そこで一つ、興味あることを学んだ。エレベーターが、管制室のある最上階まで通じていないのである。管制室の3階くらい下の階までがエレベーターの最上階だ。そこから先は、管制官であろうと国土交通大臣であろうと、ふうふう言いながら歩いて登るのである。なぜそういう構造になっているかというと、空港反対派などが管制塔に乱入した場合、その、登っている時間の間に、管制室のドアを閉め切り、外部からの侵入を完全にシャットダウンするためであると聞いた。
成田空港には、いまでも頑として立ち退きを拒む民家が複数ある。「何も、そこに住まなくても、よその土地に住んだほうがよほど便利でしょうに」という地点、つまり、必要な滑走路を建設できなくなるような地点に、民家がバラバラと、ただひたすら空港に抵抗することだけを情熱として、不便をいとわぬ生活を続けている。アメリカ人の夫は、
「なんで国の力で強制収用できないの?アメリカだったら当然の措置だよ」
という。私にも分からない。いきなり国の空港事業のために、先祖代々の農地を奪われた彼らの悲しみや恨みもわからないではないが、十数年の準備期間をかけ、1978年にやっと開港したあの空港の中に30年を超えて住み続けるのはいい加減にすべきだ。彼らが撤収しないゆえに、東西南北に国際便が滑走できるだけの十分な距離を持つ滑走路を建設できないでいるお粗末な空港が、日本の玄関口なのである。かくして、日本の航空行政は遅れをとり、韓国の仁川空港や中国の空港にもハブとしての地位を奪われている。言うまでも無いが、成田や関空の着陸料は、それらの空港に比べてはるかに高い。
今朝6時48分、FedEx機(MD-11)が横風にあおられて着地に失敗し、上下ひっくりかえった状態で炎上した。すさまじい光景だった。Captain(機長)とCo-pilot(副操縦士)は、コックピットの席にベルトで上下逆さまに固定された状態で(元々そういうベルトの構造になっているのだが)、顔などが黒焦げになって発見された。すでに心肺停止状態だったという。操縦席の後ろには通常DG(Dangerous Goods=危険物)を積んでいるから、即発火し、おそらく、機体の火災による焼死と言う以前に、回転の衝撃に加え、DGから発火し、その火か発生した気体にやられたと思われる。ご冥福をお祈りしたい。
(補足:その後の司法解剖の結果、キャプテンは胸の強打、コパイは焼死が死因と発表された)
MD-11機は、「風に弱い」「後ろに重心があって操縦しにくい」などの欠陥を言われていたほか、旅客機としては、あれこれ「いわく」があり、旅客機としては問題がありすぎるので、JALなどの旅客部門はこぞって売却したそうだ。が、貨物機などは、はっきり言って「飛べばいい」の世界なので、FedExやUPSなどの航空貨物会社は、そういう「いわくつき」の機体であっても、二束三文で買いまくったそうだ。マクドネルダグラス(MD)社は、同社が航空機の生産自体を停止する10年ほど前から、MD-11機の製造をとうにやめていた。MD社はその後、ボーイングに買収された。
今回の事故の主原因が「ウインドシア」なのか「ポーポイズ」なのか、果たしてどう判断されるか見守りたい。
しかし、私は、あの、空港内に頑固に点在し続ける、あの複数の民家にも原因を問いたい思いも一杯である。彼らが妨害していなければ、強風の際に着陸予定を変更できる国際線用滑走路を東西南北に十分設置できるのである。パイロット2名の命が失われたことを、彼らはどう考えるのか聞いてみたい。また、国土交通省も、この事故を機会に、反対派に対し、強気で折衝を開始して欲しい。成田はあのままでは空港と呼ぶにはお粗末すぎる。2名のパイロットの犠牲が、少しでも良い方向に生かされんことを。