「そういえば、父上が大津宮で近江朝廷を建てようとした際、『日本』と名付けた理由を、
そなたなら分かっておるな」
「はい、その名の元は、『百濟』であると存じております。百済はその昔、元は『伯』という
国だったそうでございます。『伯』の字を少し変えて、ニンベンを一にして白の上に重ねると
『伯』は『百』になります。これが『百』でした。
それを、今度は『百』の『一』と『ノ』を取り、『日』の字を使う名前になされたようです。
『本』の字も『を簡単にして『済』、さんずいを取って『斉』下半分の縦と横の二本の線を
それぞれ一本に合わせて整えると『本』の字になります」

フヒトは道端の小枝を拾って、地面に字を書きながら話した。
「しかし、日本とは誰にも『日の本』と思われるでしょう。元が百済とはわからぬように隠して、
新しい国号を考えた父上のお気持ちを思うと、大変感慨深いものがございます。 
百済の名は形を変えて『日本』の中に残しつつ、唐や新羅からは百済の復活を悟られぬように、再び、侵攻されぬようにと心の底から願ったことと存じます」
「そのとおりや・・・」
「それにしても、この地、ヤマトは悠久の昔より、日出づる処、こそが、神が人をおつくりになられた故郷であると信じる人々が、世界からだんだんと寄り来て住み着いた土地と聞いております。『日の本』という意味でも、『日本』はこの国に相応しく素晴らしい国号でございます」

「この国の人々さえ、『日出づる本の国』の意味としか思いますまい。唐からも、新羅からも
この国は東にあって、日出づる処や、不審には思われまい」
「まさか、死んだように見せかけて、実はさなぎになっていた百済の国が、もっと大きく生まれ
変わり、『日本』という美しい蝶になって羽ばたこうとしておるとは、・・・」
「よその国の王も役人も、誰も、
気づかぬことよ、ほっほっほ」

 その時、フヒトは、ふと思いついたというような顔をした。

「陛下、神官から聞いたヤマトの昔むかしの話をいたしましょうか。お聴きいただけますか。」
「ほう、面白そうや、聞かせておくれ」

サララは甘樫の丘を下り、新益宮の方へ歩きながらフヒトの話を聞くことにした。

「はい。では・・・。」

フヒトのおとぎ話が始まった。

つづく
クローバーほんまでっか⁉笑い泣き
平家の落人に、苗字を「平」から「伴」に変えて隠れて住んだ村があったという話があります。
漢字を簡単にする逆パターンですが、物語に入れてみました。
ファンタジーですのでお許しください照れ