しかし・・・・
我が家は、結婚以来、
鍋物禁止
なのである!
このことを人に(もちろん日本人に)話すと、皆、一様に、
「え~~~~!気の毒に!!」
と、のけぞって同情してくれる(涙)。
私らは、新婚当初、夫の仕事のため、4年間京都で暮らした。
京都の冬の寒さは、ハンパでない。雪はさほど降らねども、盆地なので、底冷えが厳しかった。
寒さのキライな私は、実家から持ってきたガスヒーターをがんがん炊いた。そうしなければ、生活できなかった。
さて、冬があけると、夫のスーツ数着に、カビが生えていることを発見した。スーツにカビ、なんて、見たのは生まれて初めてで、仰天した。
「にほんは、かびのくにです。かびのくにです」
とカタコトの日本語で言いながらも、どけちでクリーニング代の支払いすら惜しむ夫は、烈火のごとく怒っていた。その原因も、私がガスヒーターを炊くから、ガスの燃焼の際、水分が出るせいだ、と決め付けた。
「だって、京都は寒いから、ガスヒーターがないと、身動きできないよ」
と、つたない英語で必死に抗議したが、受け入れてくれなかった。翌年から、ガスヒーターは一切禁止で、電気ヒーターと除湿機が必須アイテムとなった。冬だというのに、夫は、気が狂ったように除湿機を稼動させていた。
しかし、電気ヒーターなんて、ちっとも暖かくならない。私が、たまに、夫の目を盗んでガスヒーターで暖まっていると、彼は赤鬼のように怒り、「しまえ!」と命令した。
電気ヒーターなんて、ろくに暖まらない割には、電気代がひどくかかる。電気ヒーターに切り替えた初めての冬など、1か月の電気代がたったの(今思えば「たったの」と言えるのかもしれないが)1万円を超えただけで、どけちの夫はまた激怒し、私が家にいる時間が長いから電気代がかかるのだと言い、私に向かって「図書館かデパートに行っていろ!」とひどいことをぬかした。私はこの男、ぼこぼこにしてやろうかと思ったが、冬のさなか、頑張って外に出ていた(惨め)。
「日本では、冬に鍋料理を食べて暖まるのよ。鍋料理って、日本のソウルフードなんだから。鍋料理をしようよ」
と言っても、鍋料理の「な」の字も関心や知識がない夫は、
「だめ。湯気が出るから」
の一言で却下だった。
「そんなばかな、日本人がどれほど鍋料理が好きだか知らないからそういうことを言うんだよ。おいしいんだから」
と言ったら、
「だったら、そこでやってもいい。換気扇を『最強』にしてならいい」
と言って、台所のガスコンロを指差す。つまり、ガスコンロの上で煮て、湯気がもれないよう、換気扇を最強にして、湯気を外に出すようにしながら、ガスコンロのそばに椅子を持ってきて食べればいい、とかいう理屈らしい。鍋料理とは、食卓の上で煮るものだろうが。一体、どこの誰がガスコンロのそばで、音のうるさい換気扇をガンガン回しながら食事をするというのだ。あまりにバカバカしいことをほざくので、私は怒り心頭に達してしまい、この男、刺し殺してやろうかとも思ったが、所詮、食の貧しいアメリカ人に鍋料理を説いてもムダだと悟り、もう、鍋料理のことを口に出すのはやめた。
以来、我が家で熱い鍋が食卓に乗るのは、あいつが大好きなおでんを沢山煮て、それを鍋ごとテーブルに置くときだけである。もちろん、火の上ではなくて、テーブルに鍋しきをしいて、その上に置くだけである。
セントラルヒーティングがごく当たり前に普及しているアメリカ人からみたら、個々の部屋に暖房機を置いて暖める、なんてことが理解不能なのには同情する。日本は貧しかったから、家全体を暖める、という発想がなかなかできなかったらしい。だから、廊下とかトイレとかに出ると、同じ家でもぶるっと寒かったりするので、アメリカ人の旦那には、本当に不可解だろうと思う。
私は、かくして、国際結婚を選択したら、鍋料理は放念する運命になった。