あの海を懐う。あの海を懐う。朝夕眺めた海を。小さな足をひたした海を。きらめきの下に赤や青の背びれがのぞいた海を。波に向かって舳先を垂直にたて漕ぎ出した海を。いい時も悪い時も海に向かって歩いていた。どんなことがあっても強くあろうとあの美しい海に懐う。『波の通い路』2003年 F10号