ワーキングプアが深刻な社会問題化するにつれて、派遣という労働形態の是非が問われている。

私は、短い期間ではあったが、東京都内の某派遣会社の本社の正社員として働いたことがある。
夫の都合で京都に住んでいたその昔、東京と違って仕事がない土地柄で、やむなく、派遣労働者として働いた経験もある。東京に帰ってきてから何年もたったのち、奇遇にも、その派遣会社の本社社員として内勤の仕事を担当することにもなった。よって、派遣業界を、外からも中からもかじっている。女性社員が圧倒的に多いというイメージのある派遣労働者も、実際は男女比はほぼ同じだということもその会社で知った。男性が多くなってきたのは、日雇い派遣や工場などの製造に従事する人が増えたからである。

派遣という制度を原則全面的に禁止にする、というのは無理がある。単に、派遣の需要が多いだけでなく、世の中には、「組織に縛られたくない」「子供がいるので10時から4時で」「3ヶ月ごとに海外に行きたい」、などの個人的な希望を優先するため、あえて、フルタイム正社員やパートではなく、派遣で働く人も多いのである。そういう人たちにはまさにうってつけの就労形態といえる。特殊な技能を持っているので時給単価が高い人(同時通訳など)は、一般のフルタイム正社員くらいの年収は軽く稼ぐであろうし、自宅でできる特技(筆耕、翻訳など)を持っていれば、家庭との両立もしやすい。また、夫がきちんと稼いでくれる主婦が、家計の補助的に仕事をするには、スキルをなまらせないためにも最適であろう。

雇用主の立場からいっても、「明日1日だけ」といったド短期から、産休、育休、介護休業要員といったある程度の期間の欠員を埋めるには非常にすぐれた制度であるし、正式な採用手続きや社会保険加入手続きの必要も無く、あとくされもない。よくよく気に入れば正社員として雇用することもできるし、反対に、気に入らなければ、期間の更新をしなければ簡単に切れる。この簡便さゆえ、かつては、特定の専門分野(ポジティブリスト)に限って認められていた派遣が、産業界の強い要望に押される形で、原則、ある例外(港湾労働、警備、建設、医療の特定の部分で、ネガティブリストと称される)を除けば、どんな業種でも派遣可能なようになってしまった。

ワーキングプアの問題が発生しだしたのも、おそらくそのころからだろうと思う。要は、かつては、高度な専門スキルを持った人が短期間腕を発揮する制度だったのに、人件費が安く、切ったり増やしたりが簡単な労働者を、派遣会社を通じて簡単に調達する制度へ様変わりしたわけだ。
現在、社会で働く人の3分の1は派遣、バイトなどの非正規雇用だ、という。

秋葉原の25歳の男は自動車工場に勤める派遣社員、八王子の33歳の男は、犯行時には試用期間中の正社員だったものの、高校には1日も行かずに退学し、その後は職を転々としたという。
安定した正社員の職業に就けないから道をはずれるのか、はたまた、道を外れるような人間だから安定した職につけないのか。にわとりと卵でどちらともいえない。
しかし・・・・それらの殺人犯の話はさておき、かつて派遣会社の正社員として勤務した経験からすると、言っては悪いが、派遣スタッフには、全然使えない人、箸にも棒にもかからない人、救いようの無い人も思いのほか多かった。
なんと、東大法学部卒の登録スタッフもいたが、これまた使えない人で、仕事の依頼が来ないものだから、ときどき「何で私には仕事が来ないのか」と文句の電話があったけど、いくら学歴が高くても、仕事ができるかどうかは全く別の問題だということを実証したような人だった。また、なまじ東大卒だと、派遣などではかえってうとんじられる、とも言える。ネットでの相談でも、「うちに来ている派遣社員が働かないので(または、使えないので)困っている」という相談を時々見かける。派遣会社に対する批判も多いが、そういう、まともに就職の面接に行っても絶対採用されないタイプの人たちに、わずかでも就労の機会を与えてやっている、という功績は認められてもいいのではないか。

・・・・・・・・

ここまでお読みになって、アレ?昨日今日のニュースと比べて何かズレてるな、と思われたかもしれない。実は、上は、今年の8月に書きためておいた文章である。
それから4ヶ月以内に、金融不況が起こり、工場の作業員などをしていた派遣労働者が続々契約を打ち切られ、次の仕事も住まいのあてもなく、この寒空にホームレス化する事態に至るとまでは、想像もできなかった。
今日、35歳になる元派遣労働者が、コンビニ強盗で逮捕されたというニュースが出ていた。最近は食べ物もなく、水だけで過ごしており、所持金はわずか9円だったという。