の楓(かえで)が物凄い勢いで玄関に走ってお出迎えした。
 夫の新しい仕事は、一年半が過ぎて、順調で忙しそうだ。そもそも実績からすれば、夫の出向には、社外の人も含め多くの人が首をかしげたそうだ。
偉くなった人は皆、古代も現代も変わらず、手に入れた権力を守りたくなり、自分になびく人をそばに置いておき、自分を脅かす存在になりそうな人は排除する。忖度する部下たちは、嘘をついて、隠し事をしてでも、上司と自分の地位を守ろうとするから、イエスマンで囲むことになり、その結果、不祥事が起きて、社長や役員が記者会見で謝罪する、という事件が絶えないのだろう。今もテレビ画面ではそんな謝罪会見の映像が流されている。

昨年、夫が出向すると決まって、集まってくれた部下のうちのひとりが、夫が中座した時に小桜に向かって「惜しかったね。しっぽ振っといたらよかったんですよぉ」と言った・・・。

「そういうタイプじゃないから・・・ふふっ」
小桜は、しっぽをちぎれそうなくらい振る楓に、ソファーに押し倒されて、なめられまくって「やめてくれー」とあがきながらも案外嬉しそうな夫を見て笑いながら、心の中でつぶやいた。
「やっぱ、しっぽを振られたら可愛いのは仕方ないわ。吠えたら疎まれる。ま、島流しにされたわけではなし、これで良かったと思えることはいろいろある。うまくいっているわ。偉くなったらなったで、重役たちの権力争いが大変だったかも。この頃流行っている小説みたいに」
夫も楓も眠った後、小桜はリモコンの電源ボタンを押してテレビを消した。いくら待っても明信さんはテレビ画面に現れない。きっともう会えないのだろう、と思った。
 
翌朝。
「忘れ物はない?スマホ持った?」
「持ってる」

と、いつものように夫が出勤した後、

「ほんま、昔の人のように島流しにならへんで良かったわぁ。なぁ・・・」

小桜は抱いている楓に頬ずりして言った。
今日は大学の公開講座の日。家事を済ませて電車に乗った。

島流しと言えば・・・、藤原定家が選んで小倉山の山荘の襖絵にした
「小倉百人一首」の最後の二首は、後鳥羽上皇とその皇子順徳院。鎌倉幕府打倒の謀議「承久の乱」に敗れてそれぞれ、隠岐島と佐渡島に流された。

「大事なのは最初の三首だけじゃなくて、まだ謎が隠されているような気がするわ!」

小桜は、講座の後、図書館に寄って林直道氏の著書「百人一首の秘密」という本を見つけて借りて帰った。

つづく
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カメラ昨年3月、改装でしばらく休館になる直前に「百人一首の殿堂 時雨館」に行った時の写真です。嵐山渡月橋の向こうのこんもりした山が小倉山です。和菓子みたい😋