あれっきり何日経っても百済王明信(くだらのこにきし みょうしん)はテレビ画面に現れない。千年くらいずっと、誰かに打ち明けたかったことを、やっと言えたからすっきり気分が晴れたのだろうか。

「お礼もお別れもちゃんと言えなかったわ。もうずっと千年よりも前に死んでしまっている人なんだから、今ごろ、お別れを言うのも変かもしれないけど・・・」

小桜(さくら)は自分でも、おかしな話だと思ったが、やるせない寂しさがあった。テレビの内と外だけど、もう一度話したい。
それとも…あの時、地震にびっくりしてテーブルの下に入ろうとして頭をぶつけたのかな。本当はあの時気絶して、夢でも見たのだろうか。

「あぁ・・・もう、夢か現実かわからなくなってきた。夢じゃなかったら、お願い、もう一度だけでも逢わせて」

と、祈るような気持ちでテレビのリモコンを持って電源を入れてみた。
するとスタジオジブリ制作の映画、高畑勲監督の『かぐや姫の物語』が放送されていた。かぐや姫が少女の頃、木地師の幼なじみがいる物語になっていて木地師の家族の暮らしぶりが描かれている。
明信さんは小椋谷の木地師のことも教えてくれた。元は百済からの移民で、壬申の乱の落人、隠れ里の村人たちだった。
小桜は、木地師の仕事を「日本最古の家内工業である」と息子の社会科の教科書か資料集に載っていたのを目にしたことがある。木地師が山の木を切り、粗削りしたら、轆轤を回して削って滑らかなお椀の形にする。作った木地に塗師が漆を塗ると漆器になる。
漆器は英語で「japan」と言われる。なんと「日本」と呼ばれるわけだ。
 渡来人は、本当は、日本をつくった日本人。小桜が習った中高生時代の歴史教科書に書いてあったイメージとは実は違うはずだと、明信さんの物語を見せてもらってからそう思えてきた。
 その技術は、日本人が渡来人に「教えてもらった」技術ではない。正真正銘「日本人の技」であり、「日本」と呼ばれているんだ。きっと、そういうことなんだ…。
 それを、惟喬親王に教えてもらったことにしていいって言ってもらっていた。いろいろ事情はあるから、伝説も生まれる・・・。

そういえば、小桜の従弟が、今 韓国で仕事をしていて

「朝鮮半島には木を細工する技術がないんだなぁ、だから古い建物が味気なくてつまらん・・・」

とぼやくように言っていた。それを聞いた時、小桜は、

「新羅には木工細工をするような技術がなかったのかしら。そうだ、きっと百済人や、秦氏のような技術者集団が朝鮮半島からいなくなったから木工細工が無いんだわ」
と思った。その従弟は、木地師の姓を受け継いでいる。木の匠の技がないと味気ないと感じるのはやっぱり遺伝子のせいなのか・・・。遺伝子は反応するって聞いたことがある。

小桜は、そんなことも頭の片隅にありつつ、『かぐや姫の物語』を終わりまで観た。

「かぐや姫か・・・。そういえば、明信さんがテレビで見せてくれた物語で、藤原不比等が養女の宮子に『おまえは竹から生まれたんだよ』って慰めていたわ・・・
小桜は、パソコンを開いて竹取物語をネットで調べてみた。

「ええっと、・・・『竹取物語』は平安時代初期に成立した日本の物語。成立年作者ともに未詳。源氏物語に『物語の出で来はじめの祖(おや)なる翁』とあるように、日本最古の物語と言われるのね・・・ふ~ん、翁ねえ、・・・」

小桜には、藤原不比等の翁の姿が浮かんだ。漢字や文章が得意で当時最高にエリートだっただろう藤原不比等。

「石作皇子には『仏の御石の鉢』車持皇子には『蓬莱の玉の枝(根が銀、茎が金、実が真珠の木の枝)』右大臣阿倍御主人には『火鼠のかわごろも(焼いても燃えない布)』大納言大伴御行には『龍の首の珠』中納言石上麻呂には『燕の産んだ子安貝』を持って来させるというものだった・・・」

 さらに読むと、かぐや姫の出した課題に、揃って偽物を持ってきたという五人の貴公子にはそれぞれモデルがいた、とされている。石作皇子は多治比嶋がモデルだという説があるという。

「でも、石作はきっと鞍作がモデルだわ。鞍を石に替えて。『大和の山寺の仏の御石の鉢』を課題に出された人だから、仏教や寺を暗示している。だから蘇我氏ね。
中納言石上麻呂は物部守屋がモデルかな。『燕の巣の子安貝』を持って来るのが課題だった。燕は渡り鳥だ。物部氏一族は百済に何人も渡っている記録があるそうだ。子安貝は安産のお守りらしい。お守りと守屋の守・・・巣と屋・・・。そういえば、子安貝と安見児も似ている。偶然かな。
車持皇子は、藤原不比等に間違いない。車持与志古娘(くるまもち よしこのいらつめ)に育てられたから。
大伴御行には『龍の頸の玉』が課題に出された。でも、『頸』は変だわ・・・。鋭い牙でくわえた玉でもなくて、尖った爪で持った玉でもなくて、『 (くび )』ということは、ネックレスじゃあるまいし・・・。本当は、『おおとも』は『大友』皇子のことで、大海人皇子に渡された大友皇子の『頸』が、実は偽物だったことを暗示しているのかな・・・?」

大伴御行は対馬産の金を献上して関係者に褒章が与えられたが、後に、詐欺にあっていたことがわかったそうだ。
石上麻呂は壬申の乱の時、大海人皇子側について、その後右大臣となり、出世した実在の人だとか・・石上麻呂は大友皇子の自殺まで従っていた。 その後赦されて、天武天皇に起用されたのはその忠誠心を評価されたのではないか、というけれど、大友皇子の首が別人のものだったことを一番よく知っていた人物だったのではないだろうか・・・。

「この五人の、偽物を持って来た貴公子たち・・・。  出世した人は何かしら嘘を上手について偉くなっているっていうことを作者は風刺しているのかしら・・・。
それとも、作者が言おうとしたのは、蘇我氏と藤原氏には、隠された真実があるっていうことなのか・・・? 
 そして、歴史家としての良心をこめて、藤原不比等自身が創った物語のような気がしてきた。車持皇子こと藤原不比等が創った日本書紀に『偽り』があるっていうことこそを、後世に遺したかったの・・・? 」
 
掛け言葉のように、いろいろな意味の言葉が複雑に織りなされて謎かけをしているような気がしてきた。
 小桜は、明信さんに教わったことをいろいろ思い返してみた。
 歴史の真実を封印せざるを得なかった事情もあるけれど、それを時の流れの水底に光るキラキラ砂金のように何とかして後世に残そうとした人もいる・・・。
日本書紀、古事記、漢風諡号、竹取物語、伊勢物語、源氏物語・・・、どれもそういうことなのかな・・・。それから小倉百人一首も・・・


つづく

クローバーNHKの某番組のタイトルからちょっとお借りしました。ここはやっぱり「秘話」と言いたくて・・・陸奥で金を発見した百済王氏にちなんで、「水底の砂金」と言いましたウインク それもまた、NHKの別の番組でタモリさんが川で砂金を採るのを見て思いついたことなんですけれど笑い泣き